「さぁ！　観念するんだな、悪黨！」

高い場所より降ってきた聲をけ、俺はなんとか平常な思考を取り戻す。

まぁ、冷靜に考えれば、異邦人……つまり、俺と同じ世界の住人が多くこちらに來ている事は、想像に難くないし、事実、揚羽もそう言っていた。

彼の弁を聞くに、多くの者達は、何らかの形で揚羽に隔離、もしくは送還されていると思うのだが、全員がそうとも限らないだろう。

そんな中、まだこちらの世界に留まっている異邦人……つまり、こちらの世界で言う勇者達の中に、偶々、ヒーローの真似事をする者がいても、別段不思議ではない。そう、不思議ではない……という事にしておこう。

そんな赤いヒーローを視界に収めつつ、俺は自分に言い聞かせるように、そう結論付けた。

「な、何を、拠に……そうだ！　俺が何をしたと言うんだ！！」

そんな俺の思考を遮るかのように、先程の泥棒と思しき男が、上を見上げそうぶ。

確かに、そう言われてしまえば、彼の言うとおりだ、明確な証拠がある訳ではない。俺も、きを追っていたから、その不自然さに気が付いただけで、この男が泥棒をしている所を確認した訳でも無いしな。

だが、そんな言葉を意に介さない様に、赤いヒーローは、ハッキリと、答える。

「お前が犯した罪……それは、竊盜だ！！　しかも、お前が奪ったのは、ただの品ではないぞ！　今日取れたばかりで、市場にも出回っていない新鮮なリンゴ……じゃなくて、アプルをお前は、無慈悲にも奪ったのだ！　俺が買おうと、楽しみにしていたのに！！」

何か激しく私が混ざっているようだが、かなり的な指摘をけ、泥棒と思しき男は一瞬、息を飲み、そして隠す様に腰へとに著けていた袋に視線を寄越す。

その作を俺だけでなく、周りの者、そして、高所より見下ろしていたヒーローが、無言で見ていた。

一瞬、音を失くす場の雰囲気をじ取り、泥棒と思しき……いや、もう確定で泥棒な男は、周りを見渡し……自分の不手際に気付く。

「く、くそ！？　こうなったら仕方ねぇ！？」

追い詰められた男は、焦ったようにぶと、脇に隠し持っていたであろう短剣を抜き放つ。

鈍いながらを反し、存在を示すその兇は、見るに畏怖をもたらすには十分だった。

そのを見た聴衆は、流石にの危険を察したのか、誰ともなくび聲をあげると、一斉に泥棒から距離を離そうと我先にと駆けだす。

そんな泥棒の様子を見て、ヒーローもまた、いた。

「竊盜だけでなく、殺傷まで……させないぞ！　麒麟が……じゃなくて、スカイウォーク！！」

ヒーローは建屋の屋上より、を投げる様に飛び出すと、そのまま、宙を落ちながら何もない空間を蹴って、その速度を一気に上げる。

弾丸の様に振って來たヒーローを見上げ、次の瞬間……泥棒は吹っ飛んでいた。

「くらえ！！　レッドハリケーン！」

綺麗に回し蹴りを食らわせたヒーローは、泥棒を真橫に盛大に吹っ飛ばした後、そうぶ。

いや、それは、攻撃する前に言おうよ。

って言うかそんなことしたら……。

完全に不意打ちの様に見えたが、まぁ、どの道倒されるのであるから、どうでも良いかと思うも、哀れな泥棒にし同しつつ、顔で地面に線を描いた哀れな末路を見る。

大地に完全に突っ伏して痙攣する泥棒を見るに、死んではいないようで、人知れずホッと息を吐くと同時に、何処からともなく沸き起こる歓聲。

そして、それに答えるかのように、右手を天に突き出し、「悪は潰えた！」と、ぶヒーロー。

周りの群集は、その姿を見て、歓聲を上げつつ、ヒーローコールをしていた。

ざっと見ても、ここに居る全ての人が、熱狂しそして、彼を讃えていた。

そんな様子を傍から見て、俺は改めて、この狀況の異常さを認識する。

何と言うか、俺も森でじていたあまりにも出來過ぎたが、この場を薄っすらと支配しているのだ。

そもそも、全ての人が彼の事を讃えているというこの狀況がおかしい。俺の知っている世界であれば、數人であれ、反発する者は出るのが普通だ。どんなに共を呼ぶことをしても、一定の割合で、それをけれない者は確かにいる。

