《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百十話 偉大なる戦い⑪

「――神が死んだね」

「え?」

その頃、ルーシーは自室で読書をしていた。読んでいる本はあまり関係ない。関係ないから、描寫する必要もない。

なぜならルーシーは思いに耽っていて、そう凝り固まっていた頭をリセットするために気分転換していただけに過ぎないのだから。

そうしてそんなリフレッシュタイムの最中、ハンターが突然頭の中で彼にそう囁いたのだった。

ルーシーは疑問を浮かべながらもハンターの言葉に返す。

「……ハンター。神が死んだ、とはどういうことだ?」

「言葉の通りだよ。神……あなたの世界では『ガラムド』と言ったかな。ガラムドが死んだ、ということだ。ああ、言っておくけれど、文字通りの『死』だよ」

「死……」

神に死が存在するのか。

ルーシーはそんなことを考えた。何よりも、神とは人間に崇敬されるべき対象だ。たとえ世界がこんなじに荒廃していようとも、この世界は神が與えた試練そのものである――。そう語る人間も居るくらいだ。

ハンターは明になっていたその姿をルーシーの目の前に見せた。場所的に彼が出現しても問題ない場所だと思ったのだろう。

ハンターは踴りながら、話を続ける。

「そう。神様にも死は存在する。神だって全知全能の存在ではあるかもしれないけれど、壽命が無いわけではない。正確に言えば、壽命を引き延ばされているだけに過ぎないのだから。確か、神というのはその地位になった瞬間、もともとの地位からは『居なかったこと』にされてしまうのだったかしら。……そう考えれば、神も殘酷な存在であると言えないかしら? まあ、私にとってみればどうだっていいことなのだけれど」

「……つまり、どういうことだ? 神は、またさらに上の地位が居る、と?」

「それが私たちシリーズを作り上げた存在、創造主と言ってもいいお方よ」

創造主。

簡単にそう言ったけれど、ルーシーにはそれが理解できなかった。

當然だろう。いきなりそんなことを言われて、信じられるほうがおかしいかもしれない。

しかし、そんなリスクがあったにも関わらず、ハンターはそう言った。

「……創造主とは、どういう存在なんだ? 名前の意味をそのままけ取れば、萬を作り上げた存在……になると思うが」

「その通り。創造主は世界そのものを作り上げ、また世界が世界であるという位置づけをした存在であるともいえるでしょう。しかしながら、創造主は事の創造に忙しく……またとても飽きだ。だから管理するための存在を作り上げ、それをその世界に置いた。……それが我々『シリーズ』だよ」

「我々……ということは複數人居るということだよな?」

「數え方が『人』であるならば、な。我々の姿はとてもじゃないが、人の形からは程遠い存在だよ。だから我々が人間の前に姿を見せた時、崇敬する者も居れば敵と認識する存在も居る。考えはそれぞれあるからな。致し方ないことではあるが」

「……じゃあ、言わせてもらうが、どうしてお前が僕の前に姿を見せた? 見たじ、崇敬出來る存在ではないが」

「はっきりと事を言うねえ。まあ、嫌いじゃないけれど」

ハンターは踵を返し、ルーシーを見つめる。

ルーシーに鋭く刺さる視線を、どうにかルーシーも返そうと睨み返していた。それは自分が虛勢を張るためだったわけではないが、しかしながらここで視線を外してしまうと力の強さを示されてしまう。それは彼にとっては良くないことだった。

時計の音だけが、空間を支配していた。

ルーシーとハンター。お互いがお互いに考えることがあり思もあったことだろう。しかしながら、今はその駆け引きで直していた。次はどうすればいいか、相手はどう出てくるか。それについて考えを張り巡らせていた。

ここの駆け引きを失敗すれば、計畫は失敗する。

それはハンターもルーシーも理解していたことだろう。理解していたことだったからこそ、それについて十分と自覚していたからこそ、次の手を出すことについて考えているのだろう。

「……君は、君たちは、いったい何が目的なんだ?」

話を先に切り出したのはルーシーだった。

ルーシーの問いに、さも當たり前のようにハンターは頷いた。

「簡単なことですよ。私たちは……飽きてしまったのよ。普通に世界を監視し続けることでは。そして、神様はああいう主義の人間だからね。あの力を使えばきっと世界を変えることなんて容易に出來るだろうし、今みたいに神の信仰が寂れることは無かったでしょう。今、あのリュージュといったふざけた祈禱師が居る宮殿には、大きな宮殿が建設されていたことでしょう。もちろん、そこに祀られているのはこの世界の神。神の力はそこまで影響を及ぼすのですよ。もちろん、うまく使わなければそのを、世界もろとも滅ぼすことになりかねませんが」

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