《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》5.冒険者協會
夜が明けて朝六時、ステルの姿はアーティカ屋敷の庭にあった。
屋敷の庭は綺麗に手れをされているだけでなく、軽く運するくらいスペースもある。
彼は今、一本の木に登り、枝に板を一枚ぶら下げる作業をしていた。
板には何重にも丸が書いてある。
撃の的である。
「うん。これでいいかな」
素早く木から下りて、出來栄えを確認する。
そのまま的からし離れ、懐から黒く長い布を一枚取り出した。
ステルをそれを目に巻いた。完全に視界をふさぐよう念りに。
「よしっ」
完全に目が見えなくなった事を確認。
今度は足下に集めておいた小石を拾う。そのきに迷いは無い。
手の中で數を確認し、ちゃんと十個あるのを確かめると、それを順番に空高く放り投げた。
「………………」
心を靜かに、気配を読んで、く。
「……っ!」
ステルの拳が、目にもとまらぬ速さで振られる。
拳が振られた回數は十回。
ほぼ同時に、木に下げられた板も正しく十回、乾いた音を立てた。
「ふぅ……。うん、良さそうだ」
目隠しを解き、的に當たった小石の痕に安堵する。
十日ほど鍛錬を怠っていたが、腕は鈍っていないようだ。
冒険者も狩人と同じく危険な仕事だ。
ステルは日頃の鍛錬を怠るつもりはなかった。
とりあえず朝食まで木剣でも振ろうかと思った時、背後から手を叩く音がした。
振り向けば、ジョウロを足下に置いたアーティカがいた。
何やら心した様子で拍手をしている。
「アーティカさん。すいません、起こしちゃいましたか?」
「庭の世話をするからお姉さんは早起きなのよ。ステル君ほどじゃないけれどね」
そう言いつつ、アーティカは木にぶら下がった的を見て「あらあら、まあまあ」と心して見せた。
「今の凄いわね。どうやってるの?」
「気配をじて叩くだけですよ? 母さんが『最低限このくらいできなきゃ山では生きていけませんよ』って言いながら教えてくれたんです」
「山の環境って、厳しいのね……」
微妙に引きつった笑みを浮かべるアーティカ。
実際は、ステルの住んでいたところは人里に近いので比較的安全だ。ターラが大げさな言い方をしただけだとステルは思っている。
「あそこだって、よっぽど山奧じゃない限り安全ですよ。これだって、母さんならもっと上手くやります」
「ステル君も十分凄いと思うわ。それはそれとして、これから朝ご飯を作るんだけど、食べていく?」
「いいんですか?」
「いいのよ。昨日言い忘れたけど、ターラに家賃としてまとまったお金を貰っているの。お姉さん兼家主として、そのくらいのサービスはしないとね」
大きなを張って、アーティカはそう宣言した。
どうやら、お姉さんという呼ばれ方が気にったらしい。
その後、鍛錬をしてシャワーを浴びてから、アーティカの用意してくれた味しい朝食を頂いた。
陸と海から富な食材が運ばれてくるアコーラ市の食糧事にした後、軽く雑談すると、もう出かける時間だ。
「じゃあ、行ってきます」
「はい。行ってらっしゃい。気をつけてね」
笑顔で見送られて、ステルは屋敷の外へと繰り出していく。
黒い上下に背負い袋に木剣というスタイルの年を見送った後、屋敷の主はあることを言い忘れたことに気づいた。
「もしかしたら、あんまり目立たない方がいいって教えた方が良かったかしら?」
まあ、なるようになるわよね。ターラの子だし。
すぐにそう思い直し、アーティカは屋敷の中へと戻るのだった。
○○○
「ここか……」
冒険者協會第十三支部までは馬車ですぐだった。
歩いて十分くらいの距離だったので次からは徒歩で行くことに決めた。
乗合馬車は格安だが、お金は有限なのだ。
冒険者協會の建は広い通り沿いにあった。
大きな石造りの建だ。ただでさえ頑丈そうなのに、窓には鉄格子がはまっていて々しさが加わっている。
アーティカの話によると、敷地そのものも大分広く、裏に々な施設が用意されているらしい。
時刻は九時十分。
窓口が開いたばかりだが、人の出りもぽつぽつある。
ステルはし張しながら、分厚い木製の扉を開いた。
扉の向こうは、広い部屋だった。
建の見た目より狹いことを考えると、一階にいくつか部屋があるらしい。
中にり、周囲を見回す。
奧に付のテーブルがあり、その向こうでは事務員達が朝から忙しそうに働いている。
壁はまるごと掲示板になっており、そこかしこに依頼の紙が張り出されていた。
他に室にあるのは機とテーブル。
そこでは既に冒険者達が依頼を味したり、雑談をしている。
どうやら、冒険者協會というのは朝から賑やかな場所のようだ。
何人かの職員と冒険者が一人でってきたステルをチラチラと見て気にしているが、話しかけてはこない。
とにかく、冒険者にならなきゃ。
そう思い、空いている付に向かった。
付に座っていたのは茶髪ので、メガネをかけた、いかにも賢そうな人だった。
にプレートがついていて、アンナと名前が書かれている。
「あの、すいません……」
「はい。どんな用でしょう……か?」
ステルを見ると、付のアンナさんはじっとこちらを見つめ始めた。
何か変わったところでもあったのだろうか?
