《比翼の鳥》第29話 起床、そして穏やかな日々(11)
俺の困を他所に、模擬試合が始まってしまった。
マイスと呼ばれていた獣人は、周りに素早く視線を向ける。
それだけで、周りの獣人達は、音もなく、そして連攜の取れたきで、リリーと俺を包囲した。
おお、聲もかけずに、視線だけで、瞬時に連攜したわ。
そのきを見て、先程までの馬鹿なやり取りで下がっていた、彼らの実力を上方修正する。
運部で、しかもチーム戦主事とする競技を験したことのある人なら、この凄さが理解できるのではないだろうか?
よっぽど、激しい訓練を積んでいるのだろう。その一端が、垣間見えるきだ。
だが、心している場合ではない。
俺の魔力は今もうなぎ登りである。
86,323 / 1.5・
どこまで行くかは不明であるが、既に循環を止めると支障が出るレベルに達していた。
恐らくだが、今、循環を止めると、蓄積した魔力が外に放出される。前もそうだったから、まず、間違いないだろう。
前の俺は、正に天文學的數字の魔力を蓄積できていたから、余剰分だけが吐き出される形になっていた。
まぁ、その余剰分だけであれだから、酷いものだが……。
ちなみに、今の俺の最大魔力蓄積量は、見ての通り、1.5だ。殘りは、循環を止めた瞬間に、放出されるだろう。
この位なら、せいぜい、このあたりにクレーターが出來る程度で済むだろうが……心地のリリーがちょっとだけ心配である。
背中に弾を背負っているようなものだからな……無防備な背中にフレンドリファイアとか、最悪過ぎるわ。
ちなみに、そんな弾を抱えたリリーは、俺の変化に全く気がつく様子も無く、今も涼し気な顔をしたまま、周りを取り囲む獣人達を眺めている。
とりあえず、しでも消費するために、強化の維持に加えて、知覚強化に魔力を回す。
一瞬、視界が歪み、軽い目眩にも似た酩酊めいていかんが起こるが、すぐに慣れた。
間延びした時間の中で、俺は更に、【アナライズ】を継続使用しつつ、自分の狀態を把握しにかかる。
109,401 / 1.5・
むぅ、まだ減らない。増える一方だ。
循環さえ止めなければ、まずいことにはならないと思うが、制の効かない力は、やはり恐ろしく思える。
ついでに、最悪のときに備えて、ファミリア造用の魔法を頭の片隅で用意しておこうとして、ふと気がついた。
これだけ魔力があれば、魔法陣、行けないかな? まだ無理かなぁ?
とりあえず、試してみるのが早そうなので、ちょっくら簡単な魔法陣を描こうと意識を集中させる。
勿論、隠蔽しながらであるが、頭上に描くじで、単層極小の魔法陣を描きにかかった。
わずか、2文字とその縁を描いたその瞬間、俺の意識がグラリと揺れた。全としては、1%も進んでいない。
ちょ、待って。枯渇するぅ!? 枯渇しちゃう!?
