《比翼の鳥》第20話:の子
俺は真っ赤になりながら、けない発言をする。
だってさ、この年まで俺、経験無いんだよ?しかも、それに加えて野外?難易度高すぎでしょうが!!更には、隣にルナ?駄目でしょ…どんなに猛者でもこれは無理でしょ!!っていうかそこ超えたら人として駄目でしょ!
そんな俺の様子(と心)を見たディーネちゃんは、ポカーンとした表で俺に問いかける。
「ツバサちゃん…。私はてっきり、私のことや、子供を育てることがけれられないから駄目なのかと思ってたのだけれど…そこが一番問題だったの?」
それを聞かれて、俺は益々けない気持ちになるが、こればっかりは俺の分だ。しょうがない。
若干、やけになりながらも俺は応える。
「そうですよ…。さえ重ねないのであればとりあえずはなんとかなります。そりゃ、子供を持つことに抵抗がないわけではないですが、俺一人だけで育てるわけではないんでしょうし…今は既に一人育てているようなものですから二人に増えたところでどうってことありません。それ以上にディーネちゃんと制約無く一緒にいられるようになるなら、それはそれで願ったりかなったりですよ。俺だってこの世界に來て日も淺く不安なんですから…誰かの助けが得られるなら嬉しい事この上ないですよ。」
それが、俺の事を慕ってくれる人の霊様ならなお更ね…。と心で付け足す。
ぽかーんとしていたディーネちゃんだが、俺の言葉が浸し始めたのか…
「うふ…うふふふふふ♪いや、うふふ、ごめんなさいね…。いや、駄目。あーおかしい。うふふふふふ♪」
と、口に手を當てつつも、笑し始めた。ぐぅ…、恥かしいったらありゃしない…。
もうどうにでもして下さいよ。ええ、ええヘタレですよ。據え膳食えない男の風上にも置けないやつですよーだ。
俺が、イジイジしていると、ディーネちゃんはまだ笑いながらも
「もう!うふ…うふふふ♪始めから私、ツバサちゃんの事を全然理解してなかったのよ。だって、そんな初心うぶなツバサちゃんに仕掛けで迫っていたのよ?始めから間違えてたのよ。これが楽しく無くてなんだというのよ。」
そう一気に捲くし立てると、し落ち著いたのか、それでも微笑みつつ
「ツバサちゃん。貴方は本當に不思議な人。今まで私を求めてきた、どの人とも違う。私のこの衝は間違って無かったって今ならを張って言えるわ。ここまで私の全てを曝け出してれ合った人は…ツバサちゃん、貴方以外に一人としていなかったわ。」
そう、落ち著いてしかしささやく様に言うと、更に続けて
「だからね、ツバサちゃん。心配しなくていいの。今回はそういう方法は取らないと誓うわ。もちろん、そういう事もできるから、したくなったらいつでも良いわよ?」
と、ちょっとにやけた顔で意地悪なことを言う。
俺はそれを聞いて、ちょっと殘念やら、ホッとしたやら、けないやら複雑な気持ちをの中にもてあましつつ…
「それは、ディーネちゃんの事を本當の意味でけれられるようになったら、是非お願いしたいとは思いますよ。今は心的にはとても殘念ではありますが遠慮しますよ。」
そうし茶化しつつ、肩をすくめて言った。
その様子を見たディーネちゃんは、本當に嬉しそうに
「ええ、霊は人とは違う時間軸で生きているから、ゆっくりと待つことができるわ。いつまでも待っているわよ?」
と、軽くかわされた。
やはり三十路のおじさんじゃ、霊様には歯が立ちません。はい。
そんなやり取りの後、ディーネちゃんはこう切り出した。
「じゃあ、ツバサちゃん。最後に確認だけど…本當に私との間に子供を作ってくれるのね?同でも気の迷いでも良いの。けど、んでくれないとこの儀式は失敗するわ。」
それを聞いた俺は迷わず応える。
「大丈夫ですよ、ディーネちゃん。俺は、貴方のその思いと覚悟をじて、この決斷をしたんですから。あそこまで純粋に思いをぶつけられて、無視できるほど薄な人間にはなりたくないですよ。」
俺はそう微笑むと、ディーネちゃんも嬉しそうに頷いて言葉を続ける。
「じゃあ、ツバサちゃん。手を…そう。目を瞑って楽にして。後は私がやるから。」
俺は言われたとおり、差し出されたディーネちゃんの両手に俺の両手を重ねる。そして、靜かに目を瞑ると心を落ち著ける。
ディーネちゃんの手から、澄んだ…しかし、優しい魔力の波が伝わってくる。それは寄せては返し、俺の手から徐々に俺の中へと浸していく。俺はそれをじっくりとじつつも、拒むことなく、けれていく。
しずつ、俺の中心へ、部へと浸した魔力は徐々に一つの流れへと変化していく。
「ツバサちゃん、しだけ頭を私のほうへ…そう、ありがとう。」
