《その數分で僕は生きれます~大切なを代償に何でも手にる異世界でめに勝つ~》自己犠牲2
 三時間ほど歩いたが、城壁は近く気配が無かった。その代わり一つの小さな村を見つけた。
 前方、はるか先に見える大きな城壁と違い、木で出來た五メートルほどの質素な門だった。
 初めはるか迷ったが、皆の疲労も限界に近く、城壁まで後どれくらいかかるか皆目見當もつかないので、仕方なく今日の所はる事にしたという合だ。
 門の前では、服の下からでも分かるのガッチリとした西洋風の男がいた。多分門番だろう。
 言葉は通じるのか。まずは、初めの壁にぶつかる。
 「すみません、ここの村にる事は出來るでしょうか?」
清聖學園の頃は生徒會長を務めていた、木村杏菜が代表して門番らしき男に質問する。
 「はい、大丈夫ですよ。分を証明するものはありますか?」
 通じた。神様のいう力というに言語を理解する事も含まれていたのだろう。もしくはありえないと思うが元々同じ言語。
 「せ、生徒手帳なら……」
 「生徒手帳ですか……?」
 門番は些か困った顔をする。致し方ない。生徒手帳など異世界の人間が知っているとは思ってない。
 
 「こ、こういうです……」
 氏名、顔寫真、所屬高校、等などが書かれたを門番に提示する。
 「はい、大丈夫です。」
 暫く凝視した後、門番は許可してくれた。詰まり、文字も読めるようだった。
 『力』というのがどこまでの範囲を示しているのかこれから調べないといけないだろう。
 門番が一人一人確認していく。千二百人もいるのだ。それはそれは長い作業になると思ったのだろう。十人程度で終わらせ、門の端に設置してある小窓を開いて、何やらヒソヒソ話している。向う側にも門番がおり、その方に伝えたったのだろう。その後、五分ほどで門が開く。
 門の向こうは案外賑わっていた。相変わらず木で出來た質素な建ばかりだが、人で足場が見えなくなるほど行き來しており、ずっと奧まで果店、服屋。極めつけは紛うことなき武屋、そして防店が軒を連ねていた。
 皆は驚愕する。皆は嘆する。時に、悲鳴を、時に歓聲をあげる生徒達。
 非日常に憧れていたものは、『遂に來た』と。
 
 日常をしていたものは『やはり來てしまっていた』と。
 目の前に広がる景を見て彼等は再度現実というを理解した。
 「うぁ……まじかよ!本當に來ちゃったよ!異世界!」
 「嫌だ! 嫌だ! 帰りたい! お家に帰りたい!」
 「そんな事言ってもしょうがないだろ! 今はさ楽しんじゃおうぜ! 異世界!」
 
 「無理よ! 私達この世界じゃ一文無しなのよ!」
 「な……なぁ……皆、ポケット見てみろよ……」
 そこには黒く、黒く、染まった長方形のカードが一つあった。
_______________
『やっと気づいたんだね!千二百人もいてどうして今まで気づかないのさー!退屈しちゃったんだよー!』
 神は一人言を今日も言う。
 『さて、君達はそれでなんでも買える。君達はその財力を持って権力を! 君達はその武力を栄を、思うがままに出來る! さぁ、君達はそのカードでどうする? 
君達はいつ気付くのかな……ふふっ』
 神は笑う。黒く澄んだ目を見開いて。
________________
 僕らは気づく。
 この黒いカードの凄さを。
 僕らは痛する。
 この黒いカードがもたらす自由を。
「うぁ!マジかよ!思うがままじゃねーか!」
 「たったこれ一枚でなんでも買えるなんてねー」
 「力ってそういう意味だったのかー! やるじゃん神様!」
 さっきまで泣いていた生徒も、今では興が隠せていないようだったこのカードを見せるだけでしいがしいだけ貰える。
 だが、僕は悩む。これは使っていいものだろうか。これは本當に萬能なカードなのかと……代償……頭の中にその二文字が浮かんだ。
 僕の片腕だけで、言語から文字、そして現金まで────そこまでの価値があるのだろうか……全くそうは思えなかった。疑問を持つ者は他にもいた。神奈もその一人だった。
 けれど、使わない選択肢は無胃だろう。僕らは一文無しなのだ。これを使わなければ生きていけない。僕らが生きていくには働くか、このカードを使い続けるしか方法は無い。今すぐ働き口を見つけるなど、到底不可能に近かった。
 「みんなー、これからどうする?」
 生徒會長の木村杏菜が指揮を取る。本當にしっかりした人だ。
 「自由探索でいいんじゃね? ここで各自報収集してさ! 三日後出発でいいじゃん」
 提案したのは睦だった。
その意見には僕も賛だ。黒いカードがある以上、生活に困る事は無い。なら、皆で固まって報収集するより、バラバラに聞いた方が圧倒的に効率的だった。
 「そうね!みんなそれでいいかしら?」
 「い……いいよ」
 「わ、私は全然!」
 「俺は全然おっけーだ!」
 「僕も大丈夫です……」
 僕が意見を言ったその瞬間、皆が僕を凝視する。
 「お前には聞いてねーよ」
 「黙ってろよカス」
 「なにいきっちゃっての? マジウケる」
 こうなる事は分かっていたのに、分かっていた筈なのに……いつも期待してしまう。普通の反応を。
 「じゃあ取り敢えずこれで行きましょう。それでは解散!」
 
