《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》16.施設跡地地下
次の日、ステルは朝早くから學院の敷地にある森にやってきた。
理由はもちろん、元研究施設の調査である。
校門で魔導姿のリリカと合流し、二人で森の中へる。
今日の彼は先日の防に加え、ごつい柄を持った剣を腰に佩いていた。正直、武の出番がないといいと思う。
森の中はしっかり管理されていて、研究施設の跡地までしっかりと道が作られていた。
おかげですぐに到著だ。
今は二人で外から施設を観察中である。
研究施設は薬草科の建より小さいくらいだった。
窓には板が打ち付けられていて、中の様子はわからない。
「外からは狀況がわからないか……」
「そうね。でも、やっぱり魔力収集機、いくつか稼働してるわね」
リリカが屋から突き出ている細長い棒を指さして言った。
何十本もある一メートルくらいの長さの金屬の棒。どうやらそれが魔力収集機らしい。
今では帆だとか風車みたいな形が主流なので珍しい形狀だ。
「やっぱりあれがそうなんですね。なんかってるとは思いましたけど」
よく見ると棒の先端がチカチカと魔力のを放っているので、気になってはいたのだが確信を持てなかったのだ。
「だいぶ古いタイプよ。凄い事に半分くらいは生きてる。昔の魔導って今のものより構造が単純だから丈夫なのかしらね。これなら中の施設もある程度は稼働してると思う」
「そうすると、地下の警備ゴーレムは覚悟しなきゃいけませんね」
教授からの報によると、地下の警備ゴーレムには簡易的な戦闘能力があるそうだ。
ゴーレムの目的はあくまで捕縛で殺害では無いから脅威は低いと言っていたが、油斷はできない。
「隠された警備室のゴーレムだから、騒な機能持ってそうよね」
「戦うときは僕が前に出ます。リリカさんには施設を止める方をお願いします」
魔導科の秀才と言われるリリカは、施設を見れば停止して見せると豪語していた。
ステルもその辺の知識は皆無なので頼りにしている。
「……わたしも戦うけどね」
「怪我でもされると僕が困るんですよ……」
こっそり剣に手をやるリリカ。それを困った様子で咎めるステル。
危険と相対するのは學生では無く冒険者の仕事なのだ。
「そっか。じゃあ、し後ろにいることにするわ。調査の方は任せてちょうだい」
「お願いします」
二人は事前に貰った鍵を使って施設の扉を開けた。
打ち付けられた板のおかげで、中は暗い。
「暗いわね」
「ちょっと待ってください」
ステルは荷の中から小さな筒を取り出し、空中に向けると筒ののスイッチを押した。
すると、の球が生み出され、中空を漂う。
燈りの魔導だ。の持続時間は一時間程度だが、魔導の周辺を追尾してくれる上に數を増やせる。
の球を三つほど浮かべると、中の様子が良く見えるようになった。
「綺麗なもんですね」
「地下以外はしっかり掃除してから引っ越したみたいね」
ステルの覚にひっかかる気配もじない。
地上部分は問題なしとみて良さそうだ。埃とカビの匂いはするが、それは當然だろう。
「建はし痛んでるけど、おかしなところはないですね」
「埃っぽいくらいで済んで良かったわ。あ、ステル君、とりあえず真っ直ぐね」
「はい」
ステルが前に立って通路を歩く。施設の地図も事前に渡されていたので、二人共しっかり頭に叩き込んであるので迷うことはない。
地下への扉の場所はすぐに見つかった。
一階の倉庫の一つ、その隅の家をどかすと扉が現れた。
「ここですね。貰った鍵で開くみたいですけれど」
「ちょっと待って。向こうに魔力のきがあるか調べてみる……」
言いながら、リリカが扉に手を當てて集中する。
魔法使いの素質があるということは、魔力を自在に扱う素質があるということだ。
特に能力の高い者は、魔力の知に長けるという。
