それは直江がまだ吸鬼特捜隊にってすぐのころの話だ。

いつものように授業を終えて特捜隊の本部こと置代わりの教室にいくと一人のがいた。窓辺の機に突っ伏して寢ているようだった。

……だれだろう。

まだこの時の直江は特捜隊のメンバーを創設者である吾郎しかしらなかった。

けれどこの子は何度か學校で見たことがある。

確か名前は―――。

「立花　祭」

聲とともに彼はパチリと瞼を開けた。今起きたのか、それとも寢ているように見えてそんなことはなかったのか。

「あ、ぼ、僕は直江　有伍」

そう言ってぎこちない笑みを浮かべる直江。だが彼はすぐにまた機に突っ伏して瞼を閉じた。想の悪い子だなあと思った。けれど別に嫌なじはしない。

「おう、直江。來てたのか」と吾郎が教室にってくる。

「吾郎。この子も戦うの？」

「いや、祭は戦わない。ダメなんだ」

直江はそのダメという言葉を勝手に解釈した。

滅鬼師見習いとして相手にするのは大したことのないレベルの魔だが、それでも危険はつきもので命を落とす可能だってある。だからこんなの子には戦わせることなどできない。そういう意味だと思った。

だが違った。

カテゴリー３の重裝悪鬼兵を討伐してから一週間が経過していた。

奇跡的に攻撃をけた吾郎も四ノ宮も命に別狀はなく、脳震盪の影響があった四ノ宮は數日で回復し、骨にヒビがっていたはずの吾郎もなぜか完治。いったいどんなをしているんだと直江が驚愕したほどである。

それに吸鬼に捕まって廃校に捕われていたも無事だった。幸いなことに吸鬼の姿も直江達が戦闘を繰り広げる様子も目撃していない。何事もなく日常に帰ることができるだろう。

しかし良い話ばかりではなく、殘念なことに鬼をっていたイギリス系の吸鬼は逃走したまま見つかっていない。

おそらく他の街に逃れたのだろうと結論を出し、特捜隊は捜索を打ち切った。

この八坂という街に吸鬼特捜隊があるように、別の地區にはまたハンター數名からなる組織が配置されている。そもそもなぜ奴がはるばる外國から日本にやってきたのかという理由は、もう管轄ではないのでわからずじまいだ。

そして現在。吸鬼特捜隊の中で祭を除いた男子３名が雷名高等學校の敷地にあるトレーニング施設で筋トレに勵んでいた。

カテゴリー３の鬼に慘敗した結果をけ止めて、地道に力をつけようという吾郎の提案だった。三人とも制服からきやすい格好に著替えて、吾郎は２００キロもあるダンベルを持ちながらスクワット。直江は重りを両手足につけてランニングマシンに乗り、四ノ宮はなぜか隅で瞑想している。あまりにも浮いた様子の三人に他の生徒達は近づけない。

「そういえば……」と吾郎がスクワットをしながら零す。

「指名手配すればいいんだよな」

「え、なにが！？」と若干び気味に反応したのは息を切らしながら走る直江。

「だから。あの逃げた吸鬼だよ。俺達ハンターの間では報が回ってるけどよ。一般市民にも公表して、警察にも協力してもらえればすぐに見つかるのにな」

滅鬼師はあくまで影の存在。《本局》やハンターを育する組織はあるが、一般に公とはなっていないままである。噂では警察組織の上層部や一部の僚は認知しているといわれているが、どこまで本當なのかは定かではない。無闇やたらに魔の存在やそれを狩る者の存在を言いふらすだけで、《本局》からの処罰の対象になるとも直江は聞いたことがあった。

吾郎の話に直江はうなづいたが、四ノ宮は首を橫にふったあとバカにしたように「っふ」と鼻で笑った。

「まったく君達はやれやれだねえ。僕たちや魔の存在を公にする？そんなことをすれば大パニックさあ」

「でもよお。今だって人のを吸う化けが人間に混じって隠れてるんだぜ？黙ってたら被害者が増えちまう一方だろ」

あの逃げた吸鬼はこの街にいるバンピールとは違う。腹がへれば人を襲い、を吸って殺す。プロがこようがなんだろうがお構いなしに暴れる可能だってある。

「吾郎くん。君は魔狩りを知っているかい？」

「魔狩り？なんだよそれ。必殺技の名前か？」

「フランスやドイツで実際にあった迫害のことさ。魔と疑わしい者が次々に処刑された。それはもうひどかったらしい。悪い魔も、良い魔も、そして魔といわれた人間も、みんな殺された。人とは違う力があるという理由でね。いいかい？僕たち滅鬼師が狩る対象は人間を補食する天敵のみ。でもこの日本には人間でありながら普通とは違う力を持つ存在がいる。例えば僕がそうさ」

四ノ宮がシャツをめくるとちょうどの下あたりに不思議な印が刻まれてあった。

「これは僕の一族なら誰もが１５の時に浮かぶ刻印でね。一族の証みたいなものさ。僕ら四ノ宮のの中にはほんのしだけ異界の存在のが混じっているらしくてね。そのと寶刀我寫髑髏の二つが合わさって異界の扉を一時的に開くことができるのさ。つまり僕だって普通の人とは違うのさ」

前回の戦闘では我寫髑髏の不調により失敗したが、本來彼が繰り出す我寫髑髏はカテゴリー３と同じレベルの強さを持った巨大な骸骨を召還するものだ。

つまり、彼がその気になれば學校でそれを召還して生徒を皆殺しにすることも可能。

もちろん四ノ宮がそんなことをするわけがない。しかしそのような力を持った存在がいると知れば何の力も持たない一般の市民はどう思うのだろうか。

やられる前にやれと過激な思考を持った者がいないとも限らない。

「だからこの日本で魔狩りなんておこさせないために、僕らやその敵の存在は伏せられているのさ」

「ほー。ま、もし魔狩りみたいなことがあっても四ノ宮は大丈夫だろ。ちっちゃい骸骨しか出せないし」

「あれは違うのさ！あの時は調子が悪かっただけさ！きっと直江くんがベタベタと煩悩まみれの手でったから妖力が落ちたに決まっているのさ！本當ならあれの數十倍はある奴が出て……」

「はいはい」