《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百五十九話 偉大なる戦い・決戦編㉔

なおも、オール・アイは反応しなかった。

フェリックスはそれを當然のように思っていたから、別に機嫌を損ねる事は無い。それは彼にとってルーチンめいたことと言っても過言では無かったからだ。実際の所、彼がどう嘆こうともそれは世界の意思には関係の無い話。

「……ミティカは、処分すべきかと思いますが。ぜひあなたの言葉をお聞かせ願いたいものです」

獨り言を投げるだけの時間が続く。

オール・アイは一切反応しないためか、フェリックスの寂しさが際立つ。

「ミティカ樞機卿の力は常々大きくなってきているとじています。それに、あなたへの信仰心も増してきています。後者に対しては、この狀況では都合が良すぎるほど素晴らしいことではありますが……。問題は、それからです。彼は力を付けすぎた。彼は問題ないかもしれないが、彼の周りがあなたに危害を加える可能もあるかもしれない。殘念ながら、それは否定出來ないのが現狀です。それについては如何なさいましょうか」

「……、」

オール・アイは漸くき出した。

それと同時にフェリックスは慌てて跪く。

「……おお、オール・アイ様。どうなさったか。急にくなどして……。もしかして、ミティカ樞機卿への罰を決めたと?」

「ミティカ樞機卿はまだ使える。だからそのままにしておくといい。ただし取り巻きは邪魔だ。あれは彼の良さを曇らせる。そんな存在ならば要らない。必要ない。ならばどうするか?」

「……どうなさるおつもりですか」

フェリックスはオール・アイが何を言い出すのかさっぱり検討がつかなかった。だからこのような問いかけに問いかけで返すようなじになっているのだが、寧ろオール・アイはそれを狙っているためか、気にも留めなかった。

「……懐するのですよ。私が嫌いな人間なら難しい話かもしれませんが、ミティカはとっくに私の考えを理解し、同調しようとしている。であるならば懐は容易でしょう。それこそ、赤子の手を捻るように」

「赤子の……なんですって?」

「そういう例えですよ。実際にはやりません。それくらい簡単な話です、ということですよ。そのミティカを我々の勢力に引き抜くのは」

たまにフェリックスは考えていた。オール・アイは素晴らしい預言を口に出すが、それ以外の思考は常人のそれではない、と。

もちろん、オール・アイを人間だと認識しているのは殆ど居ないだろう。その誰もが、なからず人間ではない別の存在だろうと曖昧な考えを持っていた。

とはいえ、オール・アイの持つ預言の力は求心力に適していると言えよう。いずれにせよ、彼がそれをもうがむまいが人は集まるしも集まる。彼の力をうまく使ってやろうと考える人間もたくさん出てくることだろう。

フェリックスもその一人だった。決して彼はを表に出すことはない。だからこそ権力爭いではダークホースと呼ばれるわけだ。

とどのつまり、誰も気にしない存在。

それがフェリックスだった。

しかしながら彼がめたる想い、それは途轍もなく大きく、人一人で葉えられるものではない。

だから彼は好機を伺っていた。神殿協會で樞機卿という立場になっても、彼はじっとその好機を見ていた。いつになればその機會がやってくるのか、とじっくり待ち続けていた。

そして今、彼は最大の好機を目の前にしていた。

「フェリックス、どうなさいましたか?」

フェリックスはオール・アイの言葉を聞いて我に返る。彼としてはその僅かな間ではあったものの失態を見せてしまったため、どう取り繕うべきか畫策していたのだが……。

「まあ、あなたも疲れている時もあるのでしょう。致し方ありませんし、それを苛めることもありませんよ。ただ、気をつけてくださいね」

「かたじけない」

何とか危機は免れたようだ。そう思いフェリックスは心の中でほっと溜息を吐いた。

「……それにしても、ミティカはかなり問題ですね。彼はとても素晴らしいと思いますけれど、問題はその取り巻き。厄介ですねえ、ああいう存在は良い存在を悪くしかねない。まさかこんなところにいやしないとは思いますが……、しかして油斷は出來ませんからね。やはり注視していかねばならないでしょう」

「オール・アイ。その……『注視』とは的に何をするつもりだ?」

それを聞いたオール・アイはニヤリと笑みを浮かべた。

不気味で、妖艶で、子供っぽくて、悲しげのあるその表はほんとうに人間らしい。

「簡単なことですよ、取り巻きを完全に消し去る。それも完全に、ね。彼には必要ない存在ですから。あなただってそれも理解しているはずでしょう?」

消し去る。

きっとその言葉の意味は、文字通りの意味なのだろう。例えば言葉はそうであっても実際には行しない――正確に言えば行には示さない言葉も、なくないはずだ。

では、オール・アイはそのパターンか? と言われると話は違う。それはフェリックスも十分理解しているからだ。

だからフェリックスは、オール・アイには逆らわない。

それどころか、フェリックスは自分よりも強い存在には基本的に逆らわない。それが彼のモットーであり、スタンスだった。普通の人間だってそうするかもしれないが、それはフェリックスがフェリックスたる所以。彼がこの立場に立つことが出來たのも、多くのライバルが傷つき倒れていったからだ。そしてその爭いの中で、いわゆるダークホースとして君臨出來たのも、それが理由だと言えるだろう。

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