《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十四話 死と新生⑧

バルト・イルファとフル・ヤタクミの他もない會話は続いていく。

的には、生産のない會話とでも言えば良いだろうか。いずれにせよ、毒舌にならざるを得ない程會話に容がないものとなっていた。

しかしながら、それは同時に彼らの中で何か考えが浮かび上がりつつあることを意味していた。たとえばここで意味のあることを話しているならば、きっと彼らは策をそこで止めていただろうし、それ以上話すこともなかっただろう。しかし、今は違う。彼らの中で何も考えがまとまっていないからこそ、しかして話を切るわけにはいかなかったからこそ、彼らの中で話を続けていかなければならないから、そうやって容のない會話が続いていくのだった。

いずれにせよ、彼らの中の問題はただ一つ。

解決すべき問題は、たった一つだけだった。

そうして彼らはその問題を解決するべく、今はただ大地を駆けるだけだった。

◇◇◇

メアリーが目を覚ますと、そこは小さなベッドルームだった。

ベッドルームは、もともとメアリーの部屋だった場所で、それがそうであると気付くのに、彼しだけ時間を要した。

「どうしてこんなところに……?」

メアリーは彼の記憶を思い返す。

ルーシーとの會話。メアリーはルーシーの『心変わり』に疑問視していたが、徐々におかしくなっていくルーシーが告げたある一つの質問、それがターニングポイントだった。

――メアリーは僕のことが、好き?

そうして、彼は思い出した。

「そうだ……。確かあのあとルーシーの影からよく分からないものが出てきて、飛空艇が壊されて……。それじゃ、今私が居るこの空間って、いったい……?」

ゆっくりとを起こし、彼は景を眺める。

ベッドは壁に接著する形でおかれており、それ以外には何もおかれていない部屋だった。

そして、それ以外の要素を排除するかのように、無造作に床と壁と天井が千切られていた。

なぜそんな表現なのかといえば、それは破壊されたというよりも、何か大きな腕のようなもので引き千切られた――と表現したほうが正しいとメアリーが思ったからだった。

メアリーは恐る恐る立ち上がると、その千切られた端から下を眺めた。

そこに広がっていたのは、紫の空間だった。

空間はよく見ると球のようになっており、瓦礫がその球の中で浮かんでいるように見える。そしてメアリーが眠っていたベッドが設置されている床もまた、その瓦礫の一要素として浮かんでいる。

「ここはいったい……」

「ここは、あんたとあいつ以外の存在に邪魔をされたくない、と言ってあいつが作り上げた『城』だよ」

背後から聲が聞こえ、メアリーは振り返る。

気がつけばそこには一人のが立っていた。

烏帽子を被り、白と赤を基調とした服にを包んだは、メアリーにも見覚えのある存在だった。

「リュージュ……。どうしてあなたがここに……!?」

「リュージュ?」

メアリーがリュージュと呼んだは、その言葉を聞いて首を傾げる。

しかし直ぐに狀態を把握したのか、ゆっくりと目を細めた。

「……ああ。おぬしには、私がリュージュに見えるのか。リュージュといえば、神の地位を狙う祈禱師だったな。祈禱師は神のなど引き継いでおらぬ、ただ能力を引き継いでいるだけの存在に過ぎないのに、神になろうと烏滸がましい存在だ。まったくもって度し難い」

そして、同時に、リュージュのがぐにゃりと歪んだ。

まるでそれは、コーヒーにミルクを注いで混ぜていったように。

やがてその存在は、一つの結論に落ち著いた。

すべてを黒で塗り潰したのようにも年のようにも見える存在。

それがメアリーの目の前に立っていた。

「……あなたが、ハンター?」

「然様。私の名前はハンター。この世界を再生するために、活している存在だ。そうして私は今その目的を達するべくここに居る」

「達するべく……って、まさかルーシーをあんな風にしたのは」

「いいや? 確かに、方法を教えたのは私だが、その手向けをしたのはお前だろう」

「……私?」

「ああ。そうだ。お前がやったんだ。お前がやったからこそ、今があるんだろう。そうして、お前はそれを理解していないようだけれど。でも、それを理解しないなどとは言わせないぞ。お前は、あの旅の中で……フル・ヤタクミを好きになった。好意を抱いた。別にそれは悪い話じゃない。人間の心理の上では、長い間一緒に居た存在を好きになることは道理と言ってもいいだろう。しかしながら、あと一人の相手はどうなるか……という話だ。その心理は男にもにも適用されるという。それ即ち、ルーシー・アドバリーもそういう思いを抱いてもおかしくなくて?」

ルーシーも同じ思いを抱いている。

それはメアリーが初めて知った事実――ではない。正確に言えば、さっきの會談で初めて知ったとでも言えば良いだろうか。或いはそういうそぶりは見えていたけれど、良くも悪くもメアリーが鈍でそのことに気付かなかった、ということかもしれないが。

「……だとしても、それが悪いことだとは思えない」

メアリーは単刀直に、ハンターに告げた。

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