《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百四十九話 偉大なる戦い・決戦編⑭

「でも、彼にはその素質がある」

ムーンリットはそんな僕の思考を遮るように、話し始めた。

矢継ぎ早に、僕の意見など聞きたくないと言わんばかりに、さらに言葉を覆い被せていく。

「彼は巫になれる。巫、祈りの力を持った存在。そして神との対話を可能とする存在。その存在になることが出來る、その素質を持っている。あの一花というには」

「何を言っているんだ、彼はまだ子供だぞ? そんな狀態で出來るはずが……」

「世界を救う立場に立つのは、子供だろうが老人だろうが、男だろうがだろうが関係ない。世界を救うべき立場に立てるか否か? という判斷だけで言えば、それは本人のさじ加減によるかもしれないけれど、それでも、才能は付與されるもの。仮に本人が嫌がったとしてもそんなことは知ったことでは無い。私が才能を與えれば、それは才能を持つ若者となる」

「つまり、才能のある若者とやらを作り出す、と……!」

「面白い試みだろう?」

試み――ムーンリットはそう言っているが、僕から見ればそれはただの気紛れに過ぎない。結局の所、ムーンリットは何を考えているのかはさっぱり分からない。

だが言からある程度推測することは可能だ。

「……結局の話、何度あなたに言ったところでムダだろうから、これだけは説明しておきましょうか」

長々と前置きをして、ムーンリットは話を始めた。

「人間がどうこう言ったところで、『世界の意思』には逆らえない。それは私だってそうだ。世界の意思には従うしかない。たとえそこで一つの種族がほろびようとも」

その選択は、大いに間違っていた。

否、間違っている話だからこそ、ムーンリットは僕に話をしたのかもしれない。

その選択は世界の意思となる。

その選択は大きな意思の合意となる。

その選択は上位世界からの忠告となる。

結果的にその選択は、たとえ世界の誰もが間違っているとしても遂行されなければならない。

ムーンリットは、僕にそう語りかけているようにも見えた。

「ムーンリット……、お前はいったい何がしたいんだ?」

「世界の意思、その遂行のため」

「世界の意思とは何だ?」

「何だろうねえ。いずれにせよ、人間がれていいものではないと思うよ。私のような一端の神でも知らないことはあるんだ。人間が知っていい事実なんてこれっぽっちも無いはずだ」

「ならばなぜ僕に『世界の意思』を伝えた?」

ムーンリットは僕の問いに失笑する。

「伝えるに値する存在だったからさ。あなたがどういう存在であれ、私はそうすべきだと思った。たとえそれが世界の意思では無いとしても」

つまり今の會話は、ムーンリットの獨斷?

ますます話が見えてこない。いったいムーンリットはどうして僕にその事実を伝えたのか? もしかして、何かしてほしかったのか? 神ではなく、ただの人間にしかできないことを。

「勘違いしないほうがいい。これは私の好意だ」

ムーンリットは僕の思考を遮るように話を始めた。

そして、矢継ぎ早に言葉を紡ぎ始めていく。

「とどのつまり……これはただの気まぐれだ。気まぐれによるものだ。たとえ何かし遂げる可能があったにしても、それは気まぐれ。重くけ止めなくていい」

「重くけ止めなくていい……ね。それはどうだか。その考えは人それぞれにも思えるが? いずれにせよ、その考えは間違っている。どう考えても誰かに正義を押し付けるなんて、間違っている!」

「じゃあ、どうするつもりだ?」

ムーンリットは両手を広げて、僕に問いかけた。

「今の狀況を鑑みて、お前はどうするつもりだ? オリジナルフォーズは、みるみるうちにこのジャパニアに向かっているぞ。そして、そこに到著してから繰り広げられるのは、一方的な殺だ。……當然だよな、世界最強の存在だ。それも、その理由は、対抗策が無いからという如何にも単純な理由に過ぎない。そのまま進めば人類は滅び……やがてこの星は死の星と化す。まあ、いずれにせよ、それ自も世界の意思と嘯くことになるのだろうがな。だが、今お前の目の前に居るのは誰だ? この世界の創造主だ。そして、その創造主が神の力を一人のに與えようと言っている。こんな好機をみすみす逃すつもりか? もう一つ追加してやるが、デメリットなど存在しないぞ。壽命の消失をデメリットとして捉えるならば、また別の話だが」

「壽命の消失?」

さらっと流したが、とても重要な事実を話したような気がする。

「……壽命の消失とは簡単なことですよ。ってか、神の力を與えるというのはイコール、神になるって話ですね。ということは、壽命はほぼ無限になるということ。そして、それはこの世界での目的を達すれば、神の世界へと向かうということ。それにより、永遠に生き長らえることが出來る。ま、神になるんですからそれくらいのメリットはあって當然でしょう?」

「ちょっと待ってくれ。いったいぜんたい訳がわからない。どうしてそんな大事な話を放置していた?」

「大事な話でしたか。あら、私にとっては普通の話かと思っていましたが」

どうやら神様と人間の間には常識に関して、埋めたくても埋めるのが難しいくらいの差があるようだ。僕はそれを、を以て実した。

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