《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十五話 死と新生⑨

「……ふうん。やっぱりあんたはどこか変わっているのかもしれないね。當たり障りのない言葉で言ってしまえばそれまでだけれど、それらを無視して言ってしまえば、たった一言で片付けられる」

長々と言ったハンターは、一息ついたのちにメアリーを指差して、

「変人だよ、あんたは。いいや、正確にはあんただけじゃない。ルーシー・アドバリーも、はたまたあの予言の勇者とやらもだ。本來人間は自分のことだけ考えていればいい。それだけで暮らしていくことは出來るはずだ。……まあ、文明が進むにつれて、『思いやり』なんていうくっだらないワードが出てきてはいるけれど、それは別に無視したって何とか生きていける。煙たがられるかもしれないし、それを突っぱねることが出來るのなら、その生き方もありかもしれない」

「だけれど、人間はそんなことをしない」

メアリーの言葉に、ハンターは深い溜息を吐く。

「そう。そこが笑えないところだ。人間は自分だけの価値観で必ずしも生きていこうとはしない。自分と他人の価値観で、譲り合って生きている」

「あなたたちが理解できないのは……それ?」

「さてどうかな」

煙に巻いたハンターは口笛を吹く素振りをしながら、

「私たちはそもそもこの世界が間違った方向に突き進まないために『リセット』する立場なんだ。大洪水を引き起こしたり、隕石を墜落させたり、火山を噴火させたり……。とてもこの世界の生には対処しきれない未曾有の災害を引き起こした。もちろん、それによって生が予想外の長を遂げることもあった。滅びる存在あれば、生まれる存在もあるだろう。神は私たちにそう告げていたよ。……今となっては、それも何となく理解できるようになったがね」

「神は、ガラムドのこと? それとも……ムーンリット?」

「おや。ムーンリットの名前を知っているなんて。いったい全、どこでその報を仕れた? メアリー・ホープキン、あんたにその報が仕れられる時間なんて、なくともこの時代には無かったはずだけれど」

ハンターは回りくどく、また、わざとらしい口調でメアリーに問いかけた。

「ああ、それならね。教えてあげましょうか。昔の話よ。……リュージュの息がかかった施設に閉じ込められた時に、そんな資料を見たことがあるわ。私たちの知らない、創造主の語がね」

「まさか……シュラス錬金研究所?」

「ご名答」

メアリーは小さくウインクしてそう言った。

「ま。あの時はそんなことが真実だとは思わなかったけれど。……でも頭の片隅に殘しておいたのは正解だったわね。おかげで今の話にもきちんとついていけている」

「……ムーンリットのことを知っていようとも、それがどう逆転する要素になる?」

「ならないでしょうね。もっとも、あなたが私よりも知識を多く有しているのは間違いないでしょうから」

メアリーは歩き始める。

とはいえ、その行には意味を持たない。ただ歩くだけで彼の中の考えがまとまるのかもしれないが、そんなことはハンターが知る由も無い。

「……ならば、ムーンリットに敵対しても無駄ということは理解できているだろう? ただお前たちは私たちの行う『消滅と再生』を見屆けるしかないのだから!」

「『消滅と再生』……ね。それがどれだけ意味をなすものかははっきりと見えてこないけれど、とはいえ、あなたたちがやろうとしていることは間違っている。それだけははっきりと言えることよ」

「……分かったような口を聞いて。お前たち人間に何ができて、何をするというのか。それもわからないままやってきて、何が理想だ。何が真実だ」

「人間がいない方が、この世界のためになるというのなら……、どうして人間はこの世界に生をけたのかしら?」

「神様の気まぐれ、というやつだろう」

これ以上話をする意味がないと思ったのか、ハンターはくるりと回転して、ゆっくりとメアリーから離れ始める。

「いずれにせよ、もうこれ以上君達と話をする時間は無い。もったいないとでも言えばいいだろうね。急拵えではあったが、作戦はうまくいった。あとはこれを最終フェーズに進めるだけだ」

「最終フェーズ……ですって?」

メアリーの言葉は震えていた。

それを、彼が把握していたかどうかまでははっきりとしなかったが。

「私たちはこの計畫について、いくつかのフェーズを決めていた。そしてそれを段階付けていくことによって、より計畫の進行をスムーズにするよう心掛けた。簡単に言ってしまえば、いくつか修復できるポイントを用意しておいた、ということよ。そうしておけばなくとも修復不可能なところまで陥ることはないだろう、と判斷していた。……結果的にそれはうまくいくことになって、今のこの狀態になっているわけだけれど」

「フェーズを分けていた……。それは私たちにもわからない間に、ということね」

こくり。

ハンターはゆっくりと頷くと、メアリーを見つめてさらに話を続ける。

より深い闇の世界へと、彼っていく。

「最初のフェーズは、予言の勇者の登場だった。最初、私たちは予言の勇者をいかにしてこの世界にき出すかと思ったけれど……、それは案外簡単に『彼』がやってくれたからよしとしましょう」

「つまりフルがこの世界に呼び出されたのも……、最初からあなたたちの目論見通りだったということ……!」

「その通り♪」

メアリーの言葉に、間髪をれることなくハンターはそう答えた。

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