俺は、第一村人の様子を確かめる為、背中を向けながらも聲をかけた。

「いきなり失禮！！なんだかやばそうだったから助けにったけど、怪我は無いか？」

そう問いかけると、ビクッとした雰囲気の後、

「は、はい。だ、大丈夫です…。」

と、おっかなびっくりで、囁くように話してくる聲を聞いた。

その聲は、本當に儚くて、けど、小さな風鈴を鳴らすような涼しさと可らしさを包したものだった。

おうけぃ…とりあえず、怪我も無く無事なようだ。後は、この狀況を打開すれば終了だな。

そう思いつつも、俺は周りに知の網を張り巡らす。

ルナは…この様子じゃ、まだあと２分はかかるかな…。あんまり強化魔法得意じゃないもんなぁ。

ふむ、トラモドキの數は２４頭。さっき１頭、どさくさに紛れて殺してしまったから元は２５頭か。なかなかの大所帯じゃないか。可能であれば、魔力開放で一気にビビらせて帰らせるのも手なんだが…第一村人がいるからなぁ。あの魔力見られるの恥ずかしいし、なんか変な噂立ったら嫌だからなぁ。

同じ理由で、魔法陣もあまり見せたくないし。そうすると、地道に毆って潰していくしかないのか…はぁ…。

俺は、その地道な作業を思い描き、面倒臭さにちょっとため息をつく。

そんな俺のため息を、何か別の解釈をしたのか、第一村人から

「旅のお方…こんな所で私の為に、命を無駄にしないで…下さい。この數のティガに一人ではどうにもなりません。私なら…覚悟はできています。お気になさらず…行ってください。」

所々、死への恐怖をじさせつつ、それでも第一村人…まぁ、聲からしてだから彼か。彼は、俺を逃がそうとしてくれた。そこには見返りの無い誠意と、謝が見え隠れする。

そうか、あのトラモドキはティガって言うのか。タイガーを文字ってるだけじゃん。まぁ、良いけど。つか、森にトラってすごい違和しかないんだよな。まぁ、異世界だからなんでもありなんだろうけどさ！！

そんなよく分からない事を考えつつも、彼のとても人間臭く、さりとて誠実な心を見せられたら、もう嫌だとか面倒だとか言っていられない自分がいた。

あまり殺生は好きじゃないし、調子に乗っちゃいそうだから、ルナの到著を待って、適當に追い払おうかと思ったのだが…後ろで気丈に振る舞っている彼の為にもてっとり早く終わらせようと考えを変える。

俺は、後ろも見ないで、魔力を練り彼の周りに全屬の防護結界をる。

「ちょっと危ないから、目を伏せててね。すぐ終わるからさ…。」

姿勢を低くした俺は、そう言い殘して、群れるトラ…もといティガの中に突貫する。

先ず、ターゲットにした１頭のを無造作に右手で毆り飛ばす。その近くの一頭をそのまま、左手で摑んで…別の１頭に投げつける。「ギャウン」とし濁った聲で鳴きながらぶつかり合って２頭まとめて吹っ飛んでいく。後ろから、２頭が連攜して飛びかかって來るが、俺はそれを視線を向けずに避けてから、叩いて落とす。俺は、後ろにそのまま跳躍すると、３頭ほど近くに固まっていた奴らの中心におりたち、視界にれずに無造作に１頭を摑みあげ、それで殘りの２頭をなぎ倒す。

ここまでやって、俺は一回ティガの様子を伺うため、彼の元に跳躍して戻る。

囲みは薄くなったものの、いまだ健在。空いたをふさぐように、し離れた所で外の囲みを作っていた個が、やって來て配置についている。ふむ、これじゃ、戦意は喪失しないか…。今けるのは、殘り１６頭。うーん、どこまで倒せば諦めてくれるかな？