俺は言われたとおりに、しお辭儀するように頭を前へと突き出す。
そこに、コツンと、額が合わされる。これはディーネちゃんの額かな?そう思っていると、
「ツバサちゃん…。ちょっと嫌なものとか見えちゃうかもしれないけれど…ごめんなさいね。」
ディーネちゃんが、申し訳なさそうに言った。
その瞬間、俺の脳裏に様々ながり込んでくる。
それは殆どが、暖かくもしいで、たとえば、春の風のようにさわやかで暖かい謝の念であったり、しくすぐったくなる様な恥の念であったり、海のように広く、ゆったりとした安堵であったり…けど、時々締め付けられるような不安であったり、けれられたことに対する戸いであったり、そんな全てのがごちゃ混ぜに襲ってきた。
そんなの波とでも言うものを、ただ素直にけいれる。これは、ディーネちゃんの心?こんなにも嬉しさと優しさに満ち溢れているとは…。それを心でじ、俺は心の中で素直に謝と嬉しさを発する。そうすると、それに対して、ディーネちゃんの心も、くすぐったいような、溫かな思いを流してくる。なるほど、これが心がむき出しの狀態での會話か…。なんて心地の良い覚なんだろうか。これだけ鋭敏に心の機微がじられるなら、そりゃ霊も簡単に人の心に引っ張られるだろう。人の俺ですらそうなんだから。
しかし、この霊様はなんで俺をこんなにまで評価してくれているのだろうか…先ほどから途切れることなく歓喜の念が伝わってくる。その謝の念は、実際にじて見ないとわからないほどで、次から次へと、あふれだす泉から海へと至る川のような盡きることの無い奔流だった。
不意に、閉じたまぶたの裏にが広がっていく。いや、俺の心が何かを映し出そうとしている?
一瞬戸ったものの、俺はそれにも逆らわず、素直にけれていく。
の先に待っていたものは…ディーネちゃんの過去だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最初は小さなの球だった。
それは、様々な人の心にれて、いつしか自我を持つ。
自我を持ったの球は、可らしい小の姿へと変化した。
そうして、しずつ々な人たちと共に寄り添って過ごしていく。
それはとても長い時の旅で、その過程でどんどん人の事が好きになっていった。
ある時、もっと人と接したいとじたその霊は、姿を人の形へと変化させた。
それはの姿で、らしいその姿に人とのれ合いは益々深まった。
しかし、ある時、彼は初めて人によって傷つけられた。
隣人だと思っていた人にの捌け口にされた。必死に逃げようとしたのだが相手は元々霊をそのように使うために用意していたのか、特殊な道によって拘束され、力も出せず、ただただ躙された。
それでも、彼は人を嫌いになれなかった。それが霊のあり方なのか、彼のあり方なのか、あるいはその両方なのかわからなかったが、彼はその後も人と事あるごとに関わり続けた。
何度も人には傷つけられたが、數ではあるが、本當に彼のことをし、大切にしてくれた人たちも居た。しかし、その人たちも、霊を自分たちのためだけに使っていると、方々からあらぬ糾弾をける。それを見た彼は、大切な人たちのために、後ろ髪を引かれつつも、徐々に人から距離を置くようになった。
後に霊大戦と呼ばれる戦いがあった。その頃には、彼は今のように麗しい姿の霊へと変化を遂げていた。
この大戦の一番酷かったところは、霊を強制的に契約させる技を確立した國があったことだった。
彼は魔力に引かれ、無理やり顕現させられ、更に、まない契約を強制的に結ばされ、兵として、時に婦として、時に小間使いとして、まるで意思の無い道のように何度も酷使された。
にまみれ、汚にまみれ、それでも彼が墮ちなかったのは本當に運が良かっただけだった。彼が墮ちるより早く、多くの霊が墮ちたことで、戦爭は世界規模の大いなる災厄へと変貌を遂げ、多くの人が死に追いやられた。彼の契約者だった者たちも、次々とゴミ屑のように死んでいった。そんな彼らをそれでも哀れだと思った。
そして彼たち、生き殘った數の力ある霊たちは、この世界から距離を置くようになった。
それでも、彼たち霊は、人を嫌わない。いや、嫌えない。相変わらず愚かしいながらも、の念に焦がれて手を貸してしまう。本當に悲しい生きだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺は、海底に居た。はるか上層に水面があるのがわかる。
水面からは一條のが差し込み、海底のある一角までを切り裂いていた。
