《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百八十九話 死と新生⑬

ガラムドの書。

そう簡単に言ってみせるけれど、実際の所、僕もこの魔導書のすごさを理解しきれていない。それはすべてを使い切っていないから――ということもあるのだけれど、こんな人間の叡智を超えた力を軽々と使いこなすことの出來る魔法が書かれている魔導書は、人間が使う代ではないのだろうか、なんてことを考えてしまうのだ。

かつても、人間の歴史においてそのに余るエネルギーを所有した結果、爭いが起き、それが戦爭という大きなムーブメントとなった事例が、僕の居た世界でもよく繰り広げられていた。

「……それにしても、このガラムドの書というのは、オーバーテクノロジーな雰囲気がしてならないな。いったい誰が書き上げたのか? やはり、名前の通りガラムドか。だとすれば、ガラムドは魔法にも長けていたということになるが」

バルト・イルファはそんなことを僕に聞こえるような聲で言っていた。どうせ彼のことだから獨り言にはなるのだろうけれど、それにしても聲が大きすぎる。

それにしても、バルト・イルファはなぜ僕と共に行しているのか。

そしてバルト・イルファの狙いは――彼から聞いたことはなかったかもしれないけれど、おそらくは妹であるロマ・イルファを救うためだろう。

ロマ・イルファは今、リュージュと共に居る。リュージュの目的を遂行するために共に行しているのだろうけれど、バルト・イルファはもしかしたらロマ・イルファがリュージュの目的を達するために行しているということ、それ自が彼自らの意思によるものでは無いと思っているのかもしれない。

もちろんこれは彼に聞いた話ではない。だから、結局そのことに関しては推測の域を出ないわけだけれど。

「……ガラムドは不思議な存在だね」

「うん?」

バルト・イルファの言葉に、僕はそちらを向いた。

バルト・イルファは不思議そうに首を傾げて、

「だってそうだろう? ガラムドは世界を救った。そしていつ書いたかは知らないけれど、魔導書を書いた。それもその容は簡単にほかの魔法學を學んだ専門家が使えない高度な魔法ばかりが揃っているという優れものだ。……考えたことはないか? ガラムドはその時代に生きるべき存在だったのか否か、という話だよ。まあ、だからカミサマになれたのかもしれないけれど」

「それとも、神よりも上の存在が、ガラムドをカミサマに仕立て上げるために生み出した……とか?」

神に仕立て上げる。

それは考え的にとても気になるものだけれど、はっきり言って今はそんなことを言っている場合じゃない。

仮にガラムドがそういう存在であったとしても、現に今僕たちがガラムドの書にシルされた魔法を使わなければ、天空へと旅立つことは出來ないのだから、そこはシンプルに謝しなければならないだろう。

「ま。ガラムドのことはどうだって良いかもしれないね。今はそのおかげで空に向かうことが出來るわけだし」

案外楽観的に考えているんだな。

何というか、バルト・イルファの考えは未だに底が見えてこない。

そして、僕たちは――浮遊している飛空艇へと近づいていくのだった。

◇◇◇

「神の國?」

リュージュの言葉に首を傾げるロマ・イルファ。

「きっと『シリーズ』とやらも焦りを見せているのかもしれないな。想像が出來ていない方向で、この世界から時空の狹間へと旅立つことが出來るのだから」

「……それは、前にリュージュ様が話していた、あの?」

「その通りだ。この世界の周りに流れている時空の流れ……、そこから別の世界へと向かうことが出來るだろう。そしてその中には、創造神が住まう世界だってあるはずだ」

「そこへ向かえば、リュージュ様の野が葉うわけですね」

ロマ・イルファの言葉に、ゆっくりと頷くリュージュ。

の計畫は完璧だった。

完璧だったからこそ、リュージュは油斷していたと言っても良いだろうし、それによって完璧に計畫が遂行されるかどうか分からなくなる――それすらも一瞬盲目と化していた。

◇◇◇

「この飛空艇は、今からとある場所へ飛ぶ。いや、正確に言えば、とある世界へと旅立つと言っても良いだろう」

飛空艇。

メアリーが倒れた後、ハンターは笑みを浮かべながら獨りごちる。

「それで良い。それで良いのだ。……私たちは、別の視線に目を向ければ良い。今はただ、私たちの世界ではない別の世界に目を向けさせれば良いだけの話。まあ、予言の勇者がほんとうに人間を守ることが出來る程の力を有しているというならば、の話だけれど」

「それで、それは何とかなりそうかな?」

そこに、誰かの聲が加わった。

ハンターの獨り言だけだった會話とも言えないような獨白に、一人の言葉が加わった。

「あら。ジャバウォック。……もしかして私を心配して迎えに來てくれたの?」

「まさか。……正確に言えば、心配だから見に來たというほうが正しいかな。いくらモニタリング出來るからって、やっぱり帰りが遅いと心配になるだろう?」

それを聞いてハンターは失笑する。

「……ま、それもそうね。それで? 計畫は順調よ。あとは私もモニタリングに戻れば良いのかしら。文字通り、世界を壊す準備は出來たと思うけれど」

「壊すんじゃなくて、再生する。それもその手助け、だよ。目的を見失っちゃだめだ」

「……この世界の神を殺しといて、よく言えるわよね……」

ハンターの言葉に、表を持たないジャバウォックは帽子の鍔を持って答える。

「さて。無駄話をしている時間は無いよ。そろそろ向かおうじゃないか、僕たちの世界へ。神の死と、それによって迎えるこの世界の新生を見屆けようよ」

「それもそうね。……きっと、『あれ』も、目を覚ます頃かと思うし」

がるうううううううううううううううううううう!!!!

ハンターの言葉からし遅れて、地上から空を切り裂くような咆哮が聞こえた。

「ああ。そうだね。何せこの計畫には、『あれ』が居ないとなんともならない」

そうして、ハンターとジャバウォックは練習するまでもなく聲を合わせて、同時に言葉を紡ぎ始める。

「「さあ、お前の力を解き放て、オリジナルフォーズ。お前を生み出したすべてを破壊するために」」

剎那、地上から一つの線が放たれた。

それは文字通り、空を切り裂き――一つのを作り出していった。

その先に広がっているのは、完璧なる黒。誰一人として、そのの先は何も分からない。

誰しも不安を抱えるはずなのに、ハンターとジャバウォックは笑みを浮かべていた。

「きっと今頃、あの神になりたがっている祈禱師とやらもこの異変を見て、喜んでいるでしょうね」

「祈禱師。……ああ、リュージュのことだね。まあ、彼はどうなるか分からないけれど、いずれにせよ、落膽するんじゃないの? あのを通るイコール神の國に行くとは確定していないわけだし」

「……もしかしたら、違った意味での『神の國』かもしれないからね?」

ハンターの言葉に、ジャバウォックは何かを悟ったような口調で、

「その通りだ」

とだけ、言った。

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