 皆は仲のいい者同士固まって、それぞれ別の場所にバラけていった。
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 歩き出して五分が経過した頃だった。
 一人のが目にった。肩で綺麗に整えられた銀髪。白くき通った、目はし青みがかっていて見とれてしまうほど人だった。
 そんな彼は果のお店の前で何度も何度も商人に頼み込んでいるようだった。
 「お願いします! お願いします! 林檎をしだけ分けてもらえませんか? お金は通常の二倍支払いますので! どうか!」
 「何度言ったら分かるのさ! 無理って言ったら無理だよ! いくら払おうが変わんないよ! さっさとどっか行っておくれ! この悪魔がっ」
 そう言って、四十代と思しき商人は彼の肩を持って、勢いよく吹き飛ばした。
 「あっ…………!」
 慌てて駆け寄る。
 「だ、大丈夫ですか?」
 「あっ、私から離れてください!私に近づくと貴方まで……」
 「見かけない服だねー。なんだい、旅人さんかい? ならそいつには近づかない方がいいよ。なんたってそいつは悪魔の子だからね」
 悪魔の子、と言われても全くピンと來なかった。しかし、この世界ではそれだけで彼が迫害の対象になるには、十分な理由なのだろう。
 「はい、ですから旅人さん私から離れて下さい……」
 僕は戸ってしまった。手を差しべるのを……その間に彼は立ち上がり走って何処かへ行ってしまった。
 昔の嫌な記憶を思い出す。
 走っていく彼はまるで──僕の妹みたいじゃないか。
 
 僕はあの時のような罪を重ねたくなかった。だから、だから僕はこうなった。こうなってしまったのだ。
 殘酷で悲慘な世界で、ひしひしと自分の愚かさと、未さと、無力さと、悲痛さを見せつけられた。
 なのにまた、僕は手を差しべるのを戸ってしまった。きっと、いつか後悔する時がまた來るかもしれない。
 
 神様、もう一度、もう一度、彼に會えるなら僕に彼を助けるチャンスを下さい。
 僕は奇怪な果を複數取り扱う店で、唯一に覚えのある形の林檎を數個買った。
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 生徒達に會わぬよう、極力狹い道や人の多い所を通りながら、先程の銀髪のを探していた。
 直線に店がズラリと並び、人々が所狹しとごったする中を、辺りを見渡しながら歩いていると、前方から聲が聞こえた。
 「よーいい所であったな!」
 その聲を聞いたの同時に、僕は走り出していた。捕まれば林檎はともかく、黒いカードまでも取られるかもしれない。
辺り一面歩き回ったから、ある程度道が把握出來ていた。武屋の橫を通り、人気のない路地に出る。やはり片腕がないと走りずらい。転びそうになりながら、見つけた民家と民家の間の小さな隙間に隠れる。
 「こっちです」
 すっと服を引かれて僕は暗闇の中に吸い込まれた。
僕が付いたのは五畳ほどのかなり狹い部屋だった。そこにはベットや祭壇など必要最低限のしか見當たらない。
 「だ、大丈夫ですか……? 」
 そこにはさっきの銀髪のの子がいた。
神様はチャンスを與えてくれたらしい。もう一度、到來したチャンスだ。二度は無いかもしれない。そう噛み締めた。
 「は、はい。お様で……あっあのこれどうぞ」
 そう言って僕は、さっき買った林檎を差し出した。
 「え……貰えません!こんなに申し訳ないですし」
 「貰って下さい。きっと貴方なら分かる筈です」
 
