話を終えたステル達は、その日の夜に魔法裝置があるという所へ向かうことになった。

行き先はアコーラ市南部。かつて街の中心であった場所であり、もっとも古い町並みが広がる地域である。

四人が向かったのはその昔、行政の中心があった場所で、現在はアコーラ市記念公園とされている緑の多い場所だった。

日も暮れて薄暗い公園の片隅、木のが濃い一畫を、魔導の燈りを點けた一行が歩いて行く。

「アコーラ市って、公園に何かが隠されていることが多いですね」

「街で管理するのに楽だからと聞いております。大きな公園なら管理事務所も置けますし」

「ここは元々は市の中心だった場所です。當時は王族の誰かが常駐して、管理していたと言いますが」

「今は靜かな場所よね……」

そんな話をしているうちに目的の場所についた。

到著したのはちょっとした広場で、中央に小さな石碑がある。

文字がかすれ、何が書いてあったかもわらなくなっている古いものだ。

アーティカが前に進み出て、石碑に軽くれてから、その場の全員に言う。

「ここが私の管理している場所の一つ。王族しかれない場所。『落とし子』へ対抗する魔法裝置の跡になります」

「あの、ヘレナ王、本當に來るんですか？」

「當然です。そもそも、王族しかれない場所なのですから、私が行く他ありません」

心配して聞いたステルに対して、へレナ王は力強くを張って答えた。彼はやる気だ。

「姫に関してはご心配なく。私が護衛致しますし、姫も戦えないわけではありません」

「そ、そうなんですか？」

「エルキャスト王國の王族は守護の一族。護の技くらい備えております。なにより、國の護りは私の役目ですので」

言いながら、王は手に持った魔導の杖と小さな盾をステルに見せつける。服の下にも裝備を著込んでいる上に、慣れた様子だ。

アマンダも同じく武と防を裝備済みだ。彼は護衛騎士らしく、鎧姿に長剣を腰に佩いている。魔導で発展しているエルキャスト王國の騎士に相応しく、どちらも強力な魔導だと言っていた。

そして、アーティカの裝いもいつもと変わっていた。魔法使いとして出かける時ににつけるローブと杖だけでなく、頭、腕、首と裝飾品を多くにつけている。腰には魔法陣を描いた紙を纏めた冊子をベルトに留めており、彼に似合わない剣呑な雰囲気すら出ている。