それが、俺の知っている世界と言うだった。

だが、それは傍から見ればこそじ取れる位の、些細な違和なのだろう。

実際、俺も揚羽にハッキリと指摘されるまでは、何となくそうじる位でしかなかったからな。

ふと見ると、リリーは能面の様な表で、今の一連の出來事を見ていた。

そして、俺の視線に気が付くと、し困った様な笑みを浮べる。

その様子に違和を覚えた俺は、リリーに視線を送り続ける。

そんな風に、數秒見つめ合った後……不自然なまでに不意に視線を逸らしたその様子を見て、リリーとヒーローに何かしらの因縁があると、確信した。

なるほど。あの時、馬車を止めたのも、不用意に巻き込まれるのを防ぐだけでは無かったという事かな。

まぁ、良いだろう。ちょっと気にはなるけど。

何かしらの関係はあるにせよ、彼が話したくないのなら、無理に聞き出す必要も無い。

もしそれが本當に大切な事なら、その、彼の方から話してくれるだろうし。

ただ、このままスルーすると、彼の心に変なしこりを殘しそうな雰囲気でもあるので、俺は、一応、布石だけを打っておく。

《　リリー、話したくなったら、いつでも聞くから。気にしないで良いからね　》

彼の腕を２回叩いた後、文字を通してそんな風に彼に伝える。

その言葉をけ取った彼は、一瞬耳を萎れさせると、大きく頷く。

別に彼を責めたい訳でも無いんだが、一応分かっているという事は伝えて置きたかった。

そんな俺の気持ちを察してくれたのかは分からないが、リリーは表を引き締めると、口を開く。

「では、行きましょう。あのお調子者が、こちらに気付かないに」

そうして、リリーは、何故かそのまま彫像の様に微だにしないまま、気配を消しにかかる。

うーん、どうやらヒーローと彼は、面倒な関係の様だな。

彼が、あからさまにここまで、人を避けると言うのも珍しいと思う。

一、彼と彼の間に何があったのやら。興味は盡きないが、それは取りあえず、心に留めておくだけにする。

そんな事を考えていると、ゆっくりと車がき出した。

しかし、熱狂した観衆はその事に気付かない。

「ああああぁあ！？　俺のリンゴがぁ！？」

彼の悲鳴が遠くから聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。

そりゃあんな派手にふっ飛ばせば、腰の袋にれた果実など木っ端微塵だろうに。

そうして、俺達の存在を掻き消すかのように響く歓聲の間をぬうように、そっとその場を後にしたのだった。

王都の中心へと車が進むにつれ、ますます人の気配が薄くなる。

事実、サーチによる反応も、一気にまばらなへと変わる。

そして、その中心部へと近い場所に、その建屋はあった。

石造りで頑丈そうな高い塀と深い堀に囲まれ、まるで周りの世界を拒絶するかのようにそびえるその姿は、見るを威圧する。

その高い塀に阻まれ、中の様子を知る事は葉わない。

そんな建屋への唯一のり口となる門には、屈強そうな男達が、金屬の鎧を全に纏い、佇んでいた。

その視線は鋭く、全ての存在が門へと近づく事を拒絶しているかのように見える。

なんじゃ、こりゃ。

なんで、こんなに厳戒態勢なんだ？　こんな所に、あのお姫様は住んでいるのだろうか？

これでは城と言うより……。

ハッキリ言ってその姿は異様の一言である。中世の様な石造りや木造の建造の中にあって、窓すら無い無骨な姿は、違和を伴って視界に飛び込んでくる。

その建の背は決して高くないのだが、飾りっ気の欠片も無い無機質な景観と相まって、周りの全てのを拒絶している様にすらじられる。

そして、そんな壁に小さく空いたへと車は吸い込まれる様にって行く。

橫に立つ門番は、一瞬、こちらに視線を向けたものの、すぐにそれを正面へと戻す。

そんな門番を橫目にみつつ、そのまま車は暫く進み、唐突にその歩みを止めた。

窓から外の様子を伺うも、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる石造りの通路しか見えない。

そして、サーチをしてみれば、この場は、建屋の丁度真ん中に位置していた。

ここが、王城？？　いや、ここはり口で、まだ通路という事も？

開かれた蜥蜴車の扉から外にリリーに背負われる形で、建に降り立った俺の目に飛び込んで來たのは、四方八方が石造りの壁に覆われた、ちょっとした広場程の寒々しく薄暗い空間だった。

