《山育ちの冒険者 この都會(まち)が快適なので旅には出ません》25.黒い腕
「お前達は優秀だ。まさか、こうも簡単に切り札を使う事になるとは思わなかった」
黒い腕を掲げて言うダークエルフ。その手にはステルの布があった。
投げられる直前にそれを手放したおかげで、ステルはそれほど激しく投げ出されずに済み、著地したのである。
「では、処刑の時間だ」
言うと同時に、布が炎に包まれた。
ダークエルフは魔導杖を掲げる。
放たれたのは先ほどまでと同じ風の魔法ではなかった。
火球だ。拳大の火の玉がステル目掛けて飛んでくる。
ステルは右手で木剣を抜き、左手に布を持ったまま、大きく飛んで回避する。
直後、自分の居た場所で発が起きた。
「くっ!」
発の熱を背中でじながら、生き殘りのゴブリンの矢を布でたたき落とす。
ゴブリンを倒しきれなかったのは失敗だった。飛び道で狙われるのはまずい。
「どうした? 先ほどまでの威勢がないぞ?」
挑発するようにダークエルフが言い放つ。
一瞬だけ、ラウリの方を見る。健在だ。人質を守りながらの戦いで苦しそうだが、ダークエルフの注意がこちらに向いている間は大丈夫だろう。
そう判斷した上でステルは次の行に出た。
ダークエルフから距離を一気に距離をとったのだ
「逃げる気か!」
狙い通り、ダークエルフは石壁を降りて追ってきた。向こうも頭にが上っているようだ。
ステルは速度を調節しつつ、ラウリが作った即席階段を使って石壁の上に登る。
ダークエルフは追いかけながら、魔法の準備を始める。
予想通り、奴はステルほど早く走れない。
走りながら、ステルは次の行に出た。
「そこだっ!」
木剣を投げ、布で摑んで、にいたゴブリンへ一撃をれる。
ステルのるそれは先端に刃を持った鞭のようなものだ。ゴブリンはひとたまりもない。
戦果を確認せずに、そのまま次の獲へと走る。
武はそのままに腰の投げ矢を右手に取る。
それを別のに隠れていゴブリンに投擲。
ステルはとりあえず、ダークエルフを引きつけつつ、敵の數を減らす事にしたのだ。
「私の手駒をこれ以上やらせんぞ!!」
それに気づいたダークエルフの魔法が飛んでくる。先程と同じ火球の魔法だ。
ステルは火球を布の先の木剣で迎撃。
空中で派手に発したが、距離のおかげでステルに傷はつかない。
ダークエルフの腕は脅威だが、距離をとっている間は脅威とならない。
室のゴブリンの數はそう多くない。これならいける。
そう思った時、
「よし、戦力が増えたぞ! ふはははは!」
ダークエルフの哄笑と共に、新たに三匹のオークと數匹のゴブリンが現れた。
「まだいたのかっ!」
ステルは進路を変更した。
殘りなくなってきた投げ矢を投擲。現れたゴブリンの眉間を貫く。
オーク達がこちらに向かって來るのが見えた。その向こうにはダークエルフもいる。
木剣と布を分離、右手に木剣、左手に布を持つ。
「ふぅ………」
大きく何度か呼吸して息を整える。魔力を全に巡らせ、次なる作に備える。
そして一気に跳躍。
壁を足場に真橫に飛んで、オークの側面から襲いかかった。
まず、木剣の一撃で一匹のオークの首が飛んだ。
「ルオオオオオオ!」
著地と同時、ステルの頭上で怒聲が響く。
仲間の死を気にもとめないオークの棒が振り下ろされる。
「おおおおっ!」
その一撃を、布を腕に巻いて盾のようにしてける。
魔力によって強化された布とは、オークの豪腕から繰り出される一撃をけ止めた。
そして、木剣でを一突き。
首の防が無いオークは口からの泡を吹いて倒れた。
しかし、敵の攻撃は終わらない。いつの間にか現れた追加のオークが接近していた。
