《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百二十三話 偉大なる戦い㉔

「この國の幹を見せてやる」

水神がそう言ったと同時に、エレベータはどこかに到著し、閉じていた扉は開かれた。

水神は何も言うことなく外へ出て真っ直ぐとした通路を歩き始める。

僕はそれに対して何も言うことは出來ず、ただその行に従うことしか出來なかった。

通路の向こうには古い木の扉があった。観音開きになっているその扉は、水神が手をばすと一人でに開き始める。

「……ようこそ、風間修一くん」

水神は僕にそう語り掛けて、ゆっくりと歩き始めた。目的地は誰が言わずとも、はっきりとしていた。目の前に広がる――會議場とも見える場所だった。

僕が扉をくぐると、ゆっくりと扉は閉じていく。まるでもう誰もれないといった強い意志を示したようにも見えた。

ぐるりと、先ずはあたりを見渡してみることにした。會議場と思われるこの部屋には、會議場然とした巨大なテーブルが部屋の半分を占めており、それを取り囲むように椅子がずらりと並べられていた。その椅子の間隔はすべて等間隔となっているように見え、このレイアウトを考えた人はとても幾帳面であるということを位置付けさせる。

「……彼が『勇者』かね?」

そう言ったのは、白髪の男だ。オールバックにした髪形で、凜々しい表に見えるけれど、その表は百戦錬磨の戦闘を生き延びたようなそんな雰囲気を見せている。

「そうですよ、闇潛。まあ、彼はまだ勇者であるということは気付いていないと思いますが」

「……あの、勇者ってどういうことですか」

流石に、ガラムド暦二〇一五年における『勇者』という意味では無いよな?

「ああ、勇者とは……。というか、欠番。彼に勇者ということ、その意味を教えていないのか。教えていないにも関わらず、そのリスクを許容してもらう前にここに呼び寄せたのか?」

「別にそれくらい構わないだろう。我々にはもう時間が無い。勇者を、導く存在を、作らねばならないのだよ。それは闇潛、君も理解していることだと思うがね?」

「……それは、そうかもしれないが、彼は普通の一般人だろう!? それを、わざわざ我々の計畫に組み込むというのは、些か……。それに、計畫の説明もしていないと來た」

「おやあ? あの闇潛にも、そんな慈の心があったんですねえ。それは驚きですよ」

「木隠……、いや、この場合はキガクレノミコト、そう呼んだほうがいいかな?」

「よせ、昔の名前だ」

闇潛と木隠――キガクレノミコトと呼んだほうがいいのだろうか――はそんな會話をわしつつ、徐々にその視線を僕に移していく。

「それで、彼がその勇者かい?」

まるでその真実には興味のないような、そんな発言をしたのはキガクレノミコトだった。

キガクレノミコトは話を続ける。

「……それに、闇潛。欠番も言っていた通り、この世界をどうするかそれは彼に任せるしかないということは、君も理解している話だろうが。我々にはどうしようもないことである、それは我々『使徒』が一堂となって賛、或いは承認した容だったと認識しているが?」

聞かされた闇潛はやれやれと溜息を吐いたのち、ゆっくりと目を閉じた。

「……それは私とて理解している。いや、理解させられている、と言ったほうがいいか……。いずれにせよ、我々のような『超越者』ですらあの運命を作することが出來ないというのも、かなり面倒な話だ」

「それこそ、創造神の気紛れというものなのでしょう。所詮は我々も神では無かった。あの場所……あの箱庭に暮らす存在こそが、唯一無二の絶対的存在だったということです」

「唯一無二? 創造神?」

それってもしかしてガラムドのことを言っているのだろうか。

でも歴史上はまだガラムドは神にはなっていない、というか普通のだったはずだが……。

「創造神とは言われているが、我々もあまり見知っていないことなのだ。ただ、気紛れな、それでいて儚い月明かりのような容姿からこう呼ばれている」

キガクレノミコトは一息深呼吸をして、その名前を口にした。

「……ムーンリット、とな」

♢♢♢

箱庭と呼ばれる空間には、一人のが腰掛けていた。彼が腰掛けているのは、大きなブロックだった。子供が遊ぶような積み木遊びのそれとはサイズが異なる。あれが子供向けならばこちらはオークなどの巨人族用、そんな風に考えることが出來るだろう。

それだけではなく、彼の周りにはたくさんの遊び道が雑然と並べられていた。その並べられた遊び道は使い古されたものも中にはあるが、その殆どが新品そのものに思えた。

はただ目の前にある、正確に言えば手に持っているルービックキューブに似た何かをじっと見つめていた。

そして、その傍らには彼よりも若干大人びて見える青年がただ彼の行を見つめていた。

「……ムーンリット、お前はいつまで囚われているつもりだ?」

混じりなのか、或いは自嘲しているのか、青年は微笑みながら、ムーンリットへと語り掛ける。

しかし、それでもムーンリットは答えない。そんなことは青年も話をする前から解っていた。解っていたからこそ、語り掛けることで確認したかったのだ。ムーンリットの心が死んでいるということを。

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