「ステル君、中にる前にこれを渡しておくわね」

言いながら、アーティカはローブの中から一本の小剣を取り出して、ステルに手渡した。

豪華さは無い、シンプルな鞘に納められたもので、柄の中央に小さな寶玉がはまっているのが特徴だ。

その寶玉をよく見ると、中で虹の輝きが散っていた。

この街に來て知識を得たステルにはすぐわかった、これは魔導ではなく、魔剣だ。

「これって、あの箱の中にっていたものですか？」

「そのうちの一つよ。あの中には私がいざという時に使うものばかりなの、これとかね」

そう言って、かなの上に留まっている銀の裝飾品を指し示す。護符の類だと、歩きながら語っていた。

「えっと、この剣はどんな力があるんですか？」

試しに鞘から抜いてみる。良く斬れそうな銀の刀が現れた。しかし、これといった不思議な力はじない。

「それは、この前ターラが來た時に渡されたよ。こういう時のためにね」

「母さんが？　じゃあ、母さんも『落とし子』について知ってるんですか？」

「ええ、心配していたけれど、北でも々あるみたいで、仕方なく、それを置いていったわ」

「それで、その小剣にはどんな力があるのですか？」

橫からアマンダがステルと同じ言葉を繰り返した。見れば、その隣で王の目がキラキラしている。相変わらず自分のには忠実な主従である。

「ステル君が使えば、その刃は魔に対して強い力を発揮するわ」

「僕が使うと……？」

「ターラと同じ……技を使う貴方だからできることよ」

「なるほど。そういうものなんですね」

流石は母だ、々と持っている、とステルは納得した。

ステルが教わった技や、につけているも含めて、母にはそういう謎めいたところがある。魔剣の一本くらい出てきても今更驚かない。

「神話に出てくるミスリル製の破邪の武とまでは行かないけれど、『落とし子』にも十分に有効なはずよ」

「それは頼もしいです」

そう言って、ステルは小剣を腰の後ろに取り付ける。口には出せないが、母が手を貸してくれるようで頼もしかった。

「では、準備は良いですね。この中にあるのは祭壇と、それを護る存在だけ。何事も無ければいいのですけれど……」

そう言って、ヘレナが石碑にれた。

すると、それまでただの石にしか見えなかった石碑がぼんやりと青白く輝きだした。

次に起きたのは、王立學院の図書館の時と同じ変化。

地下への階段が現れたのである。

「では、私が先頭で」

「待ってください」

魔法の階段が現れるなり、進もうとしたアマンダをステルが止めた。

「…………」

空中に燈りを生み出す魔導で、追加の照明を生み出し、地面を照らしてじっと見つめ始めた。

「何かあるの、ステル君？」

「上手に隠してありますが、何かがった跡があります」

「………………！？」

ステルの言葉に、その場の全員が驚きと共に沈黙した。

「あの、何でしたら僕とアーティカさんだけで中を見に行きますけれど」

この先には何かがある。王族を危険に巻き込むわけにはいかないという思いから出た言葉だが、へレナには逆効果だった。

「駄目です。王家の者としての義務があります。むしろ、ここに『落とし子』がいるなら好都合。引導を渡してくれますわ」

「危なくなったら撤退致しますので、ご安心を」

主人と護衛ははっきりそう言い切った。二人の決意は固そうだ。

「とにかく、なおさらこの中を進まなきゃいけなくなったわ。私の監視を潛り抜け、王家の者しかれない施設に侵……。気が重いわね」

「行きましょう。僕が先頭で、アマンダさんは王を護ってください」

「こ、心得た」

そんなやり取りをしてから、一行は地下へと降りていくのだった。

○○○

階段は自で燈りがつく構造だった。

足下が明るいのはいいが、自分達の侵があっさりばれてしまったことは心配だ。

そんなことを考えつつ、ステルが階段を注意深く観察したところ、上手に消された足跡が確認できた。

「足跡は一人分です。沢山の何かがったわけではなさそうですね」

そう言って更に進もうとすると、アーティカが聲をかけた。

「ステル君、ちょっと待って」

「はい？」

振り返って見れば、アーティカが集中していた。杖の先端が何度かチラチラと瞬く。

魔力知だ。魔法使い獨特の技はすぐに終わり、アーティカが口を開く。

「うん。奧に何かいるわね。大きな魔力を持ってる。人間でもエルフでもドワーフでもない」

「ここには守護獣が配されているはずですが……」

「侵者がいる以上、それを素直にけ取るのは難しいかと」

ヘレナの言葉にアマンダが続けた。

「……ステルさん、お願い致します」

「わかりました。全員、僕からし離れて進んでくださいね」

そう言って、ステルは再び階段を降りていく。

階段を降りた先にあったのはちょっとした広さの部屋だった。

はなく、殺風景で、中央に何かがあるのがわかった。見れば、壁一面にも複雑な紋様が描かれている。この部屋全が一つの魔法ということだろう。

「……これは」

全員が言葉を失った。

裝置は破壊されていた。

る前にあった石碑と同じような素材で、四角く作られていたらしいそれは、無殘に破壊されていた。

「なんということ……」

「王、待ってください！」

あまりの事に揺したヘレナ王が一歩を踏み出した時だった。

砕かれた裝置の影から、黒いがいきなり飛び出した。

「くっ！」

ステルは即座に前にでて木剣を抜く。

「はぁっ！」

魔力を流しつつの繰り出した一撃に、黒い影は吹き飛ばされた。

これは……。

攻撃の瞬間、木剣に堅いがあった。なくとも、相手を斬ったの覚では無い。

「ステル君！」

「平気です。皆さん、下がって。アマンダさんは王を」

「はいっ」

ステルの指示に、全員が戦闘準備を整える。

「…………」

眼前にいたのは魔だった。

くまで気配をじなかった。

強敵だ……。いや、それにこれは……。

その姿を見たステルに戦慄が走る。

こちらをじっと見る獰猛な食獣のような姿をした魔。

形こそ違うが、そのに見覚えがあった。

「黒い獣……」

それは、都會に出てくる前、ステルが退治した黒い獣と同じ気配を放っていた。