さらに、
「捉えたぞ! 死ね!」
ダークエルフの魔法杖から魔法が飛んできた。
またも火球だ。オークごと巻き込む腹づもりか。
狀況に対して、ステルは落ちついて対応した。
腕に巻いた布を解き、鞭のようにしならせてオークの足を絡め取る。
「やああああ!」
そのままオークを火球にぶつけた。
何度目かの発が中庭を揺らした。
布を盾にステルは熱をやり過ごした後、近くまで來ていたダークエルフに向かって疾走。
「っ!? 早いっ、このっ!」
「そこだっ!」
ダークエルフの右手の一撃が來た。得の知れない不気味さをじたので、跳躍して回避。
ステルの攻撃の狙いは腕では無く、魔導杖だ。まずは、厄介な飛び道から始末する。
「いけぇっ!」
剣を布で摑んで投擲。
狙い違わず魔導杖は破壊された。
「それがどうした!」
しかし、木剣を黒い腕に摑まれた。
即座に木剣が々になる。
あの黒い手にはステルの魔力を貫く力が備わっている。
「やってくれたな! 玩を壊したくらいで調子に乗るなよ!」
怒りの形相でんだダークエルフが右手を振った。
黒い腕が一瞬った。なくともステルにはそうじられた。
反的にステルは布を巻いた左手で防。
直後にとんでもない衝撃が全を襲い、吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
何とか意識を失わずにすんだ。地面の上を転がりつつ、態勢を立て直す。
ゴブリンの矢が飛んできたので布で振り払った。実に厄介だ。
「……強いな」
ダークエルフを見ると、全がうっすらと黒い魔力に覆われていた。
その顔には不気味な紋様が浮かび上がっている。
先ほどまで無かった現象だ。腕の力の代償というやつだろうか。
「しばかり、この腕の力を見せてやるとしよう……」
自信を漲らせるダークエルフを見て、ステルは思う。
一刻も早く、あの腕を始末しなければならない。
どういうわけか、心のどこかが強くそう言っていた。。
あれは、ここにあってはいけないものだと、自分のどこかが告げていた。
何として始末しなければ。
しかし、武が足りない。
あのダークエルフはステルほど戦い慣れしていないようだ。
ゴブリンの矢をかいくぐり、拳の一撃をれるくらいできるだろう。
問題は、あの腕を切り落とすような一撃を繰り出せるかだ。
木剣を失ったのは痛かった。布よりも丈夫な武が必要だ。
「じっくりと痛めつけて殺してやる……」
怒りの形相でこちらを見るダークエルフ。
こうなったら、いちかばちか。
そう思った時だった。
救いは、石壁の上からやってきた。
雙方がこうした瞬間。
「な、なんだと……!」
「……ん!」
ステルの眼前に飛來するがあった。
鋭い風切り音と共に地面に突き立ったそれは……
「斧?」
斧だった。大きさはステルのの半分ほど。刃が大きいが、各所の加工から魔導だとわかる。
ステルは慌てて飛來した方向を見る。
「あ、お、斧使いの……たしかグレッグさん! でしたっけ?」
石壁の上に見覚えのある斧使いがいた。
そういえば、依頼の話を聞いた時に細かい狀態は聞いていなかったなと思う。
グレッグは予備の武と思われる長剣を抜きながらぶ。
「なんで疑問系なんだよ! いや、そういやちゃんと名乗ってなかったな……」
「私が教えておいた。謝したまえ」
元気そうに言うグレッグの後ろからラウリが現れた。
更に、その後ろから三名ほどの冒険者も現れた。
間違いない、『見えざる刃』だ。
「なんだとっ。他にもいたのか!?」
驚愕するダークエルフ。
現れた冒険者達により、殘ったゴブリンとオークが次々に倒されていく。
