《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百十一話 偉大なる戦い⑫

なんか長い夢を見ていた気がした。

目を開けると、朝になっていた。なぜそう解ったかといえば、僕の部屋はベッドが窓際にあり、そこから日のが一筋ってきていたからだった。遮カーテンの役割を果たしているレースのそれを開けると、太が眩いほどその明かりを放っていた。

そして僕は、そのまま天井を眺めながら夢のことを思い返していた。

とても長い夢、ということしか思い出せなかったその夢は、なんというか――。

「とても、悲しい夢――?」

僕の目からは、気が付けば涙が零れていた。

「お父さん……どうしたの?」

聲を聴いてはっとそちらを見つめる。見ると、僕の隣には一花が座っている。

どうやら僕を起こしに來てくれたようだった。

「大丈夫だよ、一花」

悲しそうにしている彼の頭をでて、僕は優しくそう言った。

「お父さん、くすぐったい……。あ、そうだ! お母さんがね、ごはんだよーって言っていたよ!」

そう言ってドタバタと足音を立てて部屋を出ていく一花。まったく、子供というのはパワフルだと思う。朝からああも全力で行できるのはある意味子供の特権かもしれない。

「さて……、ご飯、だったか」

僕は起き上がり、一つ溜息を吐く。

一花が言っていたことを反芻して、僕は目を瞑る。

それは眠たいからということもあったけれど、一番に挙げられるポイントは自分の見た夢を確認したかったから――ということがあった。

その夢は、長い夢だったということしか思い出せない。

夢の容は、忘れてはいけないような重要なことだった――それだけは覚えているのに。

「おとーさーん!」

一花の聲が聞こえて我に返る。

このまま思いに耽るのもいいことかもしれないが、先ずは朝食を食べることにしよう。脳に栄養をいきわたらせてから考えることだって、選択肢の中にあってもいいはずだ。

そう思って僕はベッドから離れて、そしてリビングへと向かうのだった。

◇◇◇

「あなた、今日はどうするつもり?」

食事を食べ終えたタイミングで秋穗が僕に聲をかけた。

「……そうだね。今日はを鍛えに行こうかな。何というか、ずっと家にいるとが鈍ってしまうからね」

「それもそうね。……なら、剣道場へ向かうのはどうかしら?」

「剣道場?」

「最近できたばかりらしいのよ。何でも昔使っていた場所を流用しているらしくて。だから、そこを使えば何とかなるのかなあ、って。私は行きたいとは思わないけれど……。今、鍛えたいというならそこへ向かえばいいのではないかな?」

「道場か……。程、あまりそれは考えなかったな」

確かに道場ならばを鍛えられる。それに、今はが鈍っていることもまた事実。できることならば、ある程度取り戻しておく必要があるだろう。仮に、これから世界を大きく揺るがす戦いが始まるというのなら。

そうして僕は、秋穂に言われた道場へと向かうことにするのだった。

◇◇◇

思えばこうじっくりと町々を眺めるのは、初めてのことかもしれない。

初めて、と言ってもこの時代にきて外出をするのが二回目だから、別に珍しい珍しくないの問題で解決できるものでもないだろう。

道が舗裝されておらず、悪路そのものであったが、それ以外の街並みはエルファスとあまり変わりないように見える。道に店を開いているお店もなくなく、とりどり……とは言えないが、ある程度の野菜を取り揃えている。

野菜の種類がないのは、単純にこの世界の勢が関係しているらしい。

特にこの國――ジャパニアはどの國ともあまり仲良い関係を築いていない。理由は単純明快として、木隠との會話でも出たテーマなのだが、かつてこの國がネピリムというロボットを開発した際、その技がすべて外國に持っていかれたことが原因であるといわれている。

そのため、あまり他國と関係を築きたくない、できれば必要最低限で構わないという考えを持った人間が多い。それは、この國で信仰されている『大神道會』という宗教団が影響しているかもしれない。

木隠は語っていた。この國で政まつりごとを牛耳っているのは、まぎれもなく大神道會であると。

大神道會は使徒というグループがすべてを決定しており、配下にいる人間はそれをただ実行するというトップダウン型の組織だといわれている。いわれている、というのは木隠からしかその報を聞いていないから、その報が真実であるかどうか確認をとっていないためだ。

大神道會がどういう組織であるのか―ー風間修一の知識であってもそれがどういう組織かという報までは蓄積されていない。殘念なことではあるが、彼が普通の一般人であることを考慮すれば致し方ないことなのだろう。

しかし、疑問は殘る。

風間修一は、ほんとうにただの一般人なのだろうか、ということについてだった。

ただの一般人なら、使徒と呼ばれた木隠にわざわざ呼び出しをされるだろうか? いや、正確に言えば木隠は僕たちを管理する役割にあるそうだから、時折僕たちを全員集めてヒヤリングをするらしい。しかしそれはあくまでも全員集めて実施するだけに過ぎない。今回のように、一人だけ呼び出して個人どうしで話をすることは、本來ならば有り得ないことらしい。――確かそれは、話し合いが終わった後に木隠も言っていた。だから、話した容は誰にも口外するな、といわれたくらいだった。

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