《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》7.はじめての依頼
「ステルさん、おめでとうございます。では、こちらをどうぞ」
建に戻り、付でアンナから短い祝福の言葉と共に、いくつかの品をけ取った。
渡されたのは黃と緑の線がった金屬製の腕と薄い本。
「あの、これは?」
「この腕は十級冒険者の証です。簡単な分証明にも使えます。必要な時に提示できればいいので、律儀に付けなくても大丈夫ですよ」
「こっちの本は……『今日から君も冒険者~門編~』?」
軽く中を見てみると、大きめの字と図解突きで『依頼のけ方』というページが目にる。読みやすそうだ。
「新人冒険者さん向けの教則本です。何冊もあるんですが、とりあえず最初のこれを読んでおけば大丈夫です」
「読んでみます。本は好きですから」
「それは良かったです。私も本は大好きですよ」
流し読みしつつ答えると、アンナは嬉しそうに微笑んだ。
印刷技の発展のおかげでステルの実家のような山奧にもいくらか本があったのだ。主に野草とか野外活についての本だったが。
考えてみれば都會ならば本も沢山売っている。お金を稼いで々買ってみようとステルは思う。
「これは市外の方向けの冊子でもありますので、きっとステルさんのお役に立ちますよ」
「それは助かりますね。ありがとうございます」
北部はエルキャスト王國の田舎の中でも抜群の田舎だ。
大都會アコーラ市との文化の違いは著しいだろう。書でその差を埋められるのは本當に有り難い。
「それと、手続きの関係で依頼をけることができるのは明日からになります。よろしいですか?」
「大丈夫です。えっと、依頼というのはあそこにってあるやつですよね?」
り口ロビーの壁にられた大量の紙を指さす。
晝が近づき、冒険者達で大分混み合っている。
「はい。依頼主から冒険者を指定されている時以外は、ああやって冒険者が依頼を選ぶことになります。せっかくだから見てみると良いですよ。良さそうなものがあれば、予約もできます」
「じゃあ、ちょっと見てきます。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、ステルは貰った本と腕を持ったまま掲示板の前に立った。
一枚一枚、丹念に張り紙を見る。単純に珍しく、興味深いのだ。
ざっと見たじ、十級冒険者がけられる依頼の殆どは拘束時間の短い安い仕事だった。
下水の掃除。農家の手伝い。荷運び。商隊の護衛などなど。
魔退治の依頼は殆どが『十級対象外『十級要相談』などと付け加えられ、弾かれるようになっていた。
つまり、十級冒険者向けの依頼はある程度安全に気を使われているということだ。
拘束時間は最大で一週間くらいで、報酬は一日一萬ルンくらい。
ちなみに十萬ルンあればアコーラ市で何とか一ヶ月生活することができる。
ステルは昨夜のうちにアーティカにそのことを教わっていた。
消耗品の経費などもあるが、月の半分も軽い依頼を片づければ、生きていくことは十分できそうだ。
そんな考えを抱きながら、ステルは自分向きの依頼を探す。
似たような依頼ばかりだが、どうせなら変わったものをけたいところだ。
掲示板沿いをぴょこぴょこきながら依頼を眺めていると、気になるものを見つけた。
「この依頼、なんだろ?」
依頼主は王立學院アコーラ校、薬草科。
依頼容は薬草の採取。採取品はエラス草、月花、朝霧苔。
どれも故郷の山中ではよく見かける薬草だ。ステルの覚だとありふれているといっても良い。
その割には妙に報酬が多かった。
報酬30萬ルン。アコーラ市なら三ヶ月、自給自足に近い故郷ならば一年は暮らしていける金額だ。
十級冒険者は弾かれておらず、他の初心者向けの依頼に比べて、明らかに報酬が高い。
「ステル、その依頼が気になるのか?」
聲をかけられて振り向くと、先ほど実戦試験で相手をしてくれたクランだった。
彼は嫌みをじさせない笑みを浮かべている。友好的だ。
「クランさん。先ほどはありがとうございました。あの、手は平気ですか?」