そんな事を腕組みしつつ考えていると、一番外側の安全な部分に１頭だけし魔力が大きい個がいる事が分かった。

ああ、これがボスか。これ潰せば終わるかな？俺はそう考え、すぐに行に移す。

俺は、ボスに直線で突貫する。途中の雑魚は文字通り薙ぎ払った。４頭ほどぶっ飛んだのが知越しにじられる。

直ぐ前に、し他の個とは並みの違う奴がいる。特に傷も無く、その並みは金で、目には強いが見える。そして、その目には知がじられた。それを確認すると、問答無用でボスを瞬殺するプランから俺は軌道修正する。

ボスの前まで來ると、そのままの勢いで木を蹴り継ぎながらボスの後ろへと回り込む。

あっけなく俺を見失ったボスは、そのまま唸り聲を上げていた。そんなボスの後ろに降り立った俺は、著地と同時に無造作に右手でそのを摑みあげる。ボスが、激しくをよじって抵抗する。だが、爪やひっかきが俺のに到達する前に、質の障壁に阻まれ、その足掻きは屆かない。周りの數頭が飛びかかってくるも、俺は殘った左手とボスのをそのまま武にして叩き落とす。

俺は、ボスを摑みあげたまま、その目を睨んでこう言った。

「お前等も生きるためだから狩りをするのは仕方ない。が、今回は運が悪かったな。俺の前で人殺しはさせない。やるなら、全員、土に帰ると思え。」

そして、俺は、彼にばれないように、そっと、摑んだ右腕から、ボスのに俺の想いを載せた魔力をし通す。

この方法なら、外に魔力が出ない為、ばれる心配はない。しかし、直接魔力を注されたティガのボスはそうはいかない。ダイレクトに俺の魔力をじることになる。それで格の違いを分かってくれれば引くだろうと思ったのだ。

その魔力の本流をじたのだろう。一瞬、ボスはビクッと震えると、急に大人しくなる。

そんなボスの様子を確認した俺は、無造作にボスのを放り投げる。ドサッと音を立ててボスは、倒れ込むも、ふらつく足取りで何とか立ち上がった。

その瞳が俺の方を睨み…俺もその瞳をけ止める。そうして、何秒かたっただろうか。ボスはクルリと背を向けると去って行った。それに続くように周りを包囲していたティガ達も去って行った。

俺は知を継続しつつも、もう脅威はない事を確信していた。

その時、ちょうど白い塊が俺の前に飛び込んできた。

そして、俺にしがみつくと、

「ツバサ！怪我無い？大丈夫？」

と、心配そうにのあちこちをり始める。

心配してくれるのは嬉しいんだが、ちょっと心配し過ぎじゃないですかね？ルナさんや。

それはそんなルナの様子にありがたさをじつつも苦笑すると、ルナの頭をポンポンと叩いて、村人である彼の元へと向かった。

村人さんは、結界の中でちょこんと座りこんでいた。なんだか、意識がどこかに行ってしまっているらしい。

そして、俺は結界を解いて、村人さんと初めて正面から向き合った。

その姿を見た瞬間…俺は我を忘れて見ってしまった。

ちょっと茶がかったくすんだ金の髪を後ろで二つに束ね、その髪が腰のあたりまでびているのが分かる。

顔はややいもののでもなく、さりとてと言うには難しい。し丸っこい顔に、大きめの目は深く緑のに染まり、今は焦點が合って無く、何処を見據えているのかわからない。服は、まるでエプロンドレス。所々に凝った刺繍がい付けられており、その模様は決して派手ではないものの、しっかりと自己主張をし、可らしさを十分に引き出していた。見かけだけ見れば、ちょっと綺麗な町娘と言ったじだ。全的にらしさがにじみ出る、親しみやすい風貌をしていた。

しかし、そこでは無いのだ。そんな彼の可らしさを吹き飛ばす最強アイテムが鎮座しているのだ…。

それは、頭の頭頂部から、左右にし別れた位置に鎮座する、まるで犬や貓のようなピーンと立った三角形の耳…。

そして、腰から延びる金のふさふさ…どう考えてもしっぽ…。

俺は、その景を見てのあまり震え出す。そう、今、ここに人類の究極の夢がある！！元の世界では絶対に見る事の出來ない夢！！そう！決してだ！！それが今、ここに！！現存する！！素晴らしい。素晴らしいぞ！！異世界！！

