---遠征前日

 「いいかい炎君。これだけは守ってほしいんだ！」

 「？何ですか？」

 志村から遠征の説明をけた後のことだった。いつにもなく真剣で真っ直ぐな顔で炎の顔を見る志村。炎も目を逸らさずしっかりと志村の目を見つめて聞いた。

 「相手が能力を使ってこない以上は絶対に能力を使っては駄目だよ！？」

 「それは何か理由が？」

 更に聞いてくる炎。志村は眼鏡の位置を直し口を開いた。

 「能力が使える人間とそうでない人間のは大きく違うんだ。もし能力者が無力の人間に攻撃をした場合、無力の人間は豆腐を崩すぐらい簡単に壊れてしまうのさ」

 「！？」

 その言葉を聞いて炎の背中に寒気が走った。自分がもしそんなことをしてしまったかと想像してしまったのだ。

 萬が一その鬼と呼ばれている存在が能力を使わないただの喧嘩の強過ぎるだけの人間だったとしたら…

 「まあ拳銃持った警相手でも返り討ちにしちゃうぐらいだがらハッキリ言って能力者ではあるだろうけど、一応そのことだけは頭にれておいてほしいだけだから」

 炎が黙り込んでいるとフォローを挾む志村。

 「そう…ですよね」

 炎も気を遣わせてしまったことに申し訳なさそうに志村の意見を肯定した。

 ---そして現在、鬼平と対峙している炎は彼が能力を使うのを待っていた。

 しかし予想は裏切られ鬼平は能力を使ってこない。

 (ひょっとして能力を強化する能力なのか？)

 炎は使うべきかどうか判斷に迷っていた。

 「オラァ！！」

 判斷に悩んでいる炎を他所に攻撃の手を緩めず木の棒を振り回す鬼平。

 (くっ、近づけないうえ能力も使えないのはかなりキツイな！)

 鬼平の攻撃を次々と回避する炎だが相手の懐まで近づくどころか後ろに下がっていくばかりだった。

 「ちっ、スバシッケーな～！なら…」

 舌打ちをする鬼平だったが次にとった行は…

 「オラァ！！」

 「ッ！！」

 なんと振り回していた木の棒を炎に向かって投げつけてきた。慌てて回避しようと試みるがその瞬間、鬼平は炎の懐にり込もうとしていた。

 (くっ、しまった！)

 「しゃあ！！」

 炎の前まできた鬼平は気合いの聲をあげると同時に回し蹴りをれる。

 「うおっ！」

 炎は反的に橫に跳んだ。回し蹴りは微かに炎の脇腹をかすめただけだったが鬼平は笑みを浮かべていた。

 「あまいな！！」

 「！？」

 回し蹴りで一回転した鬼平は走った勢いでそのまま前に進んでいたがその先にはさっき投げた木の棒がコンクリートの壁にを開け突き刺さっていた。

 「へっ！これは避けられるか！？」

 鬼平は突き刺さった木の棒を摑みそのままコンクリートの壁を破壊しながら橫に振り回した。

 「何！？」

 思わぬ攻撃に炎は驚きを隠せなかった。飛び散るコンクリートの破片が炎に向かって飛んでくるだけではなかった。

 (しまった！この距離は…)

 鬼平と炎の距離は5メートル圏。木の棒が屆く範囲に炎はいた。そのうえさっきの橫飛びでまだ足が地面についていなかった。

 「ぐうっ！！」

 炎は咄嗟に片腕を縦に構え防態勢にるが鈍い打撃音と骨の折れる音がその場に響いた。