前略、元の世界のご両親様。

皆様、ご健勝でいらっしゃるかと思いますが、その後、如何お過ごしでしょうか。

不肖ながら、貴方達の息子である、私は、今日も何とか元気に生きております。

ですが、今の俺の姿を見たら、きっとお二人は泣くでしょうね。ええ、もう確信できます。

「さぁ、ツバサ様。ご飯ですよ。どうぞ、飲み下さい。」

目の前に突き出される、形の良い房に、俺のはいとも簡単に吸い込まれていく。

んま、あま、ばぶぅ……。

って！？　駄目だってば！？　何やってんの俺！？ 

だが、俺の心のびは、「あわぁ～」と言う間抜けな聲として、外界へと発せられた。

「あらあら、ツバサ様、駄目ですよ。もっと頂かないと、大きくなれませんよ。」

躊躇もなく押し付けられたそのらかなに、吹けば飛ぶような俺の理は、あっさりと駆逐され、は數秒かからずに陥落する。

うま、うま、ままぁ……。

……あああぁぁああ！？　違うんだ！　俺は、そんな事をんでなんか……なんか……あだぁ……はっ！？

再度、「あぶぅ～」と言う間抜けな聲が響く中、リリーは俺の頭を優しくでながら、慈の満ちた顔で俺の顔を見る。

やめろ、止めてくれ……リリー。俺をそんな目で見ないでくれ。なんか、もう良いかなとか、思っちゃうじゃないか。

「ふふ、ツバサ様、可い。」

ギュッと抱きしめられ、俺は彼のらかさと溫に包まれる。

ぐ……この歳になって、母親の偉大さと、人生で味わった事も無い恥心に翻弄される事になるとは……。

おっさんに赤ん坊プレイは、々荷が重すぎる。

本來ならば、全力で拒否したい所だ。流石に、この狀況は、俺には々な意味で、高度すぎる。

だが、リリーの幸せそうな笑みを間近で見ていると、無下に突っぱねる事も躊躇ためらわれた。

まぁ、そもそも、突っぱねるとか言う以前に、思い通りにかない上に、俺は彼と會話すらできない狀況ではあるのだが。

俺は意識を取り戻してから、彼と會話しようと何度か試みているのだが……見て分かる通り、全くしゃべれなかった。

何より、俺のが……と言うより、本能の部分なのだろうが、俺の意思とは関係なく、彼の房を貪る為に、勝手にくのだ。

俺が目を覚ますと、彼の房が既に目の前にある狀態だったりする訳で、そんな狀況では1秒も持たず、本能に屈服する事になる。

それにさ、暖かいやら、甘いやらで、今迄経験したことも無い、多幸に包まれてしまうんだよ。

俺の理なんて、これほど大きな覚の前には、紙くず同然だ。

だが、そんなゴミのような理を崩壊させながらも、現狀をどうにか把握しようと務めていた結果、分かったことがある。

まず、どうやら、彼が與えてくれているのは、母ではなく魔力だ。

この何とも甘で後味もスッキリとしたモノが俺の心を溶かす訳だが、不思議と口の中には殘らないためでは無いのだろう。

そもそも、こんな味しいものが、うまうま……人のから出ているとか……あむあむ。

はっ！？

気がついたら、またもや、俺はリリーの房を貪っていた。

まて、俺の！？　それで良いのか！？　おっさんのやって良いことじゃないぞ！？

「うやぁ～」と聲が出た気がするも、そんな事は気にしていられない。

何とか俺は、の支配を取り戻し、リリーの房から口を離すと、彼を説得する為に彼を見つめた。

そうして、なけなしの理と尊厳の全てを賭け、俺はリリーへと語りかける。

「あぅ～～～～リリー俺はこんな事を、あやぁ～～～～～～～んではいないんだ」

「あら、ツバサ様、もうお腹いっぱいなんでちゅか～？」

「だうぅ～～魔力が必要なら、あうぁ～～～～～こんな形でなくても、んきゃぅ～～～～～出來るんじゃ、あ～～～～～！ないのか！？」

「ふふ、今日はご機嫌斜めなんでちゅね～。大丈夫でちゅよ～。私がちゃんと守りますからねぇ～」

全く通じていなかった……。

絶に打ちひしがれる俺をよそに、優しく微笑みながら、俺を見下ろすリリーの表は、慈に満ちている。

そして、彼の赤ちゃん語が妙に癇かんに障さわる上に、恥ずかしいとあって、突っ込みどころが満載である。

だが、そんな狀況に追い込まれつつも、俺の言葉は、全くもって彼に伝わる様子を見せないのが悲しい。

しかし、何だろうか、今まで自分の事で一杯だったが、今の彼の様子に何か引っかかる點があると、俺は気付いた。

そして、一回気になりだすと、それは波のように俺の心を揺さぶる。

そんな衝に突きかされるように、俺はもう一度、彼をよく観察する事にした。

笑顔を浮かべるリリーの顔に刻まれた傷。それは、右頬から首の近くまで続いていた。

特訓の際に暴に切りそろえた髪は、前と同じような長さを取り戻している。それはを浴びて、幻想的な雰囲気をまとい、靜かに輝いていた。

上をはだけてしまっているが、どうやら、ブラウスのようなにを包んでいるようだった。見ると、生地も中々に上質なのようである。

違うな、そんな表面上の変化ではない。

もう一度、彼をよく観察する。

相変わらず、耳と尾の制は甘いようで、耳が風でも起こす勢いでパタパタといている。彼のに隠れて見えないが、尾も大変なことになっているのだろうな。何となくじる空気の流れが、それを確信させた。

