《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第三十四話 決戦、リーガル城⑤

レイナが行くという質屋は、そう遠くない距離にあった。

「ほんとうにあの報通は、正しい報を教えてくれたのでしょうね?」

メアリーは強い口調でそう言ったが、そんなことは正直言って誰にも解らない。解らないからこそ、実際に行って確かめるしかない。

裏路地はたくさんの店が軒を連ねている表通りとは違って暗い雰囲気に包まれていた。店も疎らだし、その開いている店も正直まともな店ばかりとは言い難い。まあ、だから裏路地と言われているのかもしれないけれど。表通りにはない店ばかりが並んでいるからといって、それが萬人にけるものであればさっさと表通りに移転するのが普通だろうし。

「……なあ、フル。それにしてもこのようなところに店なんてあるのか? 人も通っていないし、どちらかというと、ただの抜け道のようなじにしか見えないけれど……」

「そうかもしれないが、進むしかないだろ? 十萬ドムの報だぞ。はっきり言って安くない。それをどうにかして稼がないといけないことも考慮しても、先ずはこの報を有用に使わないといけない。それが誤っている報であったとしても、だ」

暫く歩いていくと、明かりが目にった。この路地はとても暗くなっているためか、このような時間でも明かりをつけているのだろう。

「……もしかして」

小さく出ている看板には、『何でも買います 質屋シルディア』と書いてあった。

「これがあの報通が言った……?」

「そうかもしれないな」

そうして、僕たちはその質屋へとっていった。

◇◇◇

質屋の中にはどこで手にれたのか解らないモノがたくさん広がっていた。

そして、カウンターの向こうにはローブにを包んだ白髪のが椅子に腰かけて、笑みを浮かべていた。

「いらっしゃい。……おや、見ない顔だね。売りに來たのかい、買いに來たのかい」

「人を探しているのだけれど。名前はレイナ」

「……レイナなら今日はまだ來ていないよ。だから、そう遠くない時間にやってくるのではないかな。……それにしても、彼に會いたいとかどういうことかね? それに、別にここはそういう施設ではないし。まあ、彼に會いたいということは大方予想がつくが」

どうやら彼にモノを盜まれた人間がここまで到達することは、よくあるらしい。

「でも、彼渉してモノを奪い返そう、というのであればソイツは筋違いだ。我々の世界では、奪ってしまえば同時に権利も奪える。即ち、奪ってしまえばそれはその奪った人間のモノになるわけだよ」

「そんなことが……!」

「有り得るわけがない。または、通用するはずがない。そう言いたいのだろう? でも、それは表の世界のルール。これは、裏の世界のルールだよ。それは別にへんなことではないし、むしろ裏の世界からすれば表の世界のルールがおかしい、ってものさ」

「そんな……!」

メアリーは思わず絶句した。

対してミシェラは何となく予想がついていたからか、何も反応しなかった。

もどちらかといえば、娼婦という裏の世界に近い人間として過ごしてきたからか、そういうことも知っていたのかもしれない。

「……ただし、権利を譲渡することはたった一つだけできる。……モノを買えばいいのだよ」

「何ですって……」

「この世は金だ。金さえあればそんな些細な問題はあっという間に解決することが出來るよ。だから……どうだい? 金を払ってみる、というのは」

そんなバカな。

奪われて、それを取り返そうとしたら、金を払え――だって? そんな理不盡な話があってたまるか。そんなことを思わず口走りそうになったが、何とかそれを呑み込んで、

「……じゃあ、仮に、お金を払うとしましょう」

僕がどうするか齷齪しているとき、メアリーが一歩前に出て言った。

その言葉を聞いてメアリー以外の僕たちは、驚きを隠せなかった。対して、メアリーは自信満々な表を浮かべて、さらに話を続けた。

「そうすれば本當に返してくれるのかしら?」

「あたりまえだ。この世は金だからな。それに対する代価さえ払えば、どんなものでも売ってやろうじゃないか。それで商売が立するからな」

「言ったわね」

メアリーがなぜか珍しく、もう一歩前に進んで言った。

「……あ、ああ。言ったとも。だが、君たちのような學生に、そのような大金が払えるのかね? 払えるのであれば、どんなものでも売ってあげようではないか!」

メアリーはその言葉を切るように、カウンターにあるものを置いた。

それは、小さな紙切れだった。

そこには數字が書かれている。その數字は、とても大きな數字となっている。

「……な、何だ。この數字は……?」

あまりの大きさに、商人も呆れ返ってしまっていた。要は、それほどの巨額だった。

メアリーの話は続く。

「もしそれでも足りないというのであれば、まだ何枚か同じ金額が書かれたそれはあるわ。だから、幾らでも言うがいい」

「……あんた、あんた、何者だよ! どうして、どうしてそんな大量の金額を持っているんだ? 富豪か王族じゃないと手にらないほどの巨額じゃないか!」

「私はただの學生よ」

商人の言葉をそう一蹴するメアリー。

「けれど、學生の本気は、幾らでも大きい。あなたが思っている以上に、ね。さあ、これでレイナからあの鍵と林檎アピアル、それに銀時計を回収することは可能よね?」

「ふうん、なんだか面白いことになっているじゃないか」

背後から聲が聞こえた。

その方向を振り向くと――そこに立っているのは、先ほど僕から鍵と林檎を奪い取った、レイナだった。レイナが笑みを浮かべて、そこに立っていたのだ。

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