『キュルルルルルゥ……』

赫く走った２つの眼玉がぎょろりと俺を向く。

俺は敵を睨み返し、カチャッと音を立てて右手に持つ拳銃の安全裝置を外す。

骸街SS

１時間前

Ｓ反政府組織の拠點アジトに潛伏した日の次の朝、俺はある選択・・・・をしていた。

「……最後のチャンスだ。生きて俺等と共に戦うか、はたまた死んで人生に區切りを付けるか。」

拓男が俺にそう問う。

「…………」

俺は答えない。決して選択に迷っているわけでは無い。選択を決めるか迷っているのだ。

「……俺をこの組織に加させる事でお前等はどんな利益を得るんだ？」

俺は最後に拓男にそう聞く。すると、拓男はやはり予想通りの返答をする。

「いや、単なる人員増加そのものが俺等反政府組織には直接の利益に繋がる。」

「そうか……」

どうやら俺は誰にも必要とされない人間らしい。じゃあ、死んでも誰にも文句は言われないだろう。

しかし、他人の文句と俺の選択は直結するものでは無い。選択。そんなものは試験テスト中に考えれば良い。

「小袋の中」を見る限り、どうやら俺がけるそれは俺の命そのものの未來を決めるものである可能がかなり高い。もしそうで無いとしてもその「小袋の中」で自殺すれば良いだけだ。選択を急ぐ必要は無い。