空気といえば、ここはどうやら、狹い部屋のようだ。

一応、採はされているようで、彼の橫から日のが差し込んできている。

それが彼の髪をしく見せていたのだろう。

となると、部屋の口が何処かということになるのだが、俺の視野の範囲には、それらしいは無いことから、彼の背に隠される形であるのだろう。

「ふふ、ツバサ様、ここが何処か気になりますか？　大丈夫ですよ。ここは安全ですから」

そんな風に、周りの様子を伺っていた俺の様子を見て、彼はらかく微笑む。

……そうか……そうじゃない。目だ。

優しい微笑みの奧に、何か大きな意志をじる。俺の知っている彼に、その片鱗はあったが、ここまで確固たるではなかった様に思う。

だが、今の彼は何か一本芯が通ったようにも見える。

それは、恐らくだが、先程の彼の言葉に現れているのだろう。

彼は、俺を守・る・と言った。

それはつまり、彼は俺を守らなくてはならないような狀況であり、その為に戦ってきたのではないかと推察できる。

頬の傷も、やつれた顔も、その証なのだろう。

リリー……君が、俺を守り続けてくれたのか？

俺のに、謝と共に、苦い気持ちが湧き上がる。

本來なら俺が彼を守るつもりだったが、実際は逆だ。俺がこんな狀況になって、彼にきっと多くの苦労を背負わせてしまっている事だろう。

俺はそんな彼や、他の家族達を守る為に、ここに帰ってきたんだろう？

こんな事、やっている場合じゃない。

何故かは分からないが、楽しくて仕方ない様子で微笑むリリーに俺は視線を寄越す。

そんな俺の様子が今までと違うことに、彼は気がついたようだ。

首を傾げつつ、俺の顔を覗き込んできた。

そうだ、手はある。言葉が駄目なら、文字だ。

俺は指先をリリーへと向け……虛空に文字を書こうとした。

「あ……」

驚いたリリーが、言葉をらす中、淡い煌めきが空中に浮かび、それが虛空にの軌跡となる瞬間……強烈な倦怠が俺を襲う。

あ、これあかんやつだ。

そんな、悠長な事を頭の片隅で思いながら、俺の意識は急速に闇へと引きずり込まれたのだった。

「まったく……びっくりいたしました。ツバサ様は赤ちゃんなんですから、魔力を使おうとかしちゃ駄目です！」

あれから１時間程、盛大に気絶していたらしく……開口一番、リリーに叱られて、俺はシュンとしつつも、彼の房から魔力を貪るように吸っていた。

どうやら、彼の言うように、俺のには殆ど魔力が無いようだった。

冷靜に考えれば至極當然なことであり、だからこそ、俺のは本能のままに、魔力を貪ろうとするのだろう。

しかし、困った。これでは、本當にただの赤ん坊である。

しかも……これでは文字が書けないではないか。

本來、どういう形であれ、魔力を流し込んで貰えさえすれば、問題ないはずだ。そうしたら、工夫する余地もあるというのに。

……そう思うも、今迄の出來事を思い出し、傍と思いたる。