全員が手練れだ。流石は『見えざる刃』というところか。
目の前のゴブリンを倒し、にやりと笑いながらグレッグが言ってくる。
「今回は俺も『見えざる刃』だ。怪我が軽くてな、あいつを助けるために參加したのさ」
言いながら次のゴブリンを留める。前に五級冒険者と言っていたが実力はそれ以上なのかもしれない。。
「協會で調達した新しい魔道の斧だ! 使うと扱いやすく、斬れやすくなる! やっちまえ、ステル!!」
「はい!」
答え、斧を手に取った。
片手で持つには重いはずの斧だが、ステルが持つなり魔導としての機能が起した。
すぐに重量が軽くなり、刃に魔力の輝きが宿る。
これなら手軽に振り回せそうだ。
「くっ……おのれ。こうなれば……」
焦りを帯びた聲を発しつつこちらを見るダークエルフ。
劣勢を悟るもけないというところだろう。
「仕方あるまい……」
ステルを見據え、そういうなり、ダークエルフの腕にが走った。
変化が起きたのはダークエルフの顔だ。黒いの上に漆黒の不気味な紋様が更に広がっていく。服のおかげで見えないが、全に同様だろう。
これは不味い。
危険を察知したステルは斧を手に一気に距離を詰めにかかる。
「逃げるとでも思うたか! たかが幾人かの冒険者ごときに!」
前に出たステルに向かい、ダークエルフは漆黒の腕を振る。
対してステルは左手の布を巻き、できる限りの魔力を通す。
「おおおおおお!」
拳と拳がぶつかる。
魔力によるものか、一瞬だけ稲妻のような閃が走った。
その影響か布が即座に崩れ落ちる。
しかし、母から託された竜鱗の手袋は無事だ。
攻撃をけ止められたダークエルフの顔が驚きに歪む。
「なんだと! 人間に止められる攻撃では……っ」
「はあああっ!」
隙が出來た。
そう判斷したステルは、ダークエルフの言葉を無視し、その腹に爪先蹴りを叩き込んだ。
「ぐほっ!!」
敵のがくの字に折れる。蔵までつぶれるくらいの威力のはずだが、手応えがいまいちだ。
しかし、ステルにとって必要だったのは相手の姿勢。
ダークエルフはきを止めた上、上半を傾けて苦しんでいる。
腕を狙うなら今だ。
「いけぇ!!」
ステルの能力と魔導の力、雙方が重なった斧の一撃が叩き込まれる。
狙いはダークエルフの右肩。
全力の一撃が、そこ目掛けて打ち下ろされた。
鈍い音が、ステルの耳に屆いた。
攻撃の威力に耐えきれず、斧の刃が砕けた音だった。
勿論、それだけでない。
魔導の斧は、その存在と引き替えに、ダークエルフの黒い腕を斬り飛ばしていた。
「あっ……がっ……ああああああ!」
ダークエルフが床に倒れ伏し、天井を見上げ、もだえる。
驚いた事に、斬られた右肩からはが噴き出していなかった。
ただ、黒くなめらかな切斷面がそこにあるのみだ。
下手をしたらダークエルフの全がよくわからないことになっているのかもしれない。
自分自のそんな予想に不気味さをじつつも、ステルは次の作に移った。
すなわち、とどめである。
この相手は危険だ。
仕留められるときに仕留めねばならない。
「…………」
「ぐほっ……あっ……あっ……」
無言でダークエルフの腹目掛けて左の手刀を一撃。
黒い腕がないためか、すんなりと腹にが空いた。やはりは出ない。
「お前に苦しめられた人達の……仇だ」
もだえ苦しむダークエルフにその言葉が聞こえたのかわからない。
返事を待つ事無く、ステルは手刀を首へ叩き込んだ。
「や……あっ……」
命乞いする間もなく、アコーラ市の脅威となったダークエルフは絶命した。
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