《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百四十七話 偉大なる戦い・決戦編⑫

「ムーンリット……。貴様、確か、この世界をどうにかしようとしていたはずじゃ!」

僕は貰ったばかりのシルフェの剣を構え、臨戦態勢を取った。

僕にとって、今のムーンリットは敵か味方かはっきりしていない。しかしながら、キガクレノミコトの発言から察するに、今回の狀態は創造神の気紛れによるものだ――そう言っていた。

ならば、創造神にその気紛れを無くしてもらえればいいのではないだろうか? 簡単なことではあるが、案外想像はつかないことだった。けれど、ほんとうにそれで何とかなるのか――それは疑問であり愚問だった。

しかし、創造神はそれを聞いて一笑に付した。

「世界をどうにかしようと? 私が? それは大きな間違いだ。確かに私は創造神だ。どんなことだってやってのけることが出來るだろう。でも、それは私の価値観の問題だ。考えてみたことは無いか? 私がつまらないと言っただけで世界を滅ぼすことは、確かに簡単にできることだろう。それはスイッチを一つ押すだけでいい。いや、それは表現の問題だから、実際にはもっと違う話にはなるが……、いずれにせよそれくらい簡単なことだ。でも、私の気持ちの問題で世界を滅ぼすことは間違っている。さすがの私も、それくらい弁えているつもりだ」

「ならば、どうしてこのような結果になっているんですか。もし、あなたが何もしていないというならば、世界は……」

「二つ、可能がある」

ムーンリットは人差し指と中指を立てて言った。

「一つは、私の気紛れ。まあ、そう言ってもらっても仕方ない事実はある。しかし、私はやりたくないことはやらない。だって後々面倒なことになるから」

「もう一つは……?」

「話を急かすな、嫌われるぞ?」

「余計なお世話だ」

ムーンリットと話をしてみて思ったが、何というか人間くさい考えの持ち主だと思う。キガクレノミコトが言っていたことを総合すると、創造神ムーンリットは何を考えているか分からない、もっと超越的存在だと認識していたが、これを見ると――。

「何か、考えているようだけれど。私が頭のおかしい存在だと認識していたかしら?」

頭がおかしいということは思っていない。

しかしながら、どうしてもそういう風に捉えてしまうのだ。人間というのは『思い込み』を一度発させてしまうと、簡単に戻すことはできない。犯人の嫌疑がなかなか外れないことと同じものだと言っていいだろう。

「……まあ、それは別に掘り下げる必要も無いでしょう。問題は、ここから。もう一つの可能、それは……『神の箱庭を乗っ取ろうとする輩がいる』ということ」

「箱庭を乗っ取る?」

「そもそも、神の箱庭には世界を作するすべての作基盤が置かれている。その作基盤を管理しているのが私だが……、神は別に他にも居る。それがお目付役とも言われる立ち位置にいる存在だ。その名前を、『元代神』。箱庭の管理は出來ないけれど、創造神に何があった場合その意見を提言することが出來る立ち位置にある。簡単に言ってしまえば、唯一の抑止力とも言える存在。まあ、私は彼と対立することは無いけれど、対立した時代もあったらしいわよ。いつかは分からないけれど」

「創造神は他にも居るのか?」

「まさか」

ムーンリットは鼻で笑った。

「そんなことあるわけないでしょう。一つの次元時間軸に創造神は一柱だけ。ただし、この次元時間軸は繰り返しの歴史でね。始まりから滅亡までの一つの次元時間軸が終わったら、再び宇宙の大発が起きる。人間の世界ではビッグバンという話かしら。確か。ただし過去の次元時間軸の歴史は一つのデータとして殘っているのよ。そして箱庭にいる存在は誰しも閲覧をすることが出來る。そうして過去に起きたことは繰り返さないようにする。そういう目的もあるわけよ」

「それじゃ、過去に箱庭を乗っ取ろうとした存在がいた、と?」

「そう。そして今もそうなりつつある。あいつは強手段を執って、私の思考を停止させた。いかにも簡単で、いかにも酷なやり方で……ね」

◇◇◇

箱庭にて、一人の男は笑みを浮かべていた。

ムーンリットは今や箱庭の作基盤をかすことは出來ない。ルービックキューブも數ない作基盤の一つではあるが、あれ程度では出來ることも限られている。それに作基盤のマスターから監視することも容易に可能であるため、ムーンリットが神的に死んだことが噓であることも容易に理解できた。

「ムーンリット……。やはり、君は僕を騙していたのだね。まあ、何となく想像出來ていたことではあるけれど」

作基盤は白と黒の縦長の盤が幾つも組み合わさっている狀態となっていた。足下にもペダルが數個置かれており、それも作基盤の一つとして存在していた。

「……まあ、僕の計畫通りに進んでいるから、別に問題ないのだけれどね。ムーンリットはそれで問題ないと認識しているのだろうけれど、まさかそれも僕の想像通りだって思わなかったのかな?」

そうして、男は椅子に腰掛けると、楽を演奏するように作基盤の板を指で押していく。

モニターには様々な場所が映し出されるようになり、それを見て男は作基盤からモニターに視線を移した。

「さて、ムーンリット。君の抵抗を見せてもらうよ? どこまで君が抗えるのか、楽しみだね。まあ、それも僕の考える計畫のレール上の話に過ぎないけれどね!」

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