《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十六話 死と新生⑩

「ま、それを理解したところであなたたちには何も出來っこありませんが。それにしても、想像以上にうまくいきましたけれどね。『選ばれし勇者』を演出するだけで、ここまで騙されるなんて!」

「騙される……ですって?」

メアリーは首を傾げ、ハンターに問いかける。

「ガラムドに模した存在をあなたの夢に顕出させたのも、ラドーム學院にフル・ヤタクミを召喚したのも、そのあと上手い合に事が進んだのも。全部私たちが仕組んだからに決まっているじゃない。……それとも、あなたはまだ『神』というのを信じているクチかしら。神というよりは……そうね、『奇跡』とでも呼べばいいかしら? いずれにせよ、そんなものは最初から存在しない。私たちが裏からることによって、あたかも人間には理解し難い力が働いているだけの話。そうして、その説明し難い力を人間は『神』やら『奇跡』やら仰々しい単語で呼ぶわけ。わかった? だから、あなたたちの言うところの奇跡は、私たちが干渉したから発生しただけに過ぎないわけ」

奇跡も神も、全てシリーズが生み出したまやかしに過ぎない。

それを聞いたメアリーは、目の前が真っ暗になった。絶に覆い盡くされた、のではなくて、今まで信じていた奇跡やら神やらが、全くもってデタラメだったということに、彼は怒り心頭だった。

いずれにせよ、彼が考えていることをいくらハンターに伝えようとも変わってくれるわけもなければ変えてくれるわけもない。とどのつまり、メアリーはこの事態を自分自で変えなければならないわけだけれど。

「……さて、メアリー・ホープキン。真実を聞いてもなお、あなたは立ち向かうつもりかしら? 確かにまだ話していないけれど、いくつかのフェーズに沿って進行してきた。そしてその最初のフェーズだけを説明しただけに過ぎない。はっきり言ってしまえば、今のうちに逃げておいたほうが、あなたたちが傷付くことはない。そうでしょう?」

メアリーは考えていた。

本來ならばそんな考える暇なんて與えられるはずもなく、直ぐに発言しなければならない。

「……いいや、」

それでも。

メアリーは前に突き進む。

きちんと向き合わなければならないと思った。

「そうであったとしても、私は向き合わなければならない。フルがどういう存在であって、どうやってこの世界に呼び出されて、どうやってこの世界に赴くこととなったか。それがどれほどショックをけることだろうと……それを私が拒むことは、許されないと思う」

「尤もらしいことを言ったあとに、引くことは許されぬぞ? まあ、構わない。たとえどんな道筋を歩むことになろうとも、お前の忌まわしき筋が消えることはない。……まあ、お前自が絶やすことも可能ではあると思うが」

ハンターはメアリーを試していた。

そうして、この語を進めて良いのか、話を聞き続けて構わないのかとメアリーは思った。

仮にフルがこのままオリジナルフォーズを倒したとして、世界を平和にしたとして、それはフルが作り出した英雄譚ではない。シリーズが作り出した、仮初めの英雄譚だ。

だが、それで良いのだろうか?

フルがずっと苦しんできたのに、それを一人で背負い込んだままで良いのだろうか?

「……私は、それでも構わない」

「ほう?」

「気付いたのよ。私はずっと、向き合ってこなかったということに。フルはずっと『勇者』の重圧に押しつぶされることなくやってきた。それって……その、凄いと思う。けれど、私たちはそれには気付かなくて。それよりももっと酷いことをさせてしまった。だから、私たちはそれに贖わないといけないし、そのためにはフルのことを知らないといけない。だから……」

「人間って、何でここまでも愚かな存在なのかしら。だから滅ぼしたくなるのよね。ま、それは私じゃなくてハンプティダンプティやハートの王が決める話だけれど」

「だから、方便はどうだっていいの」

メアリーは目を瞑る。

何をしでかすのか、ハンターは予想出來なかった。

剎那、メアリーは踵を返し、走り出した。

目的地は、ルーシーの居る、その中心地。

「話を聞いてしかったんだけどなあ、私としては」

しかしながらそれでハンターの目を欺くことは出來やしなかった。

「……ハンター!」

目にも止まらぬ速さで、ハンターはメアリーの前に立ち塞がった。

「あなたは話のわかる人だと思っていたけれど……、どうやら頭が回るだけだったようだねえ。ま、別に私は人間に近付こうなんて思いはしないのだけれどね。やっぱり人間と向き合うなんてことは無理かあ……」

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