かつて栄華を極めた緋禪桃源郷は、一度という穢れにより壊滅狀態にあったことがあった。

長き時を経て蓄積されたその負の気に病まされた桃源郷は、荒んだ遊たちと廃墟同然となった家屋にまみれ、死角の世のやしとなるところだった。

そこに現れ、しい桃源郷を取り戻したのが蛇姫だった。

桜を咲かせ、その穢れを集めて浄化させ、かつて栄えた遊郭街を長い時をかけ再建させたのだ。

この桃源郷にとって、蛇姫はなくてはならない存在であり……そして窮地を救った恩人である。

だが、それは緋禪桃源郷の遊達の視點から見た話だ。

蛇姫にとって、この緋禪桃源郷とは……。

……——。

「立てますか、蛇姫様」

「よしなんし……。みっともないではないかや」

「……今更何言ってんですか。まったく意地っ張りな姫さんだよ」

倒れていた蛇姫様を起こして、支える槐さん。

本當は、気付いてあげられなくてゴメンなさいと謝ろうとしてたんだろう。

その言葉を飲みこんで、悲しげに微笑む槐さんと、二人を囲む遊さんたち。

「蛇姫、知恵を貸してやってもよいがその前に……わしの神気の封を解くことじゃな」

「……きしし、あの酒が最初で最後の一太刀であったかや。黒狼もようやったようやった。八雲のやつに薬をやらんと……」

「おい、うぬなにをほくそ笑んでおる。よっぽどわしをコケにしたいと見えるのう」

「ふん、その気はもう失せてしまいんす……」

蛇姫様は懐から漆塗りの杯を出すと、銀の前に差し出した。

銀がその杯をけ取ると、すぐさま杯のそこから淡く青いを放つお酒が湧いてきたんだ。

杯がいっぱいになったあと、銀は杯に口をつけて一気に飲み干した。

ほんとうにいい飲みっぷりで、思わず見ってしまうほど。

「……ふむ。確かに戻ったようじゃの」

「あ、いつもの銀だ」

著もいつもの黒を基調とした上等そうな著に変わって、見た目もお姉ちゃんからお姉さまくらいに。

肩をさらけ出し、大きく開いた元から、おおきくてらかそうなおっぱいがこぼれてしまいそう。

「やはりいつも通りが一番心地よいな！　まったくくだらんことをしおって」

「そうでもせんとわっちに勝ち目はありんせん」

銀は前かがみになって蛇姫様と視線の高さをそろえ、額を小突いた。

蛇姫様はもう反撃する余力もないのか、むすっとした表を浮かべるだけだ。

「その前にあやつらを迎えに行かんとの」

「行かんでも良い。樓閣を元の土地にもどしておきんす」

しばらくすれば気配を追ってくると、蛇姫様は言った。

それより、今すぐ風呂にりたいとごね始めた蛇姫様に付き合って……この緋禪桃源郷で一番大きな天風呂にることになったんだ。

銀と蛇姫様、そして蛇姫様のを洗う槐さんとその他數名の遊さん。

……と僕とで。

緋禪桜に囲まれた、めちゃくちゃ広い巖風呂は予想通りというかなんというか……混浴だったんだ。