《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第三十五話 決戦、リーガル城⑥

「まさか、リムに自ら渉をする人間が居るとは思いもしなかった」

レイナはそう言って、ゆっくりと僕たちのほうへと歩いていく。

それは興味を抱いているようにも見えたし、恐怖を抱いているようにも見えた。

レイナは僕の前に立って、呟く。

「……何が目的だ?」

「何が目的? そんなこと、言わなくても解っているだろう。鍵を返せ。それは大切なモノだ。あと、アピアルと銀時計も返すんだ。そして、もし可能ならば、出來る限り、奪ったモノをもとの人間に返せ」

「……張りだねえ。そんなこと、簡単に出來るわけがないじゃないか」

レイナはニヒルな笑みを浮かべる。

そんなこと予想は出來ていた。

だけれど、関係ない。

たとえそんなことを言われようとも――やらないといけないことがあるのは紛れもない事実だ。

「出來るわけがない……かもしれない。けれど、やらないといけないんだ。だって、僕は予言の勇者と言われているのだから。予言の通りならば、世界を救わないといけない」

「世界を救うぅ? そんなこと、出來ると思っているの!」

レイナは両手を広げて、口の端を吊り上げる。

「治安維持、という大義名分を掲げて私たちのような下位分の存在を抹消しようとしていた、現政権のことを知っているかい?」

現政権。

即ち、現在も王として君臨している人間、ということになる。

「……現政権が、そんなことを言っているというの?」

「そうだよ。まあ、大臣がそれを止めていると言っているが、その大臣が止めている理由も、きっとろくでもない理由に違いない。おそらく、我々を必要悪として、庶民にとって最下層の存在を敢えて見せつけることで、それになりたくないと思わせることもあるのだろう。……まあ、どこまでほんとうかどうかは、あくまでも噂の段階だが」

噂の段階でここまで斷言できるということは、それなりの理由があるのだろうか。

「でもそれはあなたの事でしょう」

しかし、それを一刀両斷したのはメアリーの言葉だった。

「何が言いたいの?」

「何度でも言ってあげるわ。それはあなたの事。あなたの考え。それを他人に押し付けることは、はっきり言って間違っている」

「……あなた、態度と考えが間違っているように見えるのだけれど?」

レイナは怒っているように見える。

マズイ。このままだとモノを返してもらえなくなる! どうにかしてメアリーとレイナの口論を止めて、謝罪しないと、何も進まないし、これ以上話が拗れかねない。それだけは防がねば。

「まあまあ、そのあたりで……」

「それじゃ、私から一つ提案しましょうか」

レイナの言葉に、僕たちは目を丸くした。

いったいどのような提案を言われるのだろうか。まったく予想出來なかったからだ。

「私は昔からあるものを探している。それを見つけるためには、どのような手段だって問わない。その証拠というか、そのというか、その手がかりを見つけたかった」

「……それは?」

「知恵の木、という木だよ。すべてが金に輝く、伝説の木。その木には、『知恵の木の実』という木の実が生っている、とも言われている。けれど、その木を見つけた人間は誰も居ない。だから、それを見つけたい。そうすれば、私も世界に名をすことが出來る」

知恵の木。

知恵の木の実がどういうものであるかは知らないが、それが生るものということはもっとすごいものに違いない。

「知恵の木の実……伝説上に言われている、エネルギーの塊。それが生っているということは、エネルギーをさらに蓄えた、その源……ということよね? 知恵の木の実ですら伝説上と言われているのに」

こくり。レイナは頷く。

「話が解るようで何より。知恵の木は歴史書にも殆ど記述がないと言われているほど、観測者もない。だからこそ、探したいのよ。その『知恵の木』を見つけることが出來れば、私は先人よりも先に進むことが出來る……!」

「話を戻しましょうか」

メアリーは唐突に話のハンドルを切った。

「あなたの提案を、簡潔にまとめてもらいましょうか? つまり、『知恵の木』を探したい――と」

「知恵の木を探したい。それは確かにそう、そして、それを求めるためにはいずれリーガル城を出ていく必要がある。広い世界を知る必要がある、というわけよ」

レイナは壁をたたいて、さらに話を続ける。――正確に言えば、壁をたたいた段階で質屋の店主がぎょろりとレイナのほうを睨みつけたが、レイナはそれを無視していた。どうやら、日常茶飯事のようだった。

「そしてあなたたちは世界を旅している。だって予言の勇者、なのでしょう? ということは世界を救うために、世界を旅している。ということは、『知恵の木』の報が手にる可能が高い……というわけよ。そこで、提案に戻る」

レイナは人差し指を立てて、メアリーに向けて言った。

「私を、あなたたちのメンバーにれてよ。決して、悪い話ではないと思う……からさ」

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