訝しみながら、とりあえず目的を告げる。
「? あの、冒険者になりに來たんですけど」
「ああ、すいません。えっと、學生さんですか? だったら學校からの紹介狀を……」
「紹介狀?」
予想外の返答に首をかしげる。
アンナはそれを見て、ステルを學生ではないようだと把握してくれた。
「學生さんじゃないんですね。ふむ……どちらから參りましたか?」
「ターラの子……じゃない。ステルです。名字はわかりません。北部のスケリー村という所から出てきました」
多分わからないだろうな、と村の名前を告げる。
答えは予想どおりだった。
「スケリー村……。ごめんなさい、わからないです。失禮ですが、名字が無いというと結構山の方ですか? たまにそういう方がいらっしゃいますから」
話が早い。見た目どおり優秀なのようだ。
「ああ、そんなじです。村では狩人をしていました」
そう言うと、アンナは目を見開いて驚いた。
「か、狩人? あの、失禮ですけど、ですよね?」
「ぼ、僕は男ですっ」
彼の不思議な態度の理由がわかった。
つまり、付のアンナ氏はステルをだと思っていたのだ。
まあ、の子が一人で「冒険者になりたい」とやってくれば凝視の一つもするだろう。
「え、ホントにっ! って、し、失禮しました。ちょっとお待ちください。市外の方向けの書類と手続きの確認をしてきます。そちらでお待ちを」
謝罪をすると、慌てた様子でアンナは付から離れて奧の方に消えていった。
言われたとおり、椅子に座ること十分。
アンナが戻ってくると、別室に通された。
案されたのは小さな部屋だ。聞けば、十人程度で話し合うための會議室だという。
そこでアンナから冒険者になる手順について説明されるようだった。
彼の説明は謝罪から始まった。
「先ほどは失禮なことを口走った上に、お待たせして申し訳ありませんでした」
「いえ、の子に間違えられるのは慣れてますから……」
やっぱり、という顔をされた。
ちょっと傷つくが、それも慣れているので顔には出さなかった。
「アコーラ市の外から來たということですけど、住民登録はまだですか?」
「あ、はい。昨日來たばかりです」
「なら、まずはこの書類。それと簡単な試験があります。最低限の読み書きと計算ができれば解けるものです。この街で仕事をける最低限の知識を計るといいますか……。これも失禮な言い方ですね」
気をつかった言い方をしてくれたが、別にステルは失禮だとは思わない。
昔より良くなったとはいえ、山間部の生活は都會とは程遠い。
「村で勉強を教えるようになったのもここ二十年くらいですから。仕方ないと思います……」
実際、各所で見かける看板や値札、それと新聞などを見て、読み書きが出來ないと都會での生活は厳しいとじていたのだ。
ステルの故郷ではその辺りの知識が怪しい人は珍しくなかった。
「ステルさんにはこの試験の後に、実力試験もけてもらいます。冒険者との模擬戦になりますけれど、良いですか?」
「はい。宜しくお願いします」
特別問題をじなかったので承諾した。
とりあえず、アンナ監督の下、筆記試験が始まった。
容は基本的な読み書きと計算だ。幸いなことに簡単だった。
こういう事を見越してか學問を授けてくれた母に謝しておいた。
答案を渡すと、アンナは笑顔で言った。
「うん。大丈夫そうですね。では、次はこちらに。裏の訓練所に案します」
とりあえず一安心して、アンナに案されつつ、ステルは冒険者協會の中を進むのだった。
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