《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百七十五話 虹の見えた日⑤

一花は、こちらへと向かってくるオリジナルフォーズを見つめていた。

いつ封印出來るかどうかそのタイミングを見計らっているのだろう。いずれにせよ、今は集中しているため聲は掛けないほうがいい。さっきストライガーが聲を掛けてみたが一切反応が無いため、恐らく今の一花は――無防備だ。

「君はその一花を守る立場にある、ということだ。もちろん、私だって君たちを守るべく、最大限努力をしていくつもりだ」

口だけでは無いつもりなのは、理解していた。

けれどはっきり言ってしまえば、こちらには戦力が不足していた。

理由は単純明快。先程の虹の盾によるレーザー撃だ。それによってこちらの人員の殆どが文字通り消失してしまった。今戦える人間は僅かしか殘っていない。その僅かな人間も、避難所に居て避難中の人々を守っているため、戦闘要員へ変更することはほぼ不可能だ。

となると、あと自由にくことが出來るのは僕たちだけ――ということになる。

「まだ、封印は難しいのか!?」

「正直、どうやって封印するのかはっきり分からないからなんとも言えないけれど、そう簡単にはできないのでは無いかしら。……ああ、こんなだったら事前にどうやって封印しておくのか聞いておくべきだったわね」

深く溜息を吐き反省している様子だが、はっきり言って時既に遅し。

しかしながら、実際の所、いつ一花がオリジナルフォーズを封印出來るかどうかは分かったものではない。だから今は、ただ時間が過ぎていくのを待っていくだけだ。

とはいっても、この時間が永遠に過ぎていくものではない。いつかは終わりが訪れるだろうし、また、そのリミットは僕たちの力の限界とイコールになる。

「……結局、それがほんとうに功するかどうかも危ういですがね」

ぼそり、とストライガーは呟く。

結局の所、出來るかどうか分からないことをメインにおいたところで、それを不安がることは間違っちゃいないし、正しい選択であることだろう。

「でも、やりきるしか無いですよ。……キガクレノミコトが、その力を一花に託した。ということは、それを使うことでオリジナルフォーズとの戦いが終結に導けるかもしれない。犠牲は多いかもしれないけれど……」

「それは分かっている! だが……」

僕とストライガーは、今思えば下らない話で喧嘩をしていた。

だからこそ、一花が何をしているのか、的にはあまり理解していなかった。

一つの咆哮があった。

一花は跪き、両手を合わせて、目を瞑っていた。

まるで祈りのモーションだ。

再度、オリジナルフォーズの咆哮。そのきはとても苦しんでいるように見える。

そして、変化もあった。

オリジナルフォーズのが徐々にに包まれていった。

それはオリジナルフォーズだけではない。一花のも、そのままに包まれていく。

それでも、彼は祈りを止めることは無い。

「苦しんでいる……? いや、弱っているのか!」

ストライガーはオリジナルフォーズの異変に気付き、そうび聲を上げる。

そして、僕もその異変には気付いていた。

同時に、一花に訪れた異変も僕は気付いていたし、それについては何もれることは出來なかった。

今、このタイミングでれたところで僕に何が出來るのか?

だから僕はれなかった。れずにいた。たとえそれが間違っている選択だと――知っていても。

「……見て、風間修一。石になっていく。オリジナルフォーズがゆっくりと……」

オリジナルフォーズの姿が石に変わっていく。

それは封印に功したという意味なのか。

或いは、殲滅したという意味なのか。

まだ一花が祈りを捧げている以上、その答えを聞くことは出來ない。

そしてオリジナルフォーズは完全に石像そのものとなり――きを完全に停止した。

風の吹く音だけが、ジャパニアに響き渡っていた。

「ふう……」

漸く一花は祈りのポーズを止め、立ち上がる。

「一花。あなたのおかげよ。あなたのおかげでこの世界は守られた……!」

「どうやら、そのようですね……」

しかし、まだ一花のを放っていた。

どうしてなのか?

どうして、まだ止まらないのか?

僕は訳が分からなかった。そして、それはストライガーも同じ意見を持っていたことだろう。

唯一、すべてを悟っていたのはほかならない一花だった。

「どうやら、私はもうこの世界に居ることは出來ないみたいです」

そして、彼はそんなことを僕たちに告げたのだった。

「一花。どういうことだ……? いったい、何を言いたいんだ?」

「キガクレノミコトから、私は言われていました。この戦爭を、この力を使って終わらせることで、最後のトリガーとなる。とどのつまり、私はこの世界で普通の人間として過ごすことが出來なくなる、ということです」

「……程。神格化した、ということね」

ストライガーは深い溜息を吐いて、冷靜にそう答えた。

なおも意味が分からなかったのは、僕だけだった。

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