《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百四十話 偉大なる戦い・決戦編⑤

「宣言をすることについて、私が司會を進行します。あなたはただ、従っていればいいだけです。お飾り、と言えば言い方は悪いかもしれませんが、正直その通りと言ってもいいでしょう。……けれど、あなたの意思を貫いてもらって構いません」

會議場を後にした僕とストライガーは、地上にある茶屋に居た。茶屋と言っても人が來ているわけでは無くて、カウンターに店員が一人居るだけの非常にシンプルなお店だ。お客さんは來ないのだろうか、というシンプルな疑問を浮かべたけれど、それはあまり気にしないほうがのためだろう。

「……ほんとうに、みんな消えちゃったのね」

店員さんが悲しそうな溜息を吐いて、そう言った。

「消えた、わけじゃないですよ」

そう言ったのはストライガーだった。

ストライガーはそう落ち込まないようにしているとはいえ、それでも抑え切れていないようだ。

「……それは、いったい? というより、あなただけ殘ったのは……」

「言いませんでしたっけ。私は、もとは人間だったんですよ。まあ、それはあまり知識として蓄える必要も無いことではありますけれど」

「そうでしたっけ?」

案外重要な報を暴したように見えるけれど、店員さんはあまり気にしていない様子。というか、昔聞いていたけれど忘れていた――とかそんなように見える。

店員さんは持っていた水差しをカウンターに置いて、

「でも、これから何を始めるつもり? あの子たちが居なくなってしまって、ここで暮らしていた私たちはどうすれば良いのかしら?」

「それは簡単なことですよ。……それと、あの子たち、とは言わないほうがいいって前々から言っていたじゃないですか。ああいうなりをしていますが、彼らは立派な神様です。大神道會の崇敬対象であり最高権力者である存在。それが使徒でしたから」

「それはそうだけれど……、もう消えちゃったのでしょう? だったら、別に呼び名でどうこう気にすることも無いと思うわよ。私は別に蔑稱でそう呼んでいるわけでは無いのだし」

「それはそうかもしれませんが……。いや、言い過ぎました。きっと、こんな爭いはキガクレノミコトはんでいないでしょう。だから、ここは話を一旦リセットさせましょう。風間修一、良いですか」

ここで話は唐突に僕に振られることとなった。

何というか、もっと良い話題の振り方があったんじゃないだろうか。

「……何でしょうか」

「その様子だときちんと話を聞いていなかったようですが、きちんと説明いたしましょう。いいですか、これからあなたは人類にある宣言をしてもらいます。それは――」

「戦爭をおっ始める、ということですか。正直言って、僕は反対ですよ。どうして戦爭をしないといけないんですか。やるなら神の扉を開くために盡力した方が良いと思いますが」

「それをしているよりも早く、オリジナルフォーズがここにやってくるとしたら? 正確には、この世界の人間を滅ぼすとしたら? それでもあなたは無視すると言いたいのですか」

「……それは、」

それは違う。間違っていない。

僕はこの世界の人間を救うために、一番手っ取り早い方法を選択しただけに過ぎない。

けれど、それは間違っているのだろうか?

やはりそれは、間違っているのだろうか?

「……まあ、別にいいですけれどね。あなたがどうしようと、それはあなたの自由ですよ」

案外、あっさりとストライガーは退いた。

しかし、直ぐにストライガーは右手の人差し指を立てると、

「でも、あなたの行が即世界の行く末に直結するということはお忘れ無く。あなたが神の扉を開こうと思っているのは大いに結構。しかし、忘れたつもりではありませんね? キガクレノミコトも言っていた、あの言葉を。神の扉を開くには、ムーンリットに會いに行くには、不可能であると。そしてそれは、世界の『意思』が関係している……と」

「世界の、意思……」

確かに、キガクレノミコトは言っていた。

世界の意思があるから、たとえ可能であったとしても神の箱庭――ムーンリットが存在するその世界へ向かうことは不可能だと。

もしムーンリットに會いに行くならば、ムーンリットに認められるかムーンリットに気付かれないように神の扉を開けるほか無い。

しかし、今の僕たちにはそれは不可能だ。

「……ならば、どうしますか?」

まるで僕の心を読んだかのように、ストライガーは訊ねる。

僕にはもう選択肢は一つしか存在しなかった。

だから、僕は言った。

「……戦爭を、始めるしか無いようだな。非常に不本意ではあるけれど」

最後に付け足した言葉は嫌々行に示しているだけ。そう店員さんやストライガーに思われたかもしれない。

しかし、それでも構わない。

この世界の人類を救うために、僕が今できることをするだけ。ただ、それだけのことだ。

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