《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百五十話 偉大なる戦い・決戦編⑮

ムーンリットと僕の見つめ合いは、暫くの間続けられた。お互いにお互いが話をするタイミングを窺っていた、と言えばそれまでだが、しかしそれは間違っていなかった。

ムーンリットという存在を見極めるための、絶好のチャンスだと認識していた僕は、如何にムーンリットから報を聞き出そうかと躍起になっていた。だから必死にムーンリットの発言にしがみついていたのかもしれない。

「……あなたの決斷は、世界の運命を左右する」

ムーンリットは僕の不安を増長させたかったのか、さらに話を続けた。

「確かに簡単に決められる話では無いでしょう。けれど、それを如何に良い方向へ持っていくか……というのも求められます。今のあなたには、全人類の生命がかかっている。そう言っても過言では無いのですから」

「脅迫か、それは」

「さあ、どうでしょう?」

不敵な笑みを零して、ムーンリットは答えた。

「ただ、あなたには選択肢などないように思えますがねえ? どう足掻いても、答えは一つだと思いますよ。それがあなたの思考にそぐわないものであったとしても。それは世界の意思となるのですから」

「……貴様、最悪な神だな。僕は絶対に、お前を神とは認めない」

僕はその選択をするしか無かった。

その選択をするしか、ほかに方法が無かった。

ムーンリットもそれに気付いていたのかもしれない。気付かれたくなかったのは確かだったが、こうなってしまっては仕方がないことだと思う。

「神とは認めてもらわなくても構わないよ。……とは、言えなくなっていることも事実かな。私たち神は、人々の信仰の上にり立っている。とどのつまり、信仰が無くなるということは、我々がこの世界に存在出來なくなると言っても過言ではない。この言葉の意味が理解出來るかな?」

「……いい加減にしろ」

「あらあら、怒っているのかな? でもあまり気にしないほうがいいと思うよ。あなたは世界を救う勇者になる。私は世界の意思を遂行する。win-winの関係になるわよね。ほんとうにありがたい話になると思うのよ?」

「だが……」

ムーンリットの言うことも間違っていない、と思う。だが、やはりどこか振り回されているじがするのも否めない。

「さあ、選びなさい。風間修一。あなたの判斷で世界はどうなるか……それはあなたにも分かりきっている話のはずですよ?」

ムーンリットは手を差し出す。

ムーンリットは僕がその選択をするってことを確信しているのだろう。勝者の余裕、というやつだ。いずれにせよ、ムーンリットは心ぐらい読めているのかもしれないが、それはそれとして認識するしかない。

「……ムーンリット、お前は」

「さあ、選択なさい。あなたはどういう道を選ぶかはあなたの勝手だけど、あなたの選択によって世界がどうなるか……それを理解してから決心しなさい」

「分かった」

決斷するのはもっと早かったけれど、それを言葉に出すまではかなり時間がかかった。

「……神の力を、彼に與えてくれ」

ムーンリットは小さく笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。

一つのき、その全てが腹立たしかった。

もしそれが神とやらの行で無いとするならば、多分言葉よりも拳が出るところだった。

ムーンリットは目を瞑り、何か呟き始める。詠唱か何かの類だろうか。いずれにせよ、僕には理解出來ない言語であることは間違いないだろう。

ムーンリットの詠唱はそう時間がかからなかった。多分一分くらいの覚だったと思う。

「……ありがとう。これで、この世界は救われることでしょう。一つの大きなブレイクスルーを終えることが出來ました。まあ、これからどうなるかはあなたたち人間が決める話になりますが」

「人間が決める? それは元からの話じゃないのか?」

「それは人間が考えているだけの話。実際には私たち神や、世界の意思に通ずる存在だけのこと。まあ、あなたたちはそう考えたいのかもしれないのけれど。世界の代表は人間と思っていたら大間違い。結局あなたたちも世界の意思には逆らえない」

「ブレイクスルー……、その次は何が起きると言うんだ?」

「それはお伝え出來ませんね」

あっさりと拒否されてしまった。

「……じゃあ、結局人間はそれに従うだけ……?」

「ええ。そうなりますよ? それについては致し方ないと思いますよ。というか、それをれるしかありませんねえ。ま、それは仕方ないですよ。自然の摂理、というものです」

「……やはり、お前とは相容れない」

「相容れなくて、結構。……さて、私としては、やることは終わったのでそろそろおさらばと行きましょうか。それじゃ、頼みましたよ。風間修一、世界を救う創世の勇者よ。あなたが世界を救うこと、それは世界の意思です」

そして、ムーンリットは姿を消した。

初めて出會ったが、ほんとうに勝手な神様だーーそんなことを、僕は思うのだった。

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