《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十七話 死と新生⑪
「とりあえず。もう話はしなくていいよね? だってあなたから逃げ出したんだから。話を聞くことの出來る唯一のチャンスを、あなた自が逃したんだから」
「……ええ、そうね。まあ、私は元から聞く気は無かったけれど」
「ふうん。いつルーシーを救えるかチャンスを伺っていたってわけね。まあ、別にいいけれど、そこまで気にすることでも無かったんじゃない? 確かにルーシーがああなったのはあなたが悪いけれど、それを悪いなんて認識していないのでしょう?」
メアリーとハンターは対峙する。
いつこの場からタイミングを見て抜け出すことができるのか、そんなことばかりを考えていた。
「言っておくけれど、もう私の目を誤魔化すことは出來ないよ。ルーシーを救うことがあなたにとっての贖罪と思っているかいないかは別として……いずれにせよ、ルーシーはもう救えない。あなたのせいでルーシーはああなったと言っても過言ではないのだから。まったく、勇者一同って案外薄者ばかりよね。勇者があんなことをしたら、勇者を敵として扱っているんだから。勇者には失敗が許されない、ってわけかしら」
「そんなこと……!」
「思ってない、なんてどうして言い切れるわけ? あなたがどう思っていようと別に問題は無いとでも思っているのかもしれないけれど、大間違い。それはあなたとしての理論で、私としての理論としては……いいや、言い直すならば、世界としてのスタンダードとしては間違っている、とでも言えばいいかしら。あなたがどう思っていようとも、あなたは無意識に勇者を傷付けたということになるかな。寧ろ、そちらの方が問題のような気がしないでも無いけれど?」
「それは……」
そこで、直ぐに答えてしまえば良かった。
答えてしまえば良かった、のに。
メアリーは直ぐに答えることが出來なかった。しどろもどろとまでは言わなくても、答えを発するためにその場で思考を停止しまったのだ。
だから、隙を突かれた。
「あなたは、無意識のうちに勇者を傷付けた。けれど、同時に、あなたの中にはそれを諌める気持ちもあった。『そんなこと言われても仕方がない』という気持ちが。逃げるという気持ちが。あなたの中にはあった」
徐々に、メアリーはハンターの言葉にのめり込んでいく。
それは彼の持つ魔力が、言葉に干渉しているのかもしれないが――そのことについてメアリーが理解しているはずもなく。
「……違う。違う、違う!」
メアリーは頭を抱える。
その場から逃げるように。
その場から、逃げ出すように。
その場から、その空間から、その世界から。
メアリーはすべてから逃げ出したくなっていた。
「……メアリー・ホープキン。あなたは祈禱師の娘として一生を歩んできた。そして、あなたは祈禱師の娘という立ち位置が嫌いだった。そんなとき、神託があった。それは、予言の勇者に仕えなさいという神託だった。……それが私たちの計畫に組み込まれていたものだということも知らずにね!」
「そんなこと……そんなことが」
有り得ない、なんて言えるのだろうか?
そんなことを言えるはずがない。メアリーは思っていた。彼だって、そんなことは有り得ないって分かっていた。分かっていたけれど、それを彼の中で客観的に肯定することは、出來なかった。
出來なかったからこそ、気持ちの整理が付けられなかった。
気持ちの整理が付けられなかったからこそ、つけいられる隙を與える結果となった。
それはすべて、彼の『甘え』が結果を生み出したことだ。
「メアリー・ホープキン。あなたはずっと逃げ続けてきた。あなたはずっと、己の運命をけれずにいた。そうして、縋るように予言の勇者――フル・ヤタクミと旅を共にした。その結果、世界が滅びる結果となった。そうして今度は『世界を復活する』という大義名分を掲げて旅を続けた。それもまた、あなたの『祈禱師リュージュの娘』という運命から逃げるため。すべて、そう。あなたはずうっと逃げ続けてきた。その生き方に、意味はあるのかしら?」
「私は……いいや、逃げてなんて……」
「ほんとうにそう言い切れるのかしら?」
歩み寄るハンター。
ゆっくりと、ゆっくりとメアリーは後ろへと下がっていく。
しかしもともとこの空間は狹い空間だったために、直ぐに彼は追い詰められていく。
「さあ、メアリー・ホープキン。いくら逃げようとしても無駄ですよ。あなたはこれ以上逃げることは出來ないのですから! 別に私はいいのですよ。認めてしまえば良いのです。逃げていたことを、リュージュの娘であることに葛藤を抱いていたと認めてしまえば。あとは楽なことですよ? あなたがどういう気持ちを抱いているかは二の次になりますが、そんなこと、私にはどうだっていい話だ。いや、寧ろ好都合と言ってもいいでしょうけれどね」
「好都合……ですって」
メアリーは薄れゆく意識の中で、何度も反芻していた。
――自分は、必要だったのか?
そうして、彼はハンターの言葉に、押し潰されるように、意識を失った。
【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われた少女の手を取り、天才魔術師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される)
***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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