《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百二十九話 偉大なる戦い㉚

「……オリジナルフォーズは、元々この世界には存在してはならなかった。いや、正確に言えば誕生するはずが無かったものです」

「誕生するはずが……無かった?」

「核分裂、という言葉をご存知でしょうか」

核分裂。

確か、不安定な狀態にある核がより軽い原子へと分裂する現象のことだった――と思う。

確か原子力発電って、それを使っているんだったか。

でも、それがいったいどうかしたのだろうか?

「核分裂のエネルギーは甚大なものです。私たちも、まさかあのようなものを人類が生み出すとは思いもしませんでした。あれはほんとうに偶然であって、そして、人間の叡智の結晶ともいえるかもしれませんね。……まあ、あれもまた神が與えた偶然に過ぎませんが」

ストライガーは両手を広げる。

「確か、それについてある人間がこんなことを言っていましたね。『この世界の事象はすべて神が與えた試練であり、それを乗り越えることで神に選ばれる』と。まあ、この説には々とあって、元々神は救うべき人類を選んでいるとか、そんなことも言っていましたか。それについて聞いたことは?」

それを聞いて俺は首を橫に振る。

ストライガーは當然だといった様子で小さく溜息を吐くと、

「まあ、そうでしょうね。でもこの説が広まったことで、結果的に人々の間に『資本主義』が広まることになりました。これも、神が考えたシナリオ通りだ……なんてことを言っていましたか。まあ、それは置いておきましょうか。ともかく、核分裂のエネルギーは甚大であり、それによって人類は様々なメリットを得ることが出來ました。もちろん、デメリットもありますよ? 核分裂のエネルギーは人類が簡単に作することなんて出來ない……そんな大きなデメリットが」

そしてストライガーは左手の人差し指を立てると、何かを僕のほうに向けて飛ばしてきた。その何かは見えなかったから、そこで言及することは出來なかったけれど。

そして僕の前に何かが到著する。それはよく見ると小さなルービックキューブのようなものだった。それが僕の前にふわふわと浮いていた。

「これは……?」

「まあ、見ているといい」

ストライガーはそれだけしか言わなかった。

仕方なくルービックキューブを眺めていると、それは急速なスピードで展開し始める。

そしてみるみるうちに、その空間は何倍にも拡張された。

空間には、巨大な(とは言っても元々の空間が両手の手のひら大ほどのサイズなので、そのスケールに対して、ではあるが)施設があった。

「これは」

「核分裂のエネルギーを利用した発電技を開発した。あなたもそれについては知っているでしょうから省略するけれど、人類はそれを使おうとした。確かに僅かな核分裂で莫大なエネルギーを生み出す原子力発電は旨味が多い。だからそれを使うことは當然のことだったのかもしれないけれど」

「でも、問題があった」

ここまで話を聞いていれば、ある程度ピンと來る。

ストライガーは頷いて、

「ええ、ええ、そうなのですよ。核分裂は、莫大なエネルギーを生み出す。しかし、それ以上に人に有害な質――放質が拡散される危険がある。だから、それが起きないためにも、適切な隔壁を設けるなど様々な対策が必要でした」

「まさか……」

「その対策が失敗した。そういうことですよ。西暦二〇四七年、この土地にあった原子力発電施設が発した。それによって大気汚染、土壌汚染が進みました。……まあ、それもまた人類の作によるものでしたが」

「どういうことだ? まさか、増えすぎた人類を減らすためとか、そんな思考じゃ……」

「まさか、一発であなたがその思考に辿り著くとは思いもしませんでしたよ」

ストライガーは目を丸くしつつ、そう言った。

「そうです。あなたの言うとおり、これは増えすぎた人類をいかに減らすか……そう考えた人類が決めた、最低で最悪なアイディアでした。世界の崩壊を生み出し、次に自分たちが住める世界が誕生するとも分からない。にも関わらず、彼らはそれを実行した。なぜか分かりますか?」

「……世界が復活するという確信があったから?」

「その通り。世界が復活するという確信的な『預言』。それが彼らを導いた」

「まさか、それもオール・アイが……?」

ストライガーは無言で頷いた後、ゆっくりと立ち上がり、こちらを見つめた。

「そう。オール・アイはそのとき既にアメリカと呼ばれる國に居た。それほどの預言を出す力があれば獨自の宗教を作れば安泰だったかもしれない。けれど、オール・アイは違った。まるで自らが世界を作出來ると思ったのでしょう。アメリカという國で、預言を材料に首領の信頼を勝ち取った。それによってアメリカは再び世界の警察と名乗るに等しい國家となった」

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