《比翼の鳥》第24話:不安と笑顔と
やらかしたルナに恒例の説教タイムを行った後、俺らは家路へと急いでいる。
俺はまだベソをかきながら、それでも俺の手を握って俺を先導するように歩くルナを見る。
その顔は、正に「うー!!」ってじだった。
俺だって、そりゃ叱りたいなんてこれっぽっちも思っていない。
けど、判ってもらわないといけない事は、世の中に沢山ある。
今回の件は特にそうだ。
もしかしたら、今の環境なら湖の一つや二つ凍ったところで、そんなに大した被害は無いのかもしれない。
別に、湖一つで生態系の殆どをまかなう訳ではあるまいし、たとえそれで一時的にバランスが崩れたとしても、自然の治癒力はそんなものあっさりと覆して見せるだろう。
しかし…、いやだからこそ、良いということではないのだ。
叱られなければ、この程度ならやって良いと思ってしくないのだ。
ルナの力は規格外で、それはもう簡単に生の命を狩ることができるだろう。
この森をこそぎ吹き飛ばして荒野に変えることも出來てしまうのだろう。それが、彼にとって必要なことで、それを彼が決意し、んでやるのならば、俺は賛はできないもののその意見を尊重はするだろう。全力で止めると思うが…。
そして、これが重要なのだが、普通ではできないことが出來てしまう、その心は必ず傲慢な心を生む。
しかし、傲慢さは、必ず自分へと跳ね返るのだ。これは絶対だ。世の中の真理と言っていい。
その時、跳ね返ってきた自分の業に押しつぶされて、泣く程度で済めばいいが、無くしてはならない大事なものまで無くしてしまう事態には絶対になってしくないのだ。
事実、ルナに話を聞いたところ…俺に褒めてもらおうとして、今回も暴走したらしい。前回も同じような事をしたのに懲りないなと、ちょっと苦笑する。
俺のために何かをそうというその気持ちは本當に嬉しい。が、それなら尚のこと、俺は間違った事をしたルナを叱る義務があった。
俺がいるうちはまだ良いが、何かの事故や狀況の変化で俺が近くにいられない狀態になったら、この子はどうなってしまうのだ…。
『無知は罪』と言う言葉がある。
多くのところで、ソクラテスの言葉と紹介されている事も多いのだが、俺の考えている意味合いと違う。
よって、ここでは、誰が言ったか分からない…もしくは俺流のまったく別の言葉…という事にしておこう。
そのまま素直に、『無知であることは罪深い事である』という意味で、俺はこの言葉を使う。
知らない事がそんなに悪い事なのか?という人が多い。
いや、俺は別に悪くは無いのだと思う。それをもって悪人になるとか、神様に類する何がしから罰をけるとか、そんな宗教じみた事を言うつもりはサラサラ無いのだ。
ただ、ぶっちゃけて言えば一言。
知らないと痛い目を見る事は沢山あるという事だ。
知っていれば対処できるかもしれない事を、知らない為に、そのチャンスを永遠に失う事が多々ある。
まぁ、何と言う事はない。ただ損をするだけだ。
けど、それを黙ってできるのか?
仕方ないさ…知らないんだからと笑ってけれられるのだろうか?
俺にはとても出來ない。あの時こうだったら…。これは誰もが失敗したときに思う事じゃないのだろうか?
あの過去をなかった事にしたい。次はそういう思いはしたくない!!そう考えないのだろうか?
失敗を繰り返さない為には、知識と知恵の共有が必要だと俺は考える。
知識とは知る力を持つということ。勉強の力だ。
知恵とは、知った知識を生かし結果を得る力。つまりは応用力。
この両が回らないと、知識は死ぬ。知識がないと知恵が浮かばない。なんとも歯がゆいものだ。
の王様と言う話がある。あれも見方によっては、王様は永遠に自分の姿を知らない方が幸せに暮らせるというものだ。
しかし、知ってしまったら?知ってしまったら知らない狀態にはもう戻れない。知識を得ると言うことは…一方通行なのだ。
俺だって知りたくない事も沢山あった。も、元の世界の事も、知らない方が幸せでいれたことは多かった。
けど、知ってしまうのだ。いつか分かってしまうのだ。出會ってしまうのだ。
その時に、知らない事が多ければ多いほど、そのダメージは容赦なく跳ね返ってくるのだ。
世界の在り方とは、そういうだと俺は確信している。
自分の無知ゆえに、自分に苦労が跳ね返る。まさに在する自の罪と言わずしてなんだろうか?と俺は皮も込めながら思ってしまうのだ。
だからこそ、最初。俺は、ルナを見てその危機を一層強めた。
この子は、一人だったからこそ、知らなかったからこそ、一人でやってこれたのだろう。
しかし、人と過ごすのであれば、それは駄目だ。知らない、知らなかったではすまされない事もあるのだ。
このままではこの子はいつか、世界の悪意に潰される。かつての俺の様に。
実際に俺を通してではあるが、既に3回も嫌な思いをしている。
もちろん、それは俺がその事をある意味過剰に指摘し、知らしめてしまったからではある。
そういう意味では、俺のせいだ。
これは、俺の勝手な行。ある意味、ルナのためにと言いつつ、自己求を満たすために、彼に知識を植え込んだ。
けれど、ルナは逃げようとしてない。
これは俺が縛っているからなのだろうか?俺の傲慢が彼に変革をしいているのなら、いつか俺もその報いをけるのだろうか…?
