《その數分で僕は生きれます~大切なを代償に何でも手にる異世界でめに勝つ~》プロローグ3
 後日、期待通りの結果になった。神奈は黙ってくれてたようだった。
 変わらない日常。今日も毆られ、今日も笑われ、今日も苦しむんだ。
 これでいい、これでいいんだ。傷付くのが僕の仕事だ。傷付くのは僕の役割だ。
 そんな事を思っていると時々、考えることがある。もし、もしも、僕が傷付くだけで皆が幸せになれる世界があったらどれだけ幸せだろうか、と。
 『…………………』
 何か聞こえた気がした────気のせいだろうか。
_______________
 僕は現在、屋上にいた。
 
 分かる人には分かるだろう。遂にめはここまで來たのだ。
 『とーべっ! とーべっ!』
 千二百名の生徒は校庭で、はたまた僕と一緒に屋上で、息を合わせてそんな事を口ずさむ。
 「出來ません……死ぬ事は出來ません……他なら何でもします!」
 
 「うるせーんだよっ! さっさと飛べよ!」
 もう。神奈の為とか彼等は思っていないだろう。腹いせだ、ストレス発散だ、僕は言うなら皆の神安定剤だろう。
 「飛べません!」
 
 全ての人間が僕を憎み、僻み、恨んでいたなら、僕が死ぬだけで誰も悲しまず、苦しまず、救われる世界があればどれだけ幸せだったろうどれだけ簡単に飛べた事だろう。
 ──だが、大切な人がいる。大切な約束がある。それが僕の足を重くするんだ。死んじゃいけないと。
 『お……しょうた……』
 誰かの聲が聞こえた気がした。いや、今はそんな事はどうでもいい。今はこの苦境をどう凌ぐかだ。無駄に言葉を発すれば逆効果だろう。
 「さっさ飛べよ!」
 「なにしてんのー! 待ってるんですけど」
 「度なさすぎー! ワロタ」
 死ぬ為の度──そんなが出來てしまったら、それはもう人間とは呼べない。そんな気がした。
 生きたいと言う思いが止まらない。約束も、大切な人も、全てが生きろと言っている。そんな気がした。
 『おいで、黒田將太』
 次はハッキリと聲が聞こえた。子供の聲だった。僕より一回りくらい小さい。
 四階の屋上から辺りを見渡したが、それらしき人影はない。
 その時だった。強い風吹き荒れ僕の肩を押した。
 ──あっと聲を上げる暇すら無かった。僕のは風に煽られ、大きく重が後ろに逸れる。立て直すことはもう不可能だった。そのまま地面に真っ逆さまだ。
 ごめんなさいと復唱し続ける。約束も、大切な人も、全てを破り、悲しませる。
 こんな終わり方をするなら、もっと優しくすれば良かった。強く生きたかった。人を助けたかった。後悔が溢れ出して止まらない。
 僕の目から久しぶりに涙が出た。これもまた止まらない。
 零れた涙達は僕を置いて遠くへ行ってしまう。いや、僕が遠くに行ってるのか。
 僕はこうやって一つの約束守れないのだ。さちと誓った、約束さえも守れないのだ。
 ──死にたくないとび続ける。落ちるまで、奇跡に相応しいものだとしても、死にたくないと。
 『おいで、黒田將太!』
 意識がそこで途切れた。
_______________
 
 
 僕が目が覚めた空間は、暗くて、寒かった。辺りを見渡しても目を閉じている様な闇、闇、闇。
 死んだのだろうか。
 「殘念! 黒田將太君、君は死ぬ事すら葉わなかったんだよ! いや、君達はかな?」
 先ほどの子供の聲が聞こえた。
 心が読まれた……?
 何が起きているんだろう。君達、死ぬ事すら葉わない。意味が分からない。
 「ふふっ、狀況が理解出來てない様だね! 黒田將太君! 僕は君に惚れたんだ! 君の自己犠牲の神に! だから、僕が君に、否、君達に何でも手にる力をあげるよ! 勿論、代償は頂くよ!『君達がんだ自分』って代償をね! 」
 やっぱり分からなかった。
 「うーん、これでも駄目かー。そうだね。質問とかある?」
 僕は死にましたか
 「答えはNOだ。言ったろう? 君達は死ぬ事すら葉わなかったと」
 貴方は誰ですか
 「君たちが言うところの神様かな? 悪魔と呼ばれることもあるけれど基本的に神様だね」
やっはり、僕は死んでいるのではないかと不安になる。
 君達ってどういう事でしょうか。
 「ふふっ、じゃあ始めようか。」
 その言葉と共に一斉に電気がついたように辺りが一面明るくなった。そこは、白に白を重ねて、それでも飽き足らず、また白を塗った様に真っ白だった。一切の曇すら無いので、どこまで続いているのか分からなかった──どこまでも続いている。そんな気さえした。
 そんな中、僕は目の前に広がった景に驚きが隠せなかった。
 目の前には全校生徒、千二百名がいた。まだ、寢ているものもいれば、訳もわからず辺りをキョロキョロ見渡す者もいた。
 その中には、神奈の姿もあった。
 「ここどこ?」
 「拉致? 記憶が無いんだけど……」
 そんな中、神は言う。
 「お前達はこれから異世界に行く」
 神は言う。
 「お前達は大切なを代償に何でも手にる」
 神は言う。
 「強く生きて」
 「僕からは以上だよ! さぁ、異世界に行く為に生贄を頂戴! の一部でも記憶の一分でもいい! 君達の大切なものを分けておくれ!」
 「それが君達の最初の力になる。」
 