 直ながら思った。彼は知っていると。誰かのために買ったものを否定されるの方が傷つくのだ────それが遠慮というものに部類されるとしても。
 「はい、分かりました。有難く頂きましょう」
 林檎を渡して一段落した時に気がつく。僕は追われているのだ。早く逃げなければ、もし、見つかった時にこの人まで巻き込まれかねない。
 「すみません、出口は何処でしょうか」
 「やはり、悪魔なんかの部屋は嫌でしたね……すみません」
 
 「いえ、そうじゃなくて……このまま居れば、もし見つかった時貴方まで傷つくかもしれないかもだから……」
 彼は心底驚いた顔をする。
 「それに僕は悪魔というのが何なのか、悪魔と何故あなたが言われてるのかが分かりませんから」
 「お優しいのですね」
 「いえ、自分勝手です」
 「世間はあなたのそれをきっと優しいと言います」
 「世間のそれとは違いますよ。きっと……」
 そう、全然違う。僕は僕が傷つくのが嫌だから、僕は代わりになっいるのだ。これは、矛盾しているようで矛盾していない。実際にあってみれば分かる。
 実際に傷つく人とそれを見る人。
 どちらが傷つくのかと問われれば勿論前者だろう。 
だが、もし傷つく人がずっとずっと大切な人ならば。
 
 だが、もしそれを見る人がずっとずっと大切な人ならば。
 それは逆になるだろう。つまりはそういう事だ。自分は大切な者の為に犠牲になる。自分が傷つきたくないから。
 「頑固ですね」
 そう言って彼は笑う。笑った顔も妹によく似ていた。
 「そんな事より貴方の方がずっとずっと優しいです。僕が傷つかないように僕を突き放してくれたり、追われている僕を助けてくれました」
 「いいえ、私の方がずっとずっと自分勝手です」
 
 「貴方も頑固ですね」
そう言って、僕も笑う。こんな普通の會話をしたのはいつぶりだろうか。
 「それと、ここは地下なので見つかる心配は無いですから、どうぞゆっくり腰を休めてください……それとこんなに人と話すなんて、初めてなので新鮮です……」
 ずっと、ずっと、この人も耐えてきたのだろう。本當に僕の見捨てしまった妹に似ていた。
 それにここは地下だったのか。それなら見つかる筈もなかった。
 
 「それでは……お言葉に甘えて……」
 「はい!是非!」
 と言ってもあるのはベットや數個の食べぐらいで、暇を潰せるものと言えばベットの上に置いてある本が一冊ぽつんとと置いてあるぐらいだ。
 幸い本を読むのは好きなほうだった。故に躊躇することも無く、本を手に取る。
  その本は勇者についての語。いや、どちらかと言うと観察日誌に近い形だったような気もしたが。
 『神の義眼』やら『仮神』などの勇者の特技などが説明が丁寧に書かれていた。
 これを読んでどうなるということは無いのに何故、僕はここまで真剣に読んでるのだろうか。勇者にでもなりたいのだろうか……笑わせる。
 本を読み始めて一時間たったか。ついつい読み込んでしまった。當の彼と言えばすぅすぅと寢息を立てて寢ている。
 僕は立ち上がり彼にベットの上のモーフを掛ける。
 この後、何をするか迷った末、今日の所はもう帰ることにした。と言っても帰る場所がないのだが、それはそれで出てから考えよう。
 その為にも出口を探そうと思ったが、彼が地下と言っていたので上を見たら結構簡単に見つけることが出來た。
  僕は上にある丸い蓋の様なものを押して上半を地上に出す。
 外は雲一つ無く、満面の星空が出迎えた。
 ──僕はいつまで続ければいいのかな、と気休め程度に今は亡きさちに尋ねた。
 「旅人さんもう行かれるのですか?」
 背後からの聲がして振り返ると、先程まで寢ていた彼が眠たそうに目をりながら、こちらを覗いていた。
 「はい、これ以上お世話になる訳には行きませんから、また何処かで……」
 「あの最後にお名前を聞いてもいいでしょうか?」
 「はい、黒田將太です。貴方は?」
 「私はココと申します!またご縁があれば……」
 「はい」
 彼の目はどこか儚げで後しで消えてしまうかのような。昔の妹のような優しい様な、悲しい様な……そんな目をしていた。
 この時の黒田將太は知らない。彼が數ヶ月後死ぬ事を。
 この時のココは知らない。彼が抱える罪を。
 そして、黒田將太もココも知らない。數日後起きる事件を。
 自己犠牲の年が出會いしづつ歯車が狂う。
 自己犠牲の年はぶつかり合い響き合う。
 全てがき出す。
 まるで繋がっているかのように。
 語はき出す。
こ
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