例えばステルの母は靜かに瞑想するだけで周囲の魔力の流れについて語ってくれたものだ。
リリカ・スワチカは學生としてだけでなく、魔法使いとしても高い能力を有しているらしい。
「魔法使いの素質があると便利ですね」
魔力運用で強化が出來るステルだが、どういうわけか自分のを離れた部分に魔力を作用させる事ができない。
魔力の知だって不可能だ。
「こういう時には便利よ。でも、現代じゃそんな素質なんて魔導をちょっと上手に使える程度のものよ。魔導に関しては完全に學問だもの」
「魔法使いが見られないのは殘念ですけれど、良い時代だと思います」
「わたしもそう思うわ。……うん、ちょっとだけだけど、魔力がいてると思う」
「やっぱり、屋上のあれ、壊しておいた方が良かったかな」
「それもありだけど、ちょっと問題があるのよ。屋上の魔力収集機。あれは地下にある大地から魔力を吸い上げる魔導を起させるためのものなの。ある程度稼働すれば、地面からより効率よく魔力を集めて貯める構造なのよ、この施設」
「詳しいですね。教授からの資料にそんなこと載ってなかったですけけど」
「學校の図書館で調べたのよ。資料が殘っててよかったわ」
ステルにとっては初耳の報だった。
これは失敗だ。冒険者として責任を持って依頼をけた以上、一緒に調べるべきだった。
「えっと、つまり、屋上の魔導を壊しても、しばらく施設は稼働するってことですか?」
「そう。期間はわからないけど、のんびり魔力が切れるのを待つ間に施設解の日が來ちゃうと思うわ」
なるほど。魔力切れで停止した施設を探索するのは不可能のようだ。
「覚悟を決めて飛び込むしかないんですね」
「警備ゴーレムの大半が故障してるのを祈りましょうか」
罠は無いはずだが、一応ステルが調べた。この二ヶ月でその辺はしは勉強したのである。
安全そうなので、ドアを開く。
向こうにあるのは地下への階段だ。
「行きますか……」
「行きましょうか……」
魔法の明かりを浮かべながら、二人は階段を下っていく。
○○○
階段を降りた先は廊下だった。
二人が床に降りた瞬間、一斉に燈りが點いた。
「うわっ!」
「しまった……。自知の照明ね」
びっくりしたが、おかげで通路が見渡せる。
広さは二人が何とかすれ違えるくらいだ。
照らされた地下の廊下は、一階とさほど違いはじられない。
特徴といえば天井を走る金屬の管。これは魔力を伝送するもので、街でもたまに見かけるものだ。
廊下は真っ直ぐのびた後、し先で十字に別れていて、その先はわからない。
ステルはじっと耳を澄ます。
「……音がします。それも複數」
「來たわね」
殘念ながら警備ゴーレムは絶賛稼働中らしい。
「リリカさん、廊下で剣は使い勝手が悪いです。僕が前にでます」
リリカの武は長剣。二人が並んで歩くのも難しい廊下で振り回すには不適切だ。
ここはステルが前に出て毆るのが適切だろう。
「來た……っ」
十字路の向こうから、それは姿を現した。
警備ゴーレムは日頃見かける工事用のものと比べると小柄だった。
大きさは百五十センチ程度だ。
全が金屬製。円筒形の頭部を持った人型で、別をじさせない、四角いフォルムをしている。
腕は二本、指は三本で武は無し。
そんな不格好なゴーレムが、こちらに向かって歩いてきていた。
「あの、こんにちは……」
とりあえず挨拶してみた。
すると、ゴーレムは立ち止まり、ステル達二人をじっと見た。
そして、
「――――――ッッッ!!」
いきなり両腕を振り上げて、襲いかかってきた。
「駄目だわ! 侵者扱いよ! 捕獲されるわ!」
「ここで捕獲されたら実質監ですよ!」
いきなりきを早めたゴーレムは一足飛びでステルに接近してきた。想像より早い。
きに驚きはしたが、ステルは落ちついて行した。
ゴーレムのきはあくまで捕獲のための挙だ。
対してステルは容赦なく破壊を選択できる。
