《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十二話 死と新生⑥

ああ、そうだったか。

僕の言い方は間違っていた。確かに、僕だけの認識であればあの世界に數ヶ月は閉じ込められていたわけだけれど。

「……そうだった。うん、間違っていたよ。ホバークラフトを使って、リュージュの拠點まで向かうことは可能か?」

「當たり前だ」

そう言って、僕とバルト・イルファは強く手を握る。

目的地は――空に浮かぶ要塞、リュージュの城だ。

◇◇◇

その頃。

飛空艇の中のとある一室。メアリーはとある男と食事をしていた。

ルーシー・アドバリー。

彼はメアリーの知り合いだ。いや、もはや知り合いという一言だけじゃ片付けられないくらい、メアリーとルーシーの関係は深いものとなっていた。もっとも、メアリーとルーシーでその考えはそれぞれ食い違っているようだったが、お互いがそれに気付くことはない。

ルーシーとメアリーが食事をしている場所は、普段飛空艇の職員が使用する食堂だ。食堂とは言っても、長機が一つおかれている簡素なもので、メアリーとルーシーはその両端でそれぞれ食事をとっている狀態になっている。

「……あなたから食事にうなんて、ほんと久しぶりのことね」

沈黙を破ったのはメアリーだった。メアリーは、なぜルーシーが自分をったのかということではなくて、もう一つ、気になっていることを自分なりに解明したかった。だから、彼は食事を了承するに至った。

ルーシーは首を傾げ、笑みを浮かべる。

「そうかな? まあ、別に何か問題があったわけではないけれど。ただちょっとね、君に一つ聞いておきたいことがあったからさ。そこについて」

「そこについて?」

メアリーはルーシーの言葉を反芻する。

ルーシーはニコニコと笑みを浮かべながら、

「そう。僕とメアリー、そしてフルについてのことだよ。僕たちはずっと旅を続けてきた。世界を救うための旅を。十年前にはあんなことになってしまったけれど、ようやくそれを解決する糸口が見つかった。だから僕たちは、やっと別のことについて一區切りつける必要があると思うんだよ」

「別のこと?」

ルーシーは手に持っていたフォークを皿の上に置くと、ゆっくりと頷いた。

「……メアリー、君は僕とフル、どちらが好きなんだい?」

空気が、凍り付いた。

メアリーは何とか今の狀況を取り繕うとして、慌てながらも、極めて冷靜に話を始める。

「え、ええと……。いったい何を言っているのかしら? 別に、私はあなたもフルも嫌いじゃないわよ」

「そんなことを聞いているんじゃないんだよ、メアリー。そんな、當たり障りのないことを聞いているんじゃないんだ」

嫌な雲行きになってきた。

メアリーはそう実して、どうにかして話の流れをこちら側に持ち込みたかった。

しかして、それはもう遅いことには――メアリーは気付かなかった。

「……ねえ、メアリー。どうして君はあいつのことが好きなの? 十年間、僕と君はずっとこの世界を救うべく旅をしてきた。どうすればこの世界を救うことが出來るか、共に考え続けていた。けれど、君の頭の片隅には……いつも彼が居た。フル・ヤタクミ、そりゃあ、僕と彼、そしてメアリーはずっと世界を救うために旅をし続けてきた、大切な仲間だ。けれど、フルが居なくなってからもずっと君は僕のことを見てはくれなかった」

矢継ぎ早に、ルーシーの話は続いていく。

「だから僕は君に見てしかった。君に目線を移してしかった。けれど、やっぱり、どうしても、迷ってしまうということはそういうことなのだよね」

あはははははははははあはは!!

ルーシーは急に立ち上がり、壊れたように、狂ったように、笑い始めた。

笑って、嗤って、ワラッテ。

やがてゆっくりとその聲は止まると、メアリーを見つめる。

「メアリーは僕を見てくれなかった。一番、僕が好きだった人は僕を見てくれることはなかった。居なくなった人のことを、居ない人のことを、ずっと眺めていた。だったら、こんな世界……」

――滅んでしまえ。

その言葉を、ルーシーが言った直後、飛空艇が大きく橫に揺れた。

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