遠くにの瞬きが見えた。それは、水面からびるを反し、まるで踴るように輝いていた。
海底には黒いもやが堆積していた。その黒いもやは禍々しさこそ無いものの、深い悲しみを湛たたえていた。
俺は、この景を見て、涙が止まらなかった。
あまりに寂しく、しかし、それ故にしかった。
そして、ディーネちゃんと思われる一人の霊の語を垣間見た俺は、この景こそがディーネちゃんの心の形なのだと確信した。
は今もキラキラと舞い踴っている。
しかし、そのは々に砕かれて今にも消えてしまいそうな儚さを湛たたえていた。はそれでも、水面から降り注ぐ一條のをけて、必死に輝いていた。俺はこんな景を見てしまったら、もう彼に手を差しべずにはいられないと、心から思っていた。
そして、この今の俺のこそが、先ほどのディーネちゃんが俺にぶつけてきたと同一のものだとじた。
そうか…彼は、俺と同じか。
だからこそ、手を差しべずにはいられないのか。
彼が何故あんなにも真剣に、俺に手を差しべていたのか、心で理解した。
そして、近しいを持つであろう彼を、俺も救いたいと強く願う。
そうだ、こんなに綺麗な心の人を、悲しみの淵に沈めるなど、あってはならない。
そして、世界が弾けた。
目を開けると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたディーネちゃんの姿があった。
俺も頬を伝う涙を止めることは出來なかった。
それは理解をしたことにより救われた喜びと、理解をされたことによって救われた喜びを現したものだった。
俺とディーネちゃんの間にはき通るように蒼く輝く丸い寶石が靜かに浮かんでいた。
きっとこれが…いや、この子が俺たちの子だ。濃な魔力の結晶。その中には小さな宇宙が見える。
俺は、ふとディーネちゃんに意識を戻すと、視線に気づいたディーネちゃんは靜かに微笑んだ。
俺はそれを見て、
「ディーネちゃん。俺を選んでくれてありがとう。そして…ちゃんと、皆で一緒に幸せになりましょう!」
照れながらもそんなし気障な言葉を掛ける。ディーネちゃんはそれを聞いて、「はい♪」と、爽やかな笑顔を浮かべた。
しかし、その表をし翳らせると、
「けど、ごめんなさい。ツバサちゃん。私はしばらくの間、眠りにつくことになるわ…。」
そう言う姿は先ほどよりし薄くなった気がする。
周りを良く見ると、既に微霊はいなかった。そうか、タイムリミットか。
「思った以上に霊力の消費が激しかったみたい。しばらくの間はその子を任せてしまうことになりそうだけど、ごめんなさいね。」
その顔にはし疲労の後が見える。そりゃ大仕事したんだから、疲れるよな。
俺は、勤めて明るく、
「了解。大仕事したんだから、し休んでください。大丈夫。この子はちゃんと面倒見るから。まぁ、子供も、霊も育てたことは無いけど…何とかなるでしょ。それより、あんまり遅いと浮気しちゃいそうだから、頑張って早く帰ってきて下さいね。」
そう言った。
それを聞いたディーネちゃんは、
「ふふふ♪他に好きな人ができたら良いですよ?既に私はこれまでに無いほど貴方に救われ、そしていろいろなをいただきました。それに、私は霊です。貴方の傍に居られればそれで良いのですから。その程度の事でしたら特に問題はありませんよ?」
そう本當に素敵な笑顔で言うのだった。
え?浮気公認?霊ってそんなものなの?何そのハーレムフラグ…。おじさんはまた一つ霊のことについて疑問が増えましたよ?そんな戸いをよそに、ディーネちゃんのが益々薄くなる。
「ツバサちゃん。では、その子をよろしくお願いします。あ、後、良かったら名前を付けてあげてください。私は、貴方の付けてくれる名前なら問題ありませんから。」
そう、名殘惜しそうに、言う。
そして、寶石を俺のほうへと差し出す。ディーネちゃんが寶石を両手で包むと、寶石の周りをしっかりと保護するように裝飾が現れる。そして、それはり輝くと、ネックレスへと姿を変えた。
そのネックレスを俺は、ディーネちゃんに首に掛けてもらった。
わが子は、俺のの上で一瞬、嬉しそうに瞬いた。
その様子を見たディーネちゃんは安心したのか、し寂しそうな顔をした、そして俺を見ると、深々と頭を下げる。
俺も、それを見て、軽くディーネちゃんの頭を、ポンポンと叩く。
一瞬ディーネちゃんは、驚いたように顔を上げたが、次の瞬間、花の咲くような笑顔を浮かべた。
そして、ディーネちゃんはとなって消えた。
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