《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百三十四話 閑話:西暦二〇四七年⑤

もし、放能が世界に拡散されていけばどうなるのだろうか。

シャトルに乗っている間、暇なのでふとそのようなことを考えてしまう。

まず、世界はひとたまりも無いだろう。環境が大幅に変化してしまい、その変化に適応出來ないは死滅する。それだけではない。仮に適応出來たとしてもそのは放能に汚染されているわけだから、奇形種が生まれることは間違いないし、そのを食べることで放能に汚染する――いわゆる『二次汚染』をしてもおかしくはない。

政府はそれは有り得ない、と言いつつも冷凍保存にれた人間についてはある意味見捨てているような発言をしていた。

種の保存を選ぶことは何ら間違っていないと思う。この混で寧ろ冷靜な判斷が出來たほうではあると思う。

けれど、やはりどうしても『混』は間違いなく殘る。そしてそれを如何に小させていくか、それが腕の見せどころと言ってもいいのかもしれない。

まあ、現狀政府は黙りを決め込んでいるようで、もしかしたら冷凍保存の対象者を無事に冷凍保存させるまで何も言わないのかもしれないけれど。だとすれば、僕は政府の見解を聞くこと無く長い時間旅行へと旅立つことになるわけだが。

シャトルから見える景は移ろいでいく。そして徐々に目的地の姿が近づいてきていた。

ブルーツリー。

世界最高の高さを誇る電波塔であり、関東一円のテレビ電波を発している。同時に二つの展臺を備える観塔となっているため、多くの観客が訪れるスポットだ。

ブルーツリーが魅力と言われるポイントは、その塔の彩

青く輝く塔は、鉄筋コンクリート製のタワーに青いが著されている。しかし、ただの青ではなく、スカイブルー――空のようにき通った青。それは空に異質な存在であるブルーツリーが青空に溶け込むように、と設計されたことが理由だと聞いたことがある。

結局のところそこまで広く認知されなかったらしいけれど、空にそびえる青い塔は、風景によく映える。

この世界は果たしてどうなってしまうのだろう。

母親は、クラスメイトは、この世界の何億人もの人々は。

汚染された世界で、放能の影響が消えるまで、生きていくしか無いのだろうか。

そして、僕たちは――影響が消えるまで冷凍保存されなければならないのか。

「……このまま、眠ったままのほうがいいのかな」

ふと、そんなことを考えた。

だって世界は永遠にも近い時間、放能によって覆い盡くされる。そうして生まれる世界は死の世界そのものだ。それは、歴史の教科書で幾度となく発生した原子力発電所の事故の一部始終とその後日談を見ているから容易に想像出來る。

死の歴史を繰り返すということ。それは人間にとって間違っていることでは無いか。

間違っていることを間違ったまま続けられるということ。

つまり何も學習していないということ。

それは、きっと終わりの無い無間地獄に近いもの。

『まもなく、目的地へ到著いたします』

頭上のスピーカーから機械音聲が聞こえて、僕は我に返った。

外の景を眺めると、青い塔が見えてくる。

ブルーツリー。あそこに僕の方舟がある。果たしてそれが棺桶になってしまうのか、揺り籠になってしまうのかどうかはまた分からないけれど。

◇◇◇

ブルーツリー四階南り口前駅はシャトル四臺分のホームが二つあるだけの無機質なものだった。とはいえ何もこれが珍しいことではなく、シャトルの運賃は基本的にシャトルに乗降車する際に、スマートフォンを通して差し引かれる。もちろん、事前にシャトル乗車アプリケーションにチャージしておく必要があるわけだが。

ブルーツリーにると、スタッフと思われる白姿の男が聲をかけてきた。

「冷凍保存の対象者ですか?」

こくり、と僕は頷いてカードを差し出す。

それを見た男は笑みを浮かべて、僕のカードにスマートフォンのような機械を押しつけた。

「はい。問題ありません。それでは、ご案いたします」

そうして男は早足でブルーツリーの中を歩き始める。僕はそれに必死に追いつこうと、早足で追いかけ始めた。

ブルーツリーのエレベーターに乗り込み、地下四階に向かう。するとそこはほかのフロアと同じく白を基調にした空間が出現した――わけではなく、それとは対照的な黒い壁の空間が姿を見せた。

とてもシックな風景に見えたが、ある種不安にさせる雰囲気だった。

ちょうど目の前にはカウンターがあった。カウンターには同じく白姿のが僕を待ち構えていた。

僕が聲をかける前に、白姿の男に語りかける。

「対象者だ。急いで案してくれ。僕はまた元の場所に戻るから。……あと、十五名だったか?」

「そうです。よろしくお願いしますね。……ええと、風間修一さんですね。お待ちしておりました。奧に冷凍保存のスペースが座いますので、そちらへご案いたします」

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