「問題ねぇさ。八級に上がって調子こいてた戒めだって、仲間に笑われたぜ」
苦笑しながらクランは依頼書を壁からはがした。
そして、神妙な顔になり、ステルに言い聞かせるように語る。
「この依頼はな。手間がかかりすぎてけるやつがいなくて毎年最後まで殘ってるのさ。王立學院の偉い先生からなんで、気にられりゃいいコネになるんだけどなぁ」
「そんな凄い人からの依頼なら、多の手間くらい惜しまないんじゃないですか?」
コネというのは侮れない。ステルのいた村でも事前の回しで話し合いがスムーズに進んだ事がなくない。人の多い都會なら尚更だろう。
「確かにそうだ。だが、學院からの依頼は他にもある。それに、この薬草が採れるのはアコーラから結構はなれた山中なんだ。同じ時間で別の仕事が出來ちまう。何より依頼前に先生との面接があって、そこではねられることがあってな……」
「そこまで條件が揃うと敬遠されそうですね」
覚的に、面接というのがくせ者な気がした。能力の有無を問わず、依頼主の心証の問題が出てくるというのは、躊躇するのに十分な理由だ。
「実際敬遠されてるのさ。ま、お前さんは北部の出だから山は慣れてるだろうし、悪い奴じゃなさそうだ。先生に気にられるかもしれないから、けてみてもいいかもな」
意外にも気軽な様子でそう言うと、クランはステルの手に依頼書を握らせた。
ステルは安の紙に書かれた依頼をじっと見て考える。
これは、クランに面倒な依頼を押しつけられた、いわゆる嫌がらせだろうか? 実戦試験であっさり倒してしまったのだ。恨みを買っても仕方ない。
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません」
クランの印象は、言どおりさっぱりした若者だ。
そこまで深く考えているようには見えなかった。
山で生きたステルは、自分の覚をある程度信頼していた。
それに、山での仕事なら自信がある。せっかく都會に來てまた山中に行くのもどうかと思うが、ここは慣れたことをしてみよう。
「クランさん。僕、この依頼をけます。わざわざ説明してくださってありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、何故かクランがたじろいた。
「お、おう。お前、元狩人とは思えないほど禮儀正しいな」
「母さんに仕込まれました」
母のことを話すと、クランは優しげな笑みを浮かべた。
多分、「やっぱり子供だな」と思われたのだろう。仕方ない、ステル自、自分が大人という自覚は無い。
「そうか。いい母ちゃんだな。何か困ったことがあったら聞いてくれ。もしかしたら、俺もお前を頼ることがあるかもしれないしな」
「はい。じゃ、ちょっと付に行ってきます」
そう言って、弾けるような笑顔を殘し、ステルは付のアンナの元へ向かった。
「アンナさん。僕、この依頼をけます」
依頼書を渡すと、アンナは書類容の味を始めた。
職員として十級冒険者の最初の冒険に相応しいか判斷しなければならない。
簡単だと思ってけた依頼で命を落とす初心者はなくないのだ。
「ん……たしかに、ステルさんならいけるかもしれないですね」
依頼そのものはアンナもよく知るものだった。
採取のために山中に行く事になるが、アコーラ市の付近といえる位置。
更にアンナは、ステルに関して支部長から「彼は最低でも五級冒険者並の戦闘経験はあるよ」と聞かされていた。
五級といえばベテランだ。支部長のその手の目利きが外れたことはないので信用もできる。
また、過去にこの依頼で危険な目にあったケースは皆無だったはずだ。アンナの優秀な頭脳はそこまで記憶していた。
「では、予約ということで學院にも連絡しておきます。明日の朝、ここに來て正式に依頼を注してから學院に向かってもらうことになります」
「はい。宜しくお願いします」
こうしてステルは冒険者になった上で、最初の依頼までける事ができたのだった。
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