「分かった、テストをける事にする。」

俺がそう答えると、拓男はその表をぴくりとも変えずに答の意を示す。

「そうか、了解だ。」

そして拓男は俺を連れて談話室から出、階段を降りて行く。

地下３階ぐらいの所で拓男が廊下に出る。

俺も拓男に付いて行くと、拓男はある扉の前で立ち止まり、扉の鍵に鍵を差し込みながら指紋認証裝置か何かを使って扉を開ける。そんなにも厳重にすべきものが中にあるのか？

「さあ、れ。」

拓男の言葉の通りに俺は扉の奧へとる。その直後、部屋にった俺が目にしたのは「扉」だった。

しかし、それは今までの「扉」とは違う、まるで収容室のそれを連想させるものだった。いや、そもそも収容室のそれそのものなのかも知れない。

すると、拓男は「扉」の近くの監視モニターを確認した後に、近くに置いてあったバールを片手に取り、モニターの真下に設置されている機のPCをいじり始める。

その隙に俺がモニターをし覗き見たが、畫質が悪すぎる上に白黒だったので、室の詳細は・・・分からなかった。

「……なぁ、拓男。このモニター、何でこんなに畫質悪いんだ？」

「どこでどういているかが分かれば畫質なんて要らないだろう？」

「確かにな……。」

俺が拓男に質問すると、拓男はやはり予想通りの答えを返す。

すると、次の瞬間、「扉」の方からガチャッと音がした。拓男がそのPCでロックを解除したのだろう。

「さあ、れ。」

拓男は一言そう言うと扉を開け、俺を収容室へと押し込んだ。

そして、件の小袋を俺の後に投げれると扉を閉め、再度ロックを掛けた。

「……仕方ないな……。」

俺は小袋の中から拳銃を取り出し・・・・・・・、弾を裝填する。

電燈１つもない収容部屋の床を俺が１歩歩く度に、手に持つ拳銃がカチャッと音を立てる。

し遠くで生と思われる「何か」が鼻息を立てているのが分かる。俺はゆっくりと歩きつつ、その「何か」に隙を見せぬ様に、他方向も警戒しながら常に気配のする方向を向く。

「……さあ、出て來い。」

俺が「何か」に向けて放った言葉が、真っ暗な収容室の中でこだまする。

その次の瞬間だった。

『キュルルルルルッ……』

気配のする方向からの鳴き聲の様な、ある種の「聲」が聞こえた。

どうやらその「何か」は人で無い・・・・存在の様だ。

次の瞬間、暗闇から何か太いが視界に迫って來る。

ドゴォッ！！！

俺はそれをすんでの所で避け、拳銃を構えて敵の姿を確認する。

今俺を攻撃したのは間違いなく「人型」の何かだった。しかし、「人型」と言っても、その要素はから頭と腕と足が人と同じ配置で生えている點しか見當たらない。

「何か」の用紙を細かく説明すると、まず長は約２m、型は満で中にの１本も生えていない緑白いからは、やけに短い腳と、本來手がある筈の場所が二の腕と同じ位の長さとそれ以上の厚さの「鎌」の様になっており、腕全を見るとまるで蟷螂のそれに見える。そして、極め付けはその頭部。橫から見たら鳥や蜥蜴の様に三角型をしているその頭部には、その側面に赤くる眼があり、鼻や口はなくとも「本來位置すべき位置」には無く、脳はどこにあるのか、代わりに頭がぱっくりと割れて中には沢山の牙とカメレオンの様な舌が覗いていた。

要するにこれは化ばけものだ。拓男の言っていた「テスト」とはこれのことだろう。

『キュルルルルルゥ……』

赫く走った２つの眼玉がぎょろりと俺を向く。

俺は敵を睨み返し、カチャッと音を立てて右手に持つ拳銃の安全裝置を外す。

パァンッ！

しかし、化が次の攻撃制に移る前に俺は拳銃の引き金を引いていた。

『ギィアアアッッッ！！！』

銃弾を頭部に喰らった化は劈く様な悲鳴を上げ、すぐに床へと崩れ落ちる。

「……死んだか。」

いや、死んだ振りなのかも知れない。念の為に化の頭に殘りの拳銃弾を全て喰らわそうと俺は拳銃を構える。

「……恨みは無いが、一緒に死んでくれ。」

パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！　パァンッ！

俺は何をじたのか、最後の銃聲が一際大きく響いた様にじた。

「…………」

そして、俺は拳銃に弾を１つだけ裝填し・・・・・・・、自の頭に突きつける。

「……ごめんな……。」

指が引き金にれる。これに力を加えれば、俺はまた・・會う事ができる。その為には一瞬の苦痛などは無視もできよう。俺は生きてはいけない人間だ。俺は生きる事を拒んだ人間だ。さっさと死のう。

ーー　お前が死んでも誰にも會えないぞ　ーー

その瞬間、俺の中である男の言葉が過った。

「……はは……戯言を……俺がどれだけ……」

頭ではそれが所詮は他人の価値観であるとは分かっている。しかし、分かっているのなら、なぜ俺は引き金を引けない？その答えは簡単かつ難解だ。最期の決斷を突き通し、戯言を振り払って俺は指に力を込める。その瞬間だった。

『キュルルルルル……』

聞き覚えのある聲が収容室に響き渡る。それと同時に目の前で起きてはいけないものが起き上がる・・・・・・・・・・・・・・・・様子が視界にる。

「い……生きて……！？」

チッ……化らしい再生能力だな！しかし、そう何度も耐えられないだろう。そんな思の元に俺は拳銃の裝填を急ぐ。

『ギィアッ！！！』

しかし、突然化がそのずんぐりとした型からは想像もつかない速度で俺に向かって走って來る。

そして、俺は反応する間も無く、大きく振られた化の腕を腹でもろにける。

「がはっ……！？」

次の瞬間、突然背中に衝撃が走る。化に吹き飛ばされた俺は、ハードランディングせずに収容室のい壁に叩き付けられたのだ。から反吐がこみ上がるが、骨折は肋骨數本で・・・・・済んだみたいだ。