もし、それが彼からの審判なら納得も出來る。
そうでないなら辛いかな…。なんて意味も無い事を俺は思考の底で考えていた。
ぎゅっと手を握られた。
それに気づきルナを見ると、ルナは涙の溜まる目で俺をまっすぐ見ていた。
俺とルナの視線が絡まると、ルナは一瞬怯んだ様に目をそらすが、またすぐに俺の目を覗き込む。
ルナの目は相変わらず綺麗なを湛たたえていて、しかし、その目の奧には強い決意が垣間見ることができる。
「ツバサ。まだ、怒ってる?」
ルナは恐る恐る…と言うじで俺に問う。
本當に…全く、この子はどうも俺の罪悪と嬉しさを刺激せずにはいられない生きのようだ。
俺はそんな様子をみて苦笑しつつ、
「いいや、もう怒ってないよ。ルナがちゃんと判ってくれているなら、それ以上怒ったりしないから大丈夫。今は別の事をちょっと考えていたんだ。」
と、ルナに伝える。
そんな様子の俺を、ルナは訝しげに見ている。どうにも納得がいかないご様子。
そして、一言。
「噓。ツバサ、何か困ってる…。それはルナのせい?」
しょぼーんとした聲でそう言った。
もう駄目!!何この超絶可い子!?お持ち帰り!!!
心の奧から有罪!!有罪!!という聲が聞こえるものの…何もかも振り捨てて抱きしめたい衝に駆られる。
その瞬間、我が子達が若干、不服そうに強く明滅した。
はっ!?危ない危ない…。すまん、我が子たちよ…おで助かった…。危うく理を吹っ飛ばされるところだったよ。
俺は心の中で謝をすると、瞬間的にあがったボルテージを、深呼吸して下げていく。
その様子をルナは不思議そうに見ていたが、その目には不安そうな気持ちが見え隠れしていた。
俺はしばし、頭の中で々と雁字搦がんじがらめになっている俺の考えや、ルナへの気持ちを整理する。
俺が危懼している事を、ルナ自に知ってもらうことは、今のルナの狀態を見るにプラスになると思える。というか必須條件だ。
問題はそれが理解できるかどうかだが、それはまた話が別なのではないかと思う。とりあえずルナが知りたいことは俺が何故、思考の渦を巻いているかということだろう。
どうやっているかは不明だが…俺が考えていることで、それがルナに関わる事だというのも、ルナ自が何となくじ取っているのかもしれない。まぁ、魔法とって切っても切れない関係っぽいから、そういう覚に鋭くなっているのかもしれない。
よし、ルナを安心させるためにも、とりあえず、話してみよう。
「判った。ルナ。俺はこれからとても、大事な事を話すよ。それはルナにも凄く関係することで、それで俺は悩んでいるんだ。」
俺は、前置きをすると、先ほど考えていた事をルナへと話し始める。
ごまかしは一切しない。子供相手に何をしてるんだと思われるかもしれないが、誠実に、一人の人間として生徒を扱うと言うのは俺の信條だ。こればかりは、例え馬鹿にされようと譲れない。
ルナは一言一句聞きらさないという意気込みで、真剣に俺の話を聞いていた。
もちろん、俺は、今話していることの全てをルナが理解できるとは思っていない。殘念ながら、俺が自分自で満足するための行為だということもわかっている。
しかし、それでも、俺は何故か、このまっすぐな目を見て、俺ののを知ってほしいと思ったのだ。
ディーネちゃんの時にもじた、俺と言う存在を知ってもらいたいと言う、飢えに似た渇。それをルナにも向けているのかもしれない。
やはり俺の個人的な思いがるためか、どうしても説明する俺の気持ちは熱心に真剣に、そして若干の張を伴ったものになった。一通り、説明にかこつけて思いを吐き出した俺は、ふう…と、人心地つく。
ルナはしばらくの間、俺の放った思いの丈を、じっくりと咀嚼そしゃくしていた。
何となく俺は、それを不安な気持ちで見つめる。上手く伝わっただろうか?これでルナに反抗期にられたりしたらどうしよう?とかである。
なんともけないことだ。いつの間にか俺は、ルナに嫌われる事を必要以上に恐れている…。
そんな、俺の様子を知ってか知らずか、ルナは難しい顔をしながら
「うん。ツバサの言う事は難しい。わからない事も多い。けど…」
そう言った後、満面の笑みを浮かべながら、
「ツバサが、ルナの事…本當に、真剣に考えてくれたこと伝わった…。ありがとう…ツバサ。ルナこれからも頑張る!!」
そういったのだ。
俺はその笑顔を見て、そういわれた瞬間、なんとも言えない不安から開放される。
全く…要するに俺は、心の底でルナに見限られる事を恐れていたのだ。
なんてことは無い…。臆病なのは俺だったと言うことか…
俺は、そう一人そう呟くと、頭をかく。そんな俺の様子を見たルナは、にっこりと微笑むと俺の手を抱きかかえるようにくっついてきた。そんなルナの様子を見た俺は、心の底から沸き上がってくる思いを素直に表にだすと、ルナの手を握って家路を急いだ。
そんな俺たちを我が子たちは、歌うように明滅しながら見守っていた。
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