《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百四十五話 偉大なる戦い・決戦編⑩

「オリジナルフォーズを復活させるには、どうすればいいっすか?」

ティリアの言葉に小さく頷くレイシャリオ。

そして彼はポケットから小さな鍵を取り出した。

「この鍵を、あの機械に差し込めばシステムが起する……そう言われています。正確に言えば、オール・アイからそう言われただけなので、私は懐疑的ではありますが。ほんとうにそんな単純なプロセスでオリジナルフォーズが復活するのだろうか、と」

「オリジナルフォーズは復活しない、と考えているんすか?」

「いいや、そういうことでは無いわ。けれど……、間違っていることも考えている」

「間違っていること?」

ティリアはレイシャリオの発言を反芻する。

「そう。オリジナルフォーズを復活させること、それが世界にとって正しいこと? 私はそう思わない。だから、私はオリジナルフォーズを復活させるわけにはいかない。それをすることで、どれくらいの人間が死んでしまうか……簡単に見當がつくからね」

「そう言うと思っていましたよ、レイシャリオ樞機卿」

銃聲が一発、虛空の空間に響き渡る。

そしてその銃弾は真っ直ぐにレイシャリオの心臓を貫いていた。

「レイシャリオ様……!」

「おやおや、やっぱりあなたも居ましたか。ティリア・ハートビート。いずれにせよ、あなたも殺すつもりではありましたが。何せ、あなたはレイシャリオ殿の忠実な下僕。きっと、私の勢力に加擔しようなんて思いはしないでしょうからね」

そこに立っていたのは、フェリックス樞機卿だった。

フェリックスは右手に拳銃を構えていた。音源と、銃弾はそこから放たれたものであると即座にティリアは理解した。

ティリアは錫杖を構え、睨み付ける。

「……睨み付けたところで、現実は変わらぬよ。ティリア・ハートビート」

「どうして、レイシャリオ様を!」

錫杖を構えたまま、臨戦態勢のまま、ティリアは詰問する。

対してフェリックスは冷靜を保ったまま、

「邪魔だからだよ」

はっきりと、たった一言で言い放った。

その言葉はティリアの堰を壊すには十分だった。

剎那、ティリアはフェリックスめがけて走り出す。構えていた錫杖は杖というよりも槍のような形狀になっているため、長いリーチと突撃に特化している。それはティリアの元々の得意分野であると言っても過言では無いし、現に彼が錫杖をカスタマイズしているのは、彼からレイシャリオに提言していて、その了承を得ているからだ。

ティリアの集中力は、レイシャリオだけではなくほかの勢力の人間からも目を見張るものがある。

そして、集中力を一番使いこなせる武といえば――槍だろう。剣より長いリーチを誇り、一対一であれば相手の攻撃範囲よりも広い範囲を取ることが出來る。もちろん、弓のほうが攻撃範囲は広いかもしれないが、集中力と一瞬の隙を見張る力があるならば、弓ではなく槍にしたほうが失敗するリスクはない。

だからこそ、ティリアには絶対的自信があった。たとえ拳銃を持っていたとしても、自分の力さえあれば槍で敵うはずだ――そう考えていた。

しかしながら、その見立ては完全に失敗だった。

「……君は近代武を完全に見誤っていた」

フェリックスはそう言って、引き金を引いた。

そしてその銃弾はティリアの腹部を貫いた。

「……そんな」

勢いは完全に停止し、そのまま崩れ落ちるティリア。

ティリアのから、が溢れ出して止まらない。

熱い。熱い。熱い。熱い。

からが溢れ出して止まらない。どうすればいい? どうすればこの痛みから逃れられる?

「ああ、あ、あああ……!」

「ふむ。どうやら銃弾による痛みは経験が薄いように見える。或いは、一度も経験をしたことは無かったかな? なにせ、この時代では珍しいものだからね。戦爭に関する技はある一點集中型になってしまったから、それ以外の技があまり発展することが無くなってしまった。希有な技と言ってもいいだろう。そして、その一つが私の持っている拳銃、というわけだ」

「……拳銃。そんなものが、この世界にあるというの……」

「無いわけは無いだろう。事実は小説よりも奇なり、とは言っただよ。いずれにせよ、君がその未來を見ることはもう出來ないだろうけれどね」

フェリックスはティリアの頭部に銃口を突きつけて、笑みを零した。

「君は素晴らしいシスターだったよ。忠誠心も厚く、力も強かった。きっといつかは彼のように樞機卿になることも、もしかしたら出來たかもしれない。ただし、君は唯一の失敗をしてしまった。何だと思うかね? ……ああ、もう何も言えない狀態か。ならば教えてあげよう。君の唯一の失敗、それはレイシャリオの勢力についたことだよ。彼は若く、強者につくことを知らない。それがレイシャリオの失敗であり、君の失敗だ」

「貴様は……、神のことを信じていない、蠻族だ」

ティリアはやっとの様子でそう言った。

「神など居ないよ、この世界には。現実に存在しているだけを私は信じている。神は居ないが、オール・アイのあの能力、あれは才能という枠をとっくに飛び越えている。もはや、彼こそが神という存在と言っても過言では無い。存在しない神よりも、存在する預言者。それが、世界の意思だ」

「外道が……! 神の裁きが下るぞ……!」

「だから言っただろう。…………神など居ない、と」

そして、フェリックスは引き金をゆっくりと引いた。

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