そんな俺はその奧底から湧き出る心をびに変えた。

「獣っ子！！！キターーーーーァアアアアアアアアア！」

後で、ルナに冷たい目で見られたのは緒である。

俺の絶で目が覚めたらしい獣っ子さんは、一瞬、何が何だかわからないという顔をしたのちに、ハッと俺の方を向いて、

「無事でしょうか！？」

と、勢いよく聞いて來た。

それに興の冷めやらない俺は、

「ええ、とりあえず獣っ子の登場にできるくらいに元気です。」

と、訳の分からない答えを返した。それを聞いて、獣っ子さんはとりあえずはホッとした様子だった。

その様子を見ていたルナが、俺のジャケットの裾をチョンチョンと引いた。

ああ、なるほど、自己紹介がまだだったかな。

「っと、改めまして、自己紹介させて下さい。俺は佐藤翼。こっちは、相棒のルナ。どちらも旅の途中です。」

そう、これはとりあえず、人と會ったら、旅人という事にしておこうという、俺とルナとの取り決めだった。

俺の言葉に合わせて、ルナがお辭儀をする。とりあえずこちらの禮節は知らないが、誠意を見せればきっと大丈夫だろう。

その自己紹介をけて、獣っ子さんも名乗る。

「名乗りもせず…申し訳ありません…。私は、ルカール村のリリーと申します。助けて頂いて、ありがとうございます。」

そう丁寧に自己紹介をしてくれた。その顔には困と、そして、命の危機を切り抜けた安堵の表が浮かんでいた。

話を聞くと、リリーは薬草を取りに來ていたとの事だった。

此処の所、母親の調子が悪いらしく、しでも改善のきっかけになればと、摘みに來たらしい。

俺等はせっかくなので、道中、護衛する事にした。

既に薬草は摘んだ後で、帰り道だったようなので、そのまま一緒に村へと歩き出したのだ。

リリーは、お禮も兼ねて是非家へいらして下さいと言ってきたので、俺はそのご厚意に甘える事とした。

その道中、俺はリリーに獣っ子達の事を詳しく聞いていた。

獣っ子の一族は、人からは亜人と呼ばれているらしいが、どうやらそれは侮蔑を含む別稱の様だ。

リリーは、金狼族と呼ばれる種族の様で、今から向かうルカール村も金狼族や銀狼族等、オオカミや犬の眷屬をそのに宿す種族の集まりらしい。

そこまで聞いて、リリーはとても不思議そうに俺に聞いて來た。

「ツバサ様、ルナ様。お二人は私の事が気持ち悪くないのですか？」

それに対して、２人とも「なんで？可いじゃないか。」「どこがですか？とっても可いです。」と、示し合わせたように答えた。

その答えを聞いて、ますます、リリーは驚く。

「お二人がどのような場所で暮らしだったのかはわかりませんが…この世界で我々の様な種族は人と似ていながら、異なる部位を持つという事で、とても気味悪がられているのですよ？」

それを聞いた俺は、思わず、

「いやいや！！その獣耳に、しっぽ！！最高じゃないか！！そのモフモフは、正に至高！！それを貶けなすなんて、とんでもない！！」

と、答えていた。うん。魂のびだよ…これは。

その言葉を聞いて２人とも、「モフモフ…」と、呟いていたが、ルナは分かってくれたのか、俺の目を見つめると、力強く頷いた。

そんな様子に尚も釈然としない様子だったリリーだが、とりあえず俺達に害意も悪意も嫌悪も無いとじてくれたのだろう。

ホッとした表で、俺達の方を見て、

「それならば安心して、私達の村へご案できます。もし、私達の姿で不快な思いを與えてしまう様でしたら、折角お禮をしたくても、難しい事ですから。」

歩きながらもそう微笑むと、「お二人ともとっても変わっていますね。」と、鈴が鳴るように笑ったのだった。

俺とルナは、そのリリーの様子をみて、微笑むとリリーの後について行くのだった。