《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第三百二十二話 終わる世界①

「だからどうした。その考えは君だって同じじゃないのか? ガラムド」

ヤルダハオトは敢えて彼をガラムドと呼び、そう答えた。

ヤルダハオトは未だ余裕のある表を保っていたが、対してガラムドは苦しそうな表だった。それはヤルダハオトに未だ何か策が殘っているということを暗に示唆していたようにも見えた。

「君が何を考えているか、當ててあげようか。……きっと君は今、どうにかしてあの人工知能にアクセスできないかどうか考えているのだろう。確かに権限は僕と同等だから、やろうと思えば出來るだろうね。……しかしそれも、僕が『與えてやった』権限そのものに過ぎない! その意味が……もはや言わずとも分かるだろう?」

「……あなた、この世界を破壊するつもりね? 破壊して、そのエネルギーを使って『扉』を開くつもり? 老人達の戯言には従わないと言っていたあなたが、そんな世迷い言を信じるなんて」

「多次元宇宙の存在は実証されている。それはこの世界と、君が管理していた……おっと、失禮。正確には『閉じこもっていた』あの世界が繋がったことで実証されているだろう。もしも神が、ぼくたち人類よりも高い知能をもち、ぼくたち人類よりも數歩先を見據えているならば、バックアップの一つや二つは用意しているはずだ。そうとは思わないか?」

「それは、老人達が言った戯言に過ぎないはずでは……!」

「シリーズという個。あれは非常に興味深い報を教えてくれる、とても素晴らしい存在だよ。例えば多次元宇宙の肯定、例えば宇宙の終焉とその先の計畫プロット、まだ他にもあるけれど、あまり他言無用はするなとのことだったからね。取り敢えずはこれぐらいにしておこうか」

ガラムドはそれを聞いてを震わせていた。

シリーズと流を持っていたのは、何もヤルダハオトだけではない。ガラムドだってシリーズと流を深めていたのだ。

しかし、その知識は、ヤルダハオトがガラムドに開け広げたその知識は、シリーズが教えてくれることは無かった。

それをいち早く理解したのはヤルダハオトだった。

「何だい、何だい? もしかしてその報は初耳だったかな? 聞いたことがなかったかな? だとすれば、それは僕が君より優位だと言えるねえ。あれ程長い間、退屈にも近い覚を得ていたはずなのに、知らなかったんだ?」

「……五月蝿いわね。あなたが知り得ている報全てが、この世界の為になるものとは限らないでしょう? あなたはしシリーズを過信し過ぎている」

「だとしたらどうなんだい?」

なおも、ヤルダハオトは態度を変えない。

変えることは無かった。

「一つ、視點を変えてみようか・・・・・・・・・・、ガラムド。君が何を考えているのかは分からないが……なくとも人間は多次元宇宙の存在に遅かれ早かれ辿り著くんだよ。考えてもみれば分かる話だ。いずれは枯渇する資源を、増え続ける人類は分配し続けなくてはならない。それは人間の種が定められた宿命であり、終わることのない課題だよ。でもね、ガラムド、もし分ける人數が増え続けるなら、それを減らしてしまえば・・・・・・・・いいじゃないか」

「……まさか! あの戦爭も、この為に起きたというの? 減りゆく資源を有効活用する為に、先ずは人間全の數を減らしたことで……。噓、噓よ。確かにそれなら資源問題は若干ではあるけれど先送りも出來る」

「でも、先送りしたとしても、いつか訪れる終焉には変わらない」

「そこで、エルダリアの凍結を提案した……。丁度神をから切り離す研究をしていた私たちを利用