《No title》30.才能’’庭番’’~人攫い目線~
「庭番と用貧乏には注意しろとの事でしたが...」
足元でぐったりと倒れている庭番に目を向ける。
私の毒をけたのだから當然と言えば當然だが、彼はピクリともかなかった。
「思いのほか早く片付いてしまって殘念です。もうし手応えがあるものと思っていました」
誰に言うでもなく呟いた聲は、靜かな森の奧へと消えていった。
(夏の日差しが暑いですし、早めに終わらせてさっさと帰りますか...)
庭番に背を向け、ゆっくりとを目指す。
塞がっている口の目の前まで來た時、全のが逆立つような悪寒が走る。
原因を考えるより先に、本能的にその場を離れた。
思わず出かかった舌打ちを抑え、再び戦闘態勢にる。
「縄で縛っておいた方が良かったですかね...」
私の向ける視線の先には、先程までピクリともかなかった庭番が確かに立っていた。
しかし、さっきまでとは全てが違う。
別人のような隙のなさと気配。
隠す気がないように見える悍ましい殺気。
心ここに在らず、とでも言うような虛ろな眼。
「どうしたんですか庭番?先程までとは隨分変わった様子ですが」
「・・・・・・・・・」
私の問いかけに彼は無言を貫いていた。
虛ろな目からはを読み取ることさえできない。
まずはしっかり観察しようと彼を見ていたつもりだったが、目にも止まらぬ攻撃に阻まれる。
奴の才能は主を護る時のみ本領発揮されるものではなかったか…?
これは才能の暴走...?
それとも私の報不足...?
いやそんなはずはない。
だとしたら一これは何だ...?
余裕のない頭で懸命に思考を巡らせるが、一向に答えは出てこない。
さっきよりずっと重く、早くなった剣をギリギリのところで捌き続ける。
そんな時
ドォォォォォン!!
の方から轟音が鳴り響いた。
側から巖を破壊したのであろう用貧乏が、一人のを連れて立っていた。
「これはまずいですかね...」
今の庭番でも手を焼いているのに、用貧乏まで相手になってしまえば私が勝てる確率は著しく下がる。
この場から撤退する事を本格的に考え始めていた時。
バタッ...
突然のことに頭がついていかなかった。
目の前で庭番が倒れている。
私を圧倒していたあの庭番が、ぐったりと倒れている。
エネルギー切れ...?
「理由は分かりませんが助かりました」
今度こそ一切の油斷をせず、鞭を持つ手を大きく振り上げた。
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