そこからは上へ下への追っかけっこ。樓閣に向かって飛ぶ朱音さんと、それを阻もうとする蛇姫様の神使達。

できるだけ朱音さんも逃げに徹して、暴なことを避けているみたいだけど……。

「銀、危ないっ！」

  何か危険な気配をじて、僕は客車の壁にもたれかかっていた銀の手を引いて抱き寄せた。

比較的小さな銀のは、容易に僕の腕の中に収まって小さくき聲を上げて……直後、銀が背にしていた客車の壁を破って刺が突っ込んできたんだ。

そして聞こえる朱音さんの悲鳴。

「ぎゃああ！！　自慢の客車にがッ！！」

本當に悲痛なびを聞きながら、僕のに頭から突っ込んでもがいている銀をしっかり抱き、飛び出してきた刺が離れるのを待った。

いや、待つべきじゃなかった。こうしている間にも、四方八方から刺が向かってきているのが……“はっきり”とわかったから。

「子鞠、大丈夫！？」

「だいじょぶ……」

こんな狀態でもにへらと笑顔を向けてくれる子鞠には頭がさがる思いだ。

こうして子鞠が構えてられるっていうのなら、銀は僕が助けなくても大丈夫だったんだろうな。

余計なことしちゃったかななんて思いながら銀を見てみると、何やら嬉しそうに尾を振りながら僕から離れて……。

「くふふ、殘念じゃ。子鞠の手前、いつまでもぬしに抱かれておるわけにもいかんでな」

「ご、ごめんね銀。余計なことだったかな」

「余計なことの訳なかろ。わしを守るという己の誓い通りにいておるのじゃから。ぬしが勇敢な雄であろうとすることは嬉しいことじゃ」

そんなことを、慈溢れる笑顔で言われてしまうと本當にどちらが守られているのかわからなくなる。

見た目はくても、銀はやっぱりお姉さんなんだな。

いや、というかこの騒ぎに全くじてないのもどうかと思うんだけど……そこはそれか、銀の膽の據わりようがなせる業かな？

「そう焦らずともよい。いい加減護り火のやつも腹に據えかねとるじゃろうからの」

「朱音さんが？」

「うむ。ぬしを乗せておるが故、手荒な真似はしたくなかったようじゃが……」

その言葉の意味を、僕はすぐに知ることになる。朱音さんの怒號とともに、この客車の中の空気がとんでもない熱を持ったんだ。

涼しいくらいの気溫から、サウナの中のような気溫に。

「こんのお、我が客車におわすのは、かの銀大狼様だぞ！」

「知ったことか、その銀狼ごと中を渡せ護り火の！！」

「客車は壊すし、不敬だし、とにかくむかつくから灸を據えてやる！！　ほら仕事だよ護り火達！」

発したかのように広がった熱は、朱音さんが扱っていた人魂のような火の大群が元だった。

その熱が引くまで、僕は客車の中でじっとしていたんだけれど……。

「もー大丈夫っすよ。全部追っ払っちゃった、てへ」

「てへ、ではないわ。暑くてたまらんではないか。千草も子鞠も汗だくじゃ」

「おっと、申し訳ないっす。いますぐ換気するんで！」

本當に暑……。でもたしかにさっきまでの慌ただしさが一瞬にして収まってしまっていた。

朱音さんの本気を見れたのは良かったんだけど、その本気を見せた朱音さんはというと……。

「あー……。また蛇姫様に嫌がらせされちゃうぜ……」

なんて、ひどく落ち込んだ様子だった。