この違いは大きい。相手が生きでないのも気分的にかなり助かる。
「はあっ!」
腕を広げて接近するゴーレム。がら空きだったに右の拳を一撃。
金屬のは一撃で大きくひしゃげた。
しかし、まだ停止しない。
「ステル君! 頭よ!」
「はいっ!」
リリカの指示に従い、きが鈍ったゴーレムの頭を左の拳で一撃。
気合いを込めた攻撃は、頭部を貫き、そのまま機能停止に追い込んだ。
「ふうっ。何とかなりそうですね」
「どうかしらね……。魔力が五分くらい、こっちに向かってるわ」
そう言われて集中すると、ステルの耳にもゴーレムの足音が聞こえてきた。
すぐに、廊下の向こうに金屬ゴーレムの姿が見え始めた。
これは厄介だ。
「リリカさん。目的地は奧にあるんですよね?」
「ええ、第二所長室よ。でもその前に、ゴーレムの制魔導を見つけた方がよさそうね……」
言うなり二人は廊下を駆けだした。
左右と直線、廊下が十字にわるところを目指す。
既にそこにはゴーレムが現れていて、両手を広げて威嚇してきた。
「無駄ですよ!」
勢いよく蹴りを繰り出し、頭を吹き飛ばした。
ステルにとって脅威を覚える能では無い。倒すの容易だ。
だが、そこらじゅうから足音が聞こえるのが問題だ。あまり楽しい狀況では無い。
「リリカさん、どっちに!?」
「とりあえず右よ! ゴーレムの気配がない、そこで迎え撃つ!」
言われるまま、廊下を右折。たしかに、こちらの廊下にゴーレムはいなかった。
すぐに行き止まりになり、扉が現れたところで、後ろから追いかけてきたゴーレムの姿が見えた。
數は三。廊下は狹いのできはしにくそうだ。
「三くらいなら……」
「ステル君、下がってわたしの隣に。直線の方が使いやすいから」
「? 何を使うんです?」
言いながら素直に下がる。
こちらに向かってくるゴーレムに対して、リリカは左手を向けた。
そして一言、ぶ。
「穿ちなさい!!」
直後、ステルは通路いっぱいに広がる風の魔法を見た。
刃のような風が、螺旋狀に、リリカの左手から飛び出したのだ。
橫にいるステルと者のリリカの髪を揺らした風が、地下にはありえない轟音を響かせる。
一瞬だった。
螺旋の風は三のゴーレムをバラバラに引きちぎって、すぐに消えた。
「滅茶苦茶だ……。室で何てものを……」
「ちゃんと加減したから大丈夫だったでしょ! それよりどうよ、これこそわたしの切り札『衝撃波の腕』よ! 形狀威力が自在な風の刃を打ち出せるの。わたしみたいに風の魔法の素養がないと使えないんだけどね」
を張ってドヤ顔のリリカ。
対してステルは破壊の爪痕を見ながら、呆れ顔で言う。
「たしかに凄いですけど、そんなの攜帯してると危険人扱いされないですか?」
「ふ、普段はつけてないし……。見方によってはステル君の力だって十分兇じゃない。それにわたしがこれを変な使い方すると思う?」
ステルはし考えた。それも真面目に。
付き合いは短いが、このリリカというはこれで騒ぎを起こすような人では無いように思える。
そう結論したので、素直に頭を下げる事にする。
「……ごめんなさい。失禮な言い方をしてしまいました」
「わ、わかればいいのよ。ま、普段はリミッターつけて威力落としてるから安心してね」
「今日はそうじゃないんですね」
「念のための用心よ。できれば使いたくなかったけど」
話していると、今度は遠くから扉を開く音がした。
間違いない、ゴーレムだ。こちらに向かっている。
「気配が増えてますね……」
「とりあえず、この部屋にりましょう。ちょっと調べたい事もあるし」
「わかりました」
研究施設は下調べをしてくれたリリカの方が詳しい。
ここは彼を頼りにするべきだ。
手早く扉の狀態を確認した二人は、手近な部屋にった。
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