何だここは？　本當に王城なのか？　エントランスにしても寂しすぎるだろ。

そうした俺の疑問を他所に、リリーは迷うことなく、歩を進める。

そう言えば、彼は先程から一言も発していない。

その事に違和を覚えるも、彼が放つ雰囲気から、何となくその理由を察する。

恐らく、お仕事モードなんだろうな。

そして、彼が今迄どういう立場で、今、この場所に立っているのかも、遠からず分かる事になるだろう。

とりあえず、差し迫っての危険は無いと思うが……急に呼び出された事を考えれば、面倒事である可能は極めて高い。

そんな事を考えていると、何時の間にか寒々しい空間を抜け、リリーは扉へと手を掛けていた。

開いた扉の先に下へと続く螺旋階段が見える。

なるほど。建屋の本は、地下か。

石造りの螺旋階段を彼は俺を揺らすこともなく、一定の速度で下って行く。

しかし、流石はリリーと言うべきなのか、全く音が響かない。靜かに、淡々と、る様にその姿が一定のリズムで下へと降りていく。

そして、かなりの段數を降りたはずにも関わらず、一分もかからずに底へと到達した。

ふと見上げてみたが、天上は遙か彼方で、視覚をかなり強化しないと見えそうもない。

そうして、リリーが目の前の扉に手を掛け……その隙間からが溢れ出す。

すぐに魔法で疑似的に遮をする。

そうしてリリーの肩越しに広がるのは、先程とは一転して、煌びやかな空間であった。

今までとは打って変わって、まさに絢爛を地で行く細長い空間。

壁には無駄なんじゃないかと思えるほど、等間隔に多くの燭臺と、絵畫、調度品、等が互に並ぶ。

その隙間には、嫌味にならない程度に彫刻を彫り込まれたドアが、整然と並んでいた。

足元には金糸で刺繍を施されたらかそうなカーペットが、はるか遠くに見える突き當りまで、途切れること無く敷き詰められている。

それらが、見事に調和しており、これだけ目に眩しい狀態であるにも関わらず、下品に映らないバランスを保っているのが驚きである。

ここを管理し、裝飾している人は、類まれなる的センスを持っていることが、この通路からも見て取れた。

リリーはそんな通路を進む。

そして、進行方向に目をやれば、ふと遠くのドアの橫にさり気なく佇むが一人。

俺と目が合うと音もなく、かと言って過剰にならない程度に、小さく禮をする。

思わず俺も目禮で返してしまうほど、それは自然なものだった。

しかし、リリーは、そんなの禮を當たり前のようにけ流すと、そのドアの前へと足を運ぶ。

まるで示し合わせたようなタイミングで橫に佇んだは音もなくドアを開け、リリーも自然な作で、そのまま部屋へと足を踏みれた。

部屋は思った以上に広く、広さにして６０平米はあるだろうか？

やはり、部屋全のセンスが通路のと告示しており、華やかさの中にもどこか落ち著いた印象を抱かせる。

さっと、視線を巡らせたじ、ドアもあるので、まだ続きの部屋もありそうだ。

部屋の隅にはこれまた高そうな沢を放つ、石造りのテーブルと、鈍いを放つらかそうな革張りの椅子がさり気なく設置されている。

窓こそ無いの、風景畫と落ち著いた壁紙が、この部屋の場所を忘れさせてくれる。

そんな部屋の真ん中に、靜かな笑みを浮かべ佇む人影。

「良く來てくれました。リリー」

落ち著いた印象をけるも、力強い何かをめている事を伺わせるその聲は、小さいながらもはっきりと俺の耳に屆く。

しかし、俺はその聲を聴き、目の前に佇む人を見て、どうしても、首を傾げざるを得なかった。

白いドレスをにまとうその姿は、い容姿ながらもどこか威厳をまとったものに見える。

その顔に張り付くらかな笑顔は、一見すれば、大人しげな印象を見る者に與え、心を解すだろう。

そして部屋の照明をけて、尚、眩く輝く金の髪。

お姫様。

正しく語の中から抜け出たような、その出で立ちと佇まいは、理想を現していた。

何より、特徴的なドリルのようなその巻き。有り得ない。そう有り得ない筈なのだ。

「さぁ、リリー、こちらへ」

彼に背負われながら驚く俺へは一切視線を向けず、お姫様はリリーへと聲をかける。

そうそれは、どう考えても同一人とは思えない聲であったが、まごうこと無く、あの殘念なリザと呼ばれるお姫様だったのだ。