俺の思う以上の速さで消費される魔力をでじ、慌てて、俺はその作業を中斷する。
途端に意味を失い、消失する魔法陣の欠片。それは、他人には見えない粒子となって、宙に霧散する。
今更にして知った。魔法陣って、こんなに魔力使うのかよ。
保有魔力が2桁まで減った段階で、何とか中斷できたので、その後、魔力がまた増え始める。
ああ、今、循環を切れば、問題なかったのに……けど、何があるかわからないから、強化だけはしておきたいし。
うーむ、ままならん。
腕を組み、唸るも、結局、魔力がドンドン増えていくのを俺は見ることしか出來ない。
まぁ、最悪、今みたいにして、枯渇寸前まで持っていってから、循環を切ればいいというのは分かった。
魔法陣や魔力の使い方としては、盛大なる無駄であるが、これも仕方ないだろう。
そんなある種、無駄なことをしている間に、事態はいたらしい。
聲をわすことも無く、素早いきで飛びかかる3人の獣人達。
そのきは、洗練されたではあったが、いかんせん、相手が悪かった。
リリーは、その場から一歩もくこと無く、指先だけで、その3人の攻撃を順番にいなすと同時に、額を小突く。
瞬間、冗談のような速さで吹っ飛んでいく獣人達。
それらは、良いび聲を響かせながら、綺麗に森の中へと消えていった。
おお、リリー強いな。以前よりも作に無駄がない。
俺も近接戦闘はあまり得意な方ではないが、今のきが、常人離れしていることは、良く分かった。
だから、深く考えず、俺は拍手をもってリリーへの賞賛を示した。
それを聞いて振り返り視線の合った彼に、俺は笑みを浮かべると、言葉をかける。
「あぶぅ驚いた、あうあ以前よりもあううぁ~~遙かに強くなった。あやぃあ~~頑張ったんだね!」
俺の聲を聞いたリリーが、一瞬、耳と尾をぶわりという擬音が似合う勢いでふくらませると、満面の笑みを浮かべる。
「はい! はい!!! 私、頑張りました!」
そんな彼の姿を見て、思わず俺は笑みを浮かべる。
そして、それは、周りの皆にも染したようで、呆けたような視線がリリーに注がれていた。
おいおい、戦闘中にそれは駄目だろうと思いつつ、だらしない表を浮かべる獣人達の様子を見ていき……一人だけ、真面目な顔をしている獣人と目が合った。そう、ダグスさんだ。
それも、俺と顔を併せた瞬間、実に良い笑顔を返す。
うん、イマイチ、この銀狼族の親父さんが何を考えているか、わからん。
まぁ、リリーに毒気を抜かれているという訳ではなさそうだが、他に何かの意図をじるんだよなぁ。
何となく、宜しくない狀況が起きそうな気がして、気になる。
あのダグスさんが、嬉しそうにこの狀況を見ている。ただそれだけなのだが……。
だが、そんな俺の憂慮を知らないリリーは、嬉しそうに更に騒なことをぶ。
「うふ、うふふふ、ツバサ様に褒められちゃった。……よぉ~し、やりますよぉ~~! 次、死にたいのは誰!? かかってきなさい!!」
いや、殺しちゃ駄目だろ。
思わず心で突っ込んだが、そんな騒な彼の言葉をけて、締まりのない顔をしていた若者達は、何故だか更に、その表を緩ませた。
「俺、あんな笑顔の姉……初めてみたわ」「俺もだわ……」「もう、死んでもいいや」「俺も」「姉、マジ、天使」
そんな言葉が彼らの口かられるのを伝え聞き、俺は天を仰ぐ。
いや、君ら、割と本気で死ぬかもしれないから。ちょっとは、気をつけよう? けれたらマジで死ぬからね? 天使が來るよ? 別の意味で。
だが、俺の心の聲が、彼らに屆くはずもなく……そして、同時に、リリーにも理解を促すことも出來ず、彼のほぼ視認できない攻撃が、呆けていた彼らの數人を吹き飛ばす。
悲鳴を上げる間さえ無く、同時に數人が森へと地面と平行に吹っ飛んで行く景を見て、恐らく拳圧だけで、吹き飛ばしたんだろうと言う事は分かったが、細かい所は、俺にも見えなかった。それ程までに、鋭く早く、そして重い一撃だったのだ。
その景を見て、益々、笑みを深くするダグスさん。その目に、食獣を思わせる、剣呑なが燈ったのを、俺は見逃さなかった。
おい、親父さんよぉ。もしかして、あんた……。
先程からじていた違和が、漸く確信へと変わる。
だが、飛んでいった獣人達が豪快に森の木々をなぎ倒す音を響かせるに至り、俺の思考は中斷され、漸く殘った獣人達に張が戻った。
そして、対してリリーは既に、ヤル気満々だ。その自信有りげにそそり立つ獣耳と、先程から落ち著きのない尾のきが、それを俺に教えてくれていた。
