事態は収束した。

カテゴリー３の重裝悪鬼兵を単獨で、なおかつ一月に二も討伐した祭はその功績を讃えられて、何らかの理由で停止中だった滅鬼師の資格は停止解除とされた。

吾郎、四ノ宮両名も同時刻にそれぞれ大量の死霊と戦、それを殲滅。吾郎にいたっては巻きこまれた一般人多數の救助も同時におこなったことから見習いで初の銀狼賞賞者に選ばれた。

銀狼賞とは滅鬼師の中でも特にめざましい功績をあげたものに與えられるもので、もちろんこれは彼のプロに上がるための試験の際に考慮されるだろう。

四ノ宮はそれに対して「そもそも一般人を巻きこんでしまった時點でアウトだと思うねっ！」とひがんでいたが、より修練に力をれて次こそはプロになろうと力をれているようだ。

そして………………僕はなんだ。

直江は道しるべを失いかけていた。

もちろん功績を讃えられていないという點に関しては四ノ宮と同じだが、そもそも直江は今回何もしていなかった。ただ傍観していただけ。それも裏切り者として。

僕はハンターでもない……かといって吸鬼の仲間としてバンピールの言うことも聞けなかった。

僕は何がしたいんだ。僕は――――。

バキャッと音がした

それはある日の夜。

まるで西瓜が割れたような音がした。

背後から頭部に一撃を喰らって、酔っ払いの男がよろめく。

「あ？」

夜道に後ろから襲われたのだ。そして頭から流もしている。本來なら逃げるのが正解だ。だが男はアルコールが回っているせいか正常な判斷ができていない。

「おいおまえ……あ、あぶねえだろそんなもん……振り回して怪我でもしたらどうす……」

剎那、男の顔面にそれが直撃した。

自分を襲った相手に説教を足れようとした男はそのまま意識を失い地面に伏す。

そんな彼の後頭部を再び兇が襲う。

何度も、何度も、何度も。

辺りは真っ赤なの海が広がった。

その中に一人黒いローブをにまとった者が立っている。

見るも無慘な姿になった男をそのままにして、そいつは去る。

ガガガッ、ガガッ。

兇を引きずる音が闇の中で響いた。

「いやあ〜。素振り２千回も慣れて來たし、今度からプール借りて水中で息せずに素振り５００回でもやってみるか〜」

とんでもないトレーニングメニューを語りながら吾郎が特捜隊の部屋にってくる。

時刻は夕方の午後５時を過ぎたところだ。

窓からはオレンジのがしこみ生徒の下校時刻まであと一時間ほどというところだ。

部屋の中には四ノ宮がいる。

何やら大量の紙に『気合』という文字を書き散らかしていた。

「おまえ……何やってんの？」

「こうやって気合いを文字にすることによって、メンタル力を高めているのさ」

もちろんこれは四ノ宮家に伝わるでも何でもない。

墨を筆につけてダイナミックに書いているが何の効果もない。

「これが僕なりの修行さ」

「お前さあ、もっと筋いじめて能力あげろよお」

そう言って部屋に置いていた鞄から水筒を取り出すとそこにプロテインのをれてシャカシャカと振る。

「吾郎くんのような筋おばけにこのメンタルトレーニングの重要さはわからな……」

吾郎にを向けた四ノ宮が墨の瓶に肘を當てて倒してしまう。

慌てて四ノ宮が瓶を元に戻すが機は墨にまみれ、さらに機からこぼれて黒いが地面に広がっていく。

おいおいと吾郎が近くの掃除ロッカーに手をかける。

だが彼が出そうとしたバケツと雑巾はロッカーの中ではなくその上に乗っている。

それに気づかず開かれたロッカーの中からそれは出てきた。

一本の赤刀。

吾郎がロッカーを開けた瞬間刀は倒れて、広がる墨に向かって落ちていく。

パシャリと墨が飛び散った。

「………なんだよこれ」

その刀は鞘に納まらずに、抜きのままだった。そしてその刃にはベットリとが付著している。

二人の攜帯が同時に鳴った。

本局からの連絡だ。

『當地域で殺人事件発生。異形との関係の有無を調査するように』

造刀についたの赤と墨の黒が混ざり合う。新しくできたはまるで混沌を表しているかのようなものだった。