《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百七十話 偉大なる戦い・決戦編㉟

「あなたがどういう思いでこの戦いに挑んでいるのか、それは分からない。けれど、あなたの選択が世界を生かすか殺すか。それを決めることになる。それくらいは、理解して貰わないと困るわよ」

メリッサはそう言って、踵を返すと、僕たちから離れていく。

「待ちなさい、メリッサ。戦闘において敵前逃亡は認められていない」

「何を呑気なことを。ちょっと休憩に行くだけよ。それに、オリジナルフォーズはあれほど遠い距離に居るけれど、実際は私たちに甚大な被害を與えるほどのダメージを出すことが出來る。それに対して、私たちは何が出來るかしら? 何も出來やしない。バリアすら張ることも出來ない。ならば、來たるべき時に備えて力を蓄えておく。それが一番、って話。ま、結局の所、それを理解できずにあの二人はくたばったわけだけれど」

早口でそう捲し立てるように言って、メリッサは僕たちの前から姿を消した。

僕は、どうすれば良いのか分からなかった。

どのようにこの戦爭を終わらせれば良いのか、分からなかった。

「風間修一。あなたは、し気負いすぎです」

ストライガーの言葉を聞いて、僕はそちらを向く。

ストライガーは真っ直ぐ僕を見つめながら、話し始めた。

「あなたは確かにこの戦いのリーダーです。リーダーということは、まとめ上げなくては為りません。戦う人數はないし、その人たちもそう簡単にはあなたに従うこともないでしょおう。けれど、それをいかにして従わせるか。それがあなたの考える道ではありませんか? 確かに、難しいことかもしれません。ですが……、それを乗り越えてしいのです」

「それは……分かっているけれど、」

分かっている。

分かっている話ではあるが、そうであっても、僕はいかにして乗り切れば良いかということを考えられなかった。

キャパシティオーバー。

とどのつまり、自分の処理出來る限界をとうの昔に突破していた、ということだ。

とはいってもそれで済むはずが無いのが、今の狀態。

「……し、考えたほうが良いかもしれませんね。いや、或いはリフレッシュとでも言えば良いでしょうか」

そうして、ストライガーは遠くを指差した。

その方向は、オリジナルフォーズを正確に捉えていた。

「予測では、オリジナルフォーズがやってくるまであと十四時間余りです。となると、明日の晝前が勝負。その時間になれば、オリジナルフォーズがジャパニアに上陸し、本土決戦とでも言えば良いですか、その狀態になります。そして私たちはそこに達するまで有効な攻撃を與えることが出來ない。となると、それまでにジャパニアの人間を避難させて、戦う準備を整えなくては為りません。……だから、休めるのはその時間だけ」

「ストライガー、君はいったい何を……」

「今の狀態では、あなたを含め十分な狀態で戦うことは出來ない。そう言っているのですよ」

そして、それを合図として。

ジャパニア軍はオリジナルフォーズの上陸までの十四時間を休憩時間に充てるのだった。

もちろん、ただの休憩では無い。いつ戦いが始まっても良いように、十分な準備を整える必要もあった。

夜。

あっという間に晩餐の時間となった僕たちは、広い食堂で電気を點けずに食事を取っていた。食事も簡素なもので、乾パンと二種類のと魚の缶詰がそれぞれ一人ずつ配られている狀態だ。別にそんなことはしなくてもいいのだけれど、これからの狀態を考えるとこれは當然の選択だ――けれど、それは多くの人間を疑心暗鬼にさせてしまうことにも繋がるため、表裏一の問題だと言えた。

「……仕方ないけれど、やっぱり足りないよね」

秋穂の言葉に、僕はただ頷くことしか出來なかった。

仕方ない――なんて言えなかったけれど、結局の所はそれを肯定することしか出來ない。

「ねえ、修一。この戦いはどれくらいで終わるの?」

ちょうど食事を食べ終えたタイミングで、秋穂は僕にそう問いかけた。

秋穂は不安になっている。そしてそれは僕も十分理解している。

僕は――秋穂の大切な存在として、秋穂の不安をできる限り取り除きたかった。

本來なら、不安を取り除くために、直ぐに戦いは終わるなんてことを言えばいいのかもしれない。

けれど、その発言はあまりにも無責任だ。戦闘の最前線で戦っているにもかかわらず、いつまでこの戦いが続くか明らかになっていない狀況にもかかわらず、希的観測だけでそれを告げるのはあまりにも無責任だ。

「この戦いは……」

「終わるよ!」

僕の言葉を遮るように、そう言い切ったのは一花だった。

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