《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二百九十七話 聖戦、東京⑦

新崎はゆっくりと息を吐いた。

「政府の記者會見はそれだけにとどまらなかった。なんとそこでジャミングがったんだ。ジャミングは外部から何らかの通信が混信することで起きるのだから、いったい何が始まるのか……と。通信はとある場所から行われているようでした。そうして、通信が始まりました」

◇◇◇

リュージュの城塞。

リュージュがカメラに向かって、顔を向けていた。

「……これで全世界にリュージュ様の言葉が屆くんですか?」

そう言ったのはロマだった。

「そうよ、ロマ・イルファ。私の野を、私の思いを伝えるためにチャネルを合わせて、強引に電波に干渉する。舊世界の技をここで生かす時がやってくるとは、まさか思いもしなかったけれどね」

舊世界の技

それは電波に報を乗せる技だ。どうやって電波を生するのかはリュージュは細かいところまで理解していなかったが、生憎技はまだ生きていた。だから使うことが出來た、ということだ。

「まあ、そんな長々しく演説をするつもりはないしね……」

「そういえば、いったいどのような話をするおつもりですか?」

「世界の滅亡を。預言するのよ」

空間が凍り付いた。

「……はい?」

ロマは今聞いたことが信じられず、思わずリュージュの言葉を聞き直した。

しかしリュージュにはそんな余裕など垣間見ることも出來なかったようで、小さく舌打ちをして話を続けた。

「だから、言ったじゃない。世界の滅亡を、今ここで預言するの。正確には確定事項だから発表するとでも言えば良いかしら? いずれにせよこの世界は滅びる運命。それは私たちが元々居たあの崩壊寸前の世界と共に。あの世界とこの世界を滅ぼし……私は新世界を創造する。そこには私の思うがままになる世界が完する」

「ちょ、ちょっと待ってください。新世界の創造? 世界の滅亡? まったく話がついていけないのですが、」

「シルフェの剣はね、ガラムドが眠っているのよ」

「は?」

「ガラムドの意思が眠っている、とでも言えば良いかしらね。あいつは死んだわ。自らの配下であるシリーズによってね。そうして今度はシリーズを滅ぼせば良い。そして、ガラムドは良心の神として存在し続けていたけれど、それは究極の剣だった。どうしてか分かる?」

「神の力が……宿っていたから、ですか?」

リュージュは頷く。

「その通り。ガラムドは良心を三つの武に分けた。それは、自らの力を分け與えたに等しい。つまりガラムドには戦う力など殘されていなかった。神なのに、たった一撃で斃されてしまうくらいには」

「……ならば、どうしてあのタイミングまで泳がせていたのですか? リュージュ様の力をもってすれば、もっと早く機會は訪れていたようにも思えますが」

ロマの考える疑問點はそこだ。

リュージュの持つ力は強い。それは彼も自覚していた。祈禱師という存在に長年固執しているのは何も権力がしいだけという理由ではない。それに見合う実力と預言をする能力があったからだ。

しかし、人々は疑問に思うことはない。祈禱師は神の言葉を代行して人間に伝える存在。とどのつまり、別に祈禱師が未來を見ることが出來るからといって、そのトリックを疑問に浮かべる人間など殆ど居るはずがない。居るということは、それはガラムドを崇拝していないということに直結するのだから。

「それは、ガラムドが力を失っていたわけではないと言うこと。戦う力がないからと言って、それ以外の力も失っているわけではない。その中で言えば、たとえば、未來を見る力。當然よね、だってガラムドはこの世界の神。未來も過去も現在も見通すことが出來る。そう信じられているのだから」

未來視。

戦う力を放棄したガラムドは未だその力を殘していた、ということになる。

「……シリーズが報復することもきっと彼は薄々気付いていたかもしれないわね。そうして、それはシリーズの崩壊を導くということも」

「なら、どうして? 止める可能も……未來を変える可能だって、あったはずでは?」

「さあ。どうしてかしらね。それは……神のみぞ知る、という話よ。ま、その神もとっくに死んでしまったけれど。つまり、あの世界にはもう神は居ない。神なき世界、私がんだ計畫の第一段階、それは完了した。だが、あの世界はそこまで進むには汚れすぎた。汚れてしまったのよ。人間の汚れ、世界の汚れ、メタモルフォーズによる汚れ……。今でも戦爭は起きるし、人々は疲弊しているし、そもそも世界の規模が小さすぎる。それはガラムドが神となった『偉大なる戦い』で分かっていた話ではあるけれど、あの世界の大きな発展は、めない。それはきっとガラムドも気付いていたことでしょう」

「だから、世界を……滅ぼすというのですか」

「ええ。何もかも、ね。正確には『宇宙創造ビッグバンのために、複數の世界を強引にぶつける』といったところかしら」

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