もう、この手のノリノリモードにったリリーに、思慮という文字は無い事を、俺は経験上、良く分かっていたし、これから起きる慘狀も容易に想像できた。
更には、その先の展開も、ある程度ではあるが、確信する。
とりあえず、今のところ、死人が出ていないのは【サーチ】で確認できているし、一応、そちらは大丈夫だろうと思うことにする。
流石に、俺の今の魔力では、【イージス】クラスの魔力障壁は厳しいしな。
かと言って通常の障壁では、殘念ながら、彼のヤル気十分な攻撃を防げる気がしない。
それよりも、問題は……あの親父さんの方だわ。
あれは、まるで楽しいアトラクションが、自分の番に回ってくるのを待っている子供の目だよ。
くそ、あの親父さん、必ず介してくる。
そうであるならば、後手に回るが、治療をベースに立ち回ることを考えた方が良さそうである。
そう判斷を下した瞬間に、若者達がいた。
四人ずつのチームが、れ代わり立ち代わり、その位置を変化させ、リリーへの方位を狹めていく。
ふむ、どうやら波狀攻撃を仕掛けるようだな。
そのきを見て、リリーも笑みを深めると、ボソリと呟いた。
「うん、いいきですね。ですが……まだ、甘い。」
その瞬間、リリーの両足から地面に向けて、大出力の魔力が放出される。
それは彼を中心に、綺麗な円を描きながら、まるで水面をる波紋の様に広がり、方位を狹めてきた獣人たちへと、視認できるギリギリの速さで向かった。
「ッ!? 散開!?」
それを見てマイスと呼ばれていた獣人が、跳躍しようとするも、時既に遅かった。
広がった魔力波にれた者達が、皆、一斉に地面へとその半を沈ませ、瞬時に囚われる。
「な!?」「うお!?」「これは!?」「ぐぁ!?」「姉の魔力ぅ!!」
そして、リリーはその結果を確認する間もなく、既に次の作に移っていた。
その拳を地面へと打ち付け、その先から先程にも劣らない規模で、魔力を放出する。
「!」
彼が短く吐いた力ある言葉に呼応するかのように、地面から金のが迸り……次の瞬間、轟音とともにそれは地を割り天へと高く噴出した。
そして、同時に、地面へと捕らわれていた哀れな生贄達も、天へと吹き飛ばされる。
【サーチ】で見ると、この時點で全員、綺麗にノックダウンである。
そして、【サーチ】で全方位を探索していたからこそ、気付いた。
ダグスさんが先程の場所にいない……そう思った瞬間、その反応が天高くから返ってきた。
あんの筋バカが……やっぱりこうなるのか。
他の吹き飛ばされた獣人達と相対速度を合わせるかのように、一緒になって急降下してくる。
リリーは大技を放ったせいか、はたまた大規模の魔力放出で気が抜けているからか、彼の降下に気づく様子がない。
間延びした覚の中、徐々に大きくなるダグスさんの姿を見て、急いでリリーの背中を叩いた。
ゆっくりと振り返ったリリーの顔には、誇らしげな表が浮かんでいた。
どうですか? ツバサ様、私強くなったでしょう?
そう言いたかったのだろう。その言葉が口をついて出そうになった瞬間、俺の知らせたかった異変に気がつく。
だが、彼の降下は早い。もう數秒で彼の攻撃は、彼に屆く。
急いで魔力を練ろうとしていたリリーだが、俺はそれでは間に合わないと悟った。
喜々とた表で急降下してくる彼の拳には、ちょと模擬戦をやるには多すぎるんじゃないですかねぇ? と、突っ込みたくなるほど、練りに練られた魔力が凝している。
あれを生でけるのは、酷であろう。
さて、今の俺の魔力で、彼の攻撃を防げるのか?
一瞬迷うも、やるしかないと腹を括る。
【イージス】が駄目なら、他の方法で行くしか無い。
俺は瞬時に、頭で式をイメージ、構すると、その端から、魔力を練り始める。
幸い、彼の最初の一発目は、何処に來るかその軌道から予測できる。
そして、初撃さえ凌げれば、後はリリーが何とかしてくれるだろう。
ならば……その一発を返せば、俺の勝ちだ。
そして、俺が瞬時に魔法を構築し、完了と時を同じくして、戦闘狂が降ってきた。
「俺も、混ぜろやぁあ!!」
びながら一撃を放つバカ親父に対し、俺も、びをもって返す。
「あぶぅうぅうしは空気読めや!? うにぅ~~~~この戦闘狂のわゃああぁぁ~~~バカ親父がぁ!!!」
そして、訓練場は、轟音と閃に包まれたのだった。
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