 誰もこうとはしなかった。皆、固まっていた。無理もない。いきなりそんな事言われたって頭が追いつく筈がない。
 だが、一人こちらを見て不敵な笑みを浮かべる人影があった──睦だ。
 「生贄かぁー。もう適材がいるじゃねーか」
 「そ、そうね」
 「生贄は黒田でいいじゃん!」
 皆は遊び半分で、生贄と言う言葉に反応する。
 分かっていた。こうなる事は、遊びだとしても、本気だとしても、結果は変わらない。
 
 「神様ー! 黒田が生贄でー」
 「待って! 僕は死ねないんです!
 腕の一本や二本ならいくらでも生贄するから」
 
 「いいぜ、じゃあ左腕生贄にしろよ」
 「ちょっと待って……」
 神奈が止めようとしたが、僕は目で威嚇するとそれが伝わったのか、神奈は再び口を塞ぐ。
 「分かったよ。神様僕はどうすればいいですか?」
 「うん、皆ー! これからよく使うことになるだろうから覚えておくんだよ!」
 「我が『大切な』を捧げる。神よ『しい』與え給え。これで出來る! でも、等価換だから大切なとしいが等しくなかったら不合が起きるよ!」
 不合とは何だろか。不合は何を指すのだろうか。バランスが取れないほど不合は大きくなるのだろうか。全てがあやふやだった。
 「だってよ! さっさと言えよ!」
 僕の左腕だけで生きていけるなら本だ。そう思うことにした。慣れてしまった。痛みに苦しみに。
 「我が左腕を捧げる。神よ力を與え給え。」
 その言葉と共に左腕が跡形もなく消えた。本當に消えたのだ。塵一つ殘さず、しぶきをあげて、無くなった。切り口からは激痛が走る。
 「アアアアアアアアアアアア!!!!」
 痛みは熱さに代わり、僕を支配する。
 
 ────痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い!
 痛みで、熱さで考える事が出來なかった。そんな時でさえは溢れる。急いで服を引きちぎろうとするが片腕ではうまく出來ない。それに加えて痛みもあり、手がおぼつかない。
 ──痛い! 熱い! 痛い! 熱い!
 「えっ……」
 皆は冗談半分だったこともあり、本當に消えた事に驚きが隠せない様だった──ただ一人を除いては。
 睦は大きく口を開け笑っていた。
 それに釣られるようにみんな笑い出す。狂っていた。完全にイカれている。
 時々、何故、僕はこんな事をしているだろうと思う。何も報われない。誰にも求められない。結局は一人で戯れ言ばかり増えていく。
 僕がやっている事は正しいのか。もっといい方法があるのでは無いか。こんな思いをしてまでやる事なのか。これが、強く生きる事か。これが、人を助ける事か。
 そんな事が頭を駆け巡る。
 「アアアアアアアアアアアアアアアッ!! うぐぐぅ……」
 服をいで左腕の切れ目にそのまま當てる。それぐらいしか思いつかなかった。取り敢えず止しなければ。
 「安心していいよ。黒田將太君。君が出した左腕ならその程度の傷すぐ治る。左腕は戻らないけどね。」
 そんな中、神様は笑っていた。なんで神様は笑ったいるのだろうか。神様の心が読めなかった。
 「さて、準備は整った。さぁ、存分に生き抜くがいい。」
 そう言うと地面が崩れ出し、再び、僕のは空に投げ出された。
 「強く生きろ、黒田將太」
 意識が遠のく中、神様が何かを言った気がしたが上手く聞き取れなかった。  
_______________
 とある教會。
 肩までびた。艶のある銀髪は、し空気を含んでいた。所謂、ボブと言うやつだ。細い眉に、高すぎない鼻、白く済んだ。し垂れた目は、彼の優しい格を表しているようだ。一言で言えば人だった。
 そんな彼は十七歳にして十數日後死ぬ事が既に決まっている。
 自己犠牲の象徴である黒田將太と彼が會うのはそう遠くない話である。
 彼は願う。
『神様、どうか……どうか、私が最後の生贄になりますように……』と。
 
_______________
  
 「ふふっ! 見込み通りだよ。黒田將太、腕を差し出した人間はこれが初めてだよ」
 神様は笑いながら語る。
 「さぁ、黒田將太、存分に楽しませてね」
 
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