『キュルルルルルルル……』

「ぐぅ…………」

中に走る激痛のせいでその場からけないでいる俺を嘲笑うかの様に、化は２つの赤い眼球をぎょろりぎょろりと蠢かせる。

そして俺の視界は、迫り來る化を映したのを最後に暗転した。

「………な…いの……？」

何も無い空間で薄らと殘る意識の中、俺は聞き覚えのある聲を聞いた。

「………なないの……？」

何度も聞こえるその聲は、どこか溫かい気持ちを作り出してくれた。

「……しなないの……？」

そうだ、俺は死のう。いい機會だった、拓男に謝しなければ。

「……早く死のうよ、孤白。」

「……分かってる、これから死ぬよ。瞳……。」

俺は懐かしいその聲に喜びをじた。ああ……これで死ねる……。

「……でも、孤白は本當に死ぬの？」

「……は？」

俺は一瞬思考が停止した。一瞳は……俺が死ぬのか生きるのか、どっちをんでいるんだ？

「……中田瞳はもう死んだ。本・・が存在するのかは知らないけど、私は本じゃない。ただ君の選択を助けているだけ。」

ああ……そういう事か……。俺は瞳を夢にまで見る程になっていたのか……。

「……俺は死ぬ。お前の本がそうんだ訳では無いだろうが、俺は……瞳おまえ無しでは生きていけないんだ。」

俺は擬似瞳にそう告げる。何がどうあれ俺は生きる意味を失った。死ぬしか無いのだ。しかし、擬似瞳は予想外の言葉を返す。

「……生きる意味を失った……そんな事で死ぬ程孤白はバカだったっけ？」

「……は？」

……こいつは何を言っているんだ……？

「生きる意味が何なのか、それは死ぬまで分からない。それに、それを減らす事が出來るなら増やす事も出來るに違い無い。１回分の人生全てから得られる最終結果を途中で求め様とする程、君隅川孤白は愚かだったかな？」

