僕たちは馬車を乗り継ぎ、ハイダルク最北端の港町、バイタスへ到著した。

エルファスやリーガル城の城下町と比べるとその喧騒はなく、靜かな、ゆったりとした雰囲気が流れていた。

もう夕方になっていたので、スノーフォグへの船は既に終了していた。もともと急ぐ旅ではないと考えていたので、無理に急ぐことなく明日の朝スノーフォグへ向かうことで僕たちの意見は集結することとなった。

今回僕たちが泊まることとなった宿は埠頭近くの小綺麗な宿。下宿と酒場を兼ねている、人気のあるお店だ。二人部屋が二つも空いているとは考えていなかったが、意外にもスムーズにとることが出來た。

一階のレストランで僕たちは夕食をとることになった。

「はい、今日のメニュー」

そう言って――にしては屈強なだし、顎鬚も生えているが、それについてはあまり言及しないほうがいいだろう――は四人分のおかずとライス、スープをお盆に乗せて持ってきた。

おかずは鳥の丸焼きにソースをかけたようなシンプルな料理となっている。周りには野菜が盛り付けられている。なかなかシンプルな盛り付けとなっているけれど、とても味しそうだ。

「いただきます」

両手を合わせて、頭を下げる。

どうやらそういう形式的なものは異世界でも特に変わらないようだった。それはそれで嬉しいし、むしろ好都合であった。

そうしてフォークを手に取ると、鶏のスライスを刺し、それを口にれた。

すぐに口の中に塩気が広がる。その塩気はライスを進ませるにはちょうどいい味付け。ずっと今日馬車を乗り継いできて、とても疲れている僕たちにとってはちょうどいい塩気と言ってもいいだろう。汗をかいていて、塩分をしているというのもあるだろうけれど。

「味しい……！」

「そう言ってくれると、作った甲斐があるというものだよ。はい、これサービス」

そう言ってはもう一つお皿を持ってきた。

そのお皿には刺が乗っていた。

「刺……。こんな量の刺をサービスで、いいんですか？」

訊ねたのはメアリーだった。

は首を振って、

「ああ、ああ。いいんだよ。そんな畏まらなくて。うちはそんな固い雰囲気じゃなくていい。アットホームな雰囲気を目指しているからね。だから普段通り話してくれればいいし、これはあんたたちがとっても味しそうに食事をしていたから、それについての禮と思ってくれればいいよ」

そうしては廚房のほうへと向かっていった。

刺の容を改めて確認すると、とりどりの魚の切りがっていて、とても味しそうだった。

刺と言えば、醤油だ。しかし、疑問となるのはここが異世界であるということ。ならばこの世界では醤油の代わりに何をつけるのだろうか……。

そんなことを考えていたら、メアリーが小皿に黒いを注いだ。テーブルの脇に置かれていた小瓶から注いだものだった。

小瓶にはこう書かれたシールがられていた。

マキヤソース。

この世界の人間はこれを使っているのか――僕はそう思って、メアリーからマキヤソースりの小瓶をけ取った。マキヤソースを小皿に注いで、今度はルーシーに手渡す。

小皿に満たされた黒い。それは何も言われなければ醤油のそれと等しかった。

箸を手に取って、刺をとる。そうしてマキヤソースにつける。すると脂が浮いた。けっこう脂が乗っている魚なのかもしれない。

そして僕はそれを口にれた。

「……味い」

やっぱり、それは僕が知っている醤油そのものだった。やっぱり、醤油の生産技は異世界でも共通なのだろうか。

そして僕たちは、夕食へと戻っていく。

そのどれもが味しく、とても満足できるものだった。

そして、夕食後。僕たちは部屋へと戻るべく、廊下を歩いていた。

「ところでスノーフォグとメタモルフォーズって、何か関連があるのかな？」

ルーシーがふいに問いかけた。

「今のところ関連は無いと思うけれど……しいて言うならば、祈禱師が國王をつとめていることかしら。祈禱師はガラムドの子孫だし、何か詳しいことを知っているのかもしれない」

「祈禱師……か」

「まあ、難しいことを考えるのはよしましょう」

言ったのはレイナだった。

「どうせスノーフォグには明日向かうのでしょう？　だったら、難しいことは考えないで、また明日考えたほうがいいじゃない。私はいつもそういうじで生きてきたし」

……難しいこと、か。

そう言われてみると、今日はとても疲れていた。

僕は大きな欠をして、そう思った。

「それじゃ、詳しいことはスノーフォグに向かう船の中で考えることにしましょう。それでもまだ遅くないから」

メアリーの提案をけれて、僕たちは眠りにつくことにした。

そう結論付けたところで、ちょうど僕たちの部屋――右側が陣で、左側が男陣の部屋に到著した。

向かい合って、僕たちは言った。

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみ、また明日」

そうして僕たちは、それぞれの部屋へとっていった。