あれ？　そう言えば、俺って、他の人から魔力供與ってけた事無いよな？

勿論、手違いと言うか、若気の至りと言うか、ちょっと手がって膨大な魔力を得るようになったのが、そもそもの発端ではあったが、冷靜に考えてみると、他の人が魔力のけ渡しをしている姿を、見た事が無い。

考えてみれば、森でレイリさんに魔力供與を行った時も、酷く驚かれた事を思い出す。

つまり、魔力供與は、本來、この様な形で行われるという事なのだろうか？

何て素晴らしい……じゃなくて、悩ましいんだ。

そんな風にリリーの房……から出る魔力を貪りつつ、俺が悩み続けていると、突然、轟音が部屋に響いた。

「おう、お嬢！！　いつまでかかっとんのじゃ！」

それと共に、リリーの背中側から響く大聲に、彼は慌てた様子も無く、背中を向けたまま答える。

「ダグスさん……扉は靜かに開けてって、いつも言っていますよね？　あと、ツバサ様がびっくりしちゃいますから大聲も控えて下さい」

うん、びっくりしたよ。まぁ、扉がそちらにある事が分かったのは、良しとするが。

しかし、この突然の者は……一？　しかも、なんか、どっかで聞いた名前のような？

「ちっ、細けぇ事は気にするなよ。んで、まだかかるのかよ？　今日は、小娘が來る日だろ？」

俺の疑問を他所よそに、更に新たな報が増え続ける。

「まだ、ツバサ様がご満足されていないので、無理です。ダグスさん、代わりに出迎えて下さい」

そんな彼の聲に、リリーは俺と二人きりの時とはまるで別人のように、淡々と答える。

おう、何かリリー凄く偉そうだぞ。うーむ、一、何がどうなっているのやら。

小娘？　出迎え？　相変わらず謎な狀況に、俺は思わず首を傾げる。

そんな俺の様子を見て、リリーは笑みを浮かべる。

「ふふふ、大丈夫ですよ。ツバサ様は、何も心配する必要は、ありませんからね」

俺の頬をぷにぷにと突っつきながら、楽しそうにそう口にする彼の聲は、先程と同じように自に満ちていた。

そんな態度が癪に障ったのか、それとも、他に理由があるからなのか、背後から響く聲には、若干苛立ちが篭もる。

「ったく、そんな鬼、放っておけや。ああ、そうだ、魔力だけなら俺でもやれるだろ。ほれ貸せ」

「いやです。ツバサ様のお世話は、私がします」

「んな事言っても、魔力吸わせるだけなら、俺でも良いだろ。それに、お嬢のも、俺のも、言うほど変わら……」

その瞬間、俺は浮遊に包まれる……時を置かずして、轟音と共に、彼の聲が途切れた。

それが何を意味するのか、瞬時に俺は察せられた。ああ、それは幾ら何でも駄目だろう。

見るとリリーの耳は天を突いていた。うん、彼の逆鱗にれたよね、これは。

リリー気にしなくて良いんだぞ。俺は、君のは素晴らしいと思うぞ。

俺は心で語りかけながら、しだけ同しつつ、彼のから魔力を吸う。

そんな風に、風通しの良くなった部屋の外で、誰かが騒ぐ聲が響くのを、何ともなしに聞きながら、俺は、彼の魔力を一心不に吸うのであった。