その瞬間、薄らとした意識の中に突然が差し込んだ様にじられた。

そうだ、何を言っていたんだ俺は……。奴等に復讐するんだ……。ここで死んだら奴等の思う壺だ……。俺はこのまま塵にはならない……！

「…………俺は……俺は……俺はァ……！！！」

が差し込む「」を必死になって素手で広げる様に、俺は１つの答えを出そうとする。

「……そうだよ、孤白。君は……」

「……そうだ、俺は……俺は……」

そして、意識中の無の空間すら吹き飛ばす程の聲と共に俺は「眠り」から醒める。

「君は！」

「俺は！」

遠のく意識の中、俺はぶ。

「「生きる復讐するんだよ！」」

『キュルルルルル……』

化は目の前の獲を凝視する。もうかないかどうか確かめる為、腕を思い切り打ち付けるが、獲は何の反応も見せない。

グパァッと口を開け、化は長い舌を獲の顔へと向け、ばして行く。

次の瞬間だった。

ザンッ

突然化は眼の前にびていたはずの自の舌を見失う。しかし、次の瞬間、その赫くる眼に何も映らない程の激痛が化の舌に走った。

『ギェェェアアアェァアァェェェッッッ！！！』

のたうち回りつつも舌を再生する化の目前で獲・・は立ち上がる。

「近くに小袋があって良かったぞ……。さあ、反撃の時間だ。」

『ギィエエエァァァ……』

憤怒のに染められ、より一層赫くなった眼が俺を睨む。

俺は意識が戻った瞬間、化の意識の隙を見て偶然近くにあった小袋から、＂もう１つの中＂であるナイフを取り出した。そして、化の舌をナイフで斬った訳だ。

『ギィィィッッッ！』

化が俺へと突進するが、俺はそれを橫に避ける。俺へと向き変えるより先に化は素早く腕を振ったので、瞬時に低姿勢になって避ける。

それにしても隨分怒るな……。舌斬られたらそりゃ痛いか。まあ、そんな事は今はどうでも良い。

「うらぁッ！」

チンピラみたいな聲と共に俺は化の左腕の鎌に蹴りをれる。すると、一瞬だけ左腕の攻撃が止まるので、今度は右腕を摑み、それを全力で捻る。

『ギァアアアァッッッ！』

右腕の肘関節を破壊された化は大聲で泣きぶ。次の瞬間化が闇雲に左腕を振り回し始めたので、俺はすかさずその場を素早く離れ、化と距離を取る。

「……ふぅ。殺せない相手では無いのか……。」

そう呟きつつ俺はすぐに拳銃を広い、裝填を済ませる。そして、それを化へと向ける。

パァンッ！

ガキィンッ！

『ギェェアアアッッッ！！！』

拳銃弾が化の左腕の鎌部分に命中し・・・、金屬の様な音を立てる。それを自分への挑発と捉えたのか、化が怒る様に聲を上げる。しかし、これで奴の鎌がどれだけ「い」のかが分かった。

『ギィッ！』

化がまた突っ込んで來たので、俺はそれを何とか躱し、拳銃を化の後ろ姿に向けて発する。

パァンッ！　ビチュッ

拳銃弾が命中した化の背中からはが吹き出すが、すぐにそれは止まり、傷口が塞がってゆく。拳銃弾一発の再生時間は大５秒程度か。

「……まあ良いさ。銃弾だったら・・・・・・の話だろう？俺も死ぬ気で殺りに行くさ。」

俺は化をじっと見據えてそう言い、右手に拳銃、左手にナイフを逆手に構える。

『ギァッ！』

化が駆け出し、その勢いのまま左腕を俺の方へと突き出す。俺がそれを右側に避けると、化は急停止し、を回転させる形で腕を振り回す。

パァンッ！　ビチュッ

『ギィィィ！』

俺は化がを回転させた後の一瞬の隙を突き、その頭を拳銃で撃ち抜く。

『ギィエエエァァァ！』

化は怒りを示す聲を上げ、俺へと當たりを試みる。人間同様頭への攻撃は有効らしい。

ドゴォッ！

前方に振られた化の左腕に鈍い衝撃が走る。腕が獲孤白を捉えたのだろうか。

いや、何でも良い。化は力一杯鎌部分にれているを吹き飛ばし、先程同様壁に打ち付けようとする。しかし、その直後、化は目を疑った。

『……ギィッ？』

＂本來吹き飛ぶ筈の＂がいつまで経っても化の眼に映らない。化がその理由に気が付いた時には、もう遅かった。

「………捕まえた……ッ」

俺は「死ぬ気で」化の鎌にしがみ付き、手に持つ拳銃を捨てる。

……さっきの骨折も相まって滅茶苦茶痛い。だが、今はそんな事を気にしている場合では無い。

そして、化が狀況を理解して追撃を行う前に鎌の上に・・素早く跳び乗り、最後の力を振り絞って化の左腕の上を走る。

俺は走りながら左手に持つナイフを右手へと放り投げる形で渡し、順手に握る。

『ギィィィエエエェェェッッッ！！！』

化が何とか俺を腕から落とそうと再生した右腕で俺へ攻撃しつつ左腕を上下左右に振り回すが、問題は無い。

振り落とされる前に俺は全力で化の左腕を蹴り、右手のナイフを突き出して前方へ跳ぶ。そう、この一撃で全てが決まる！

『ギェェアアアッッッ！！！』

「刺されぇッッッ！！！」

その瞬間、俺の中に鋭い痛みが走る。走っている途中に化が必死に振り回した右腕が俺の脇腹を抉ったらしい。戦闘に夢中で気付かなかったのか。

「……しかしな……。」

『ギィッ！？……キュルルルルルルル…………』

化はき聲を上げながら、先程よりゆっくりと床へ崩れた。

化が俺のを抉った時、俺もまたナイフの一撃で化の口を貫いたのだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……流石に疲れたな……。」

橫になっている化の口からは、刺してから數十秒経ってもがどくどくと流れ出ている。

「……俺は……生きるぞ……。」

誰も居ない空間に向けてそう告げた後、俺は床に大の字になって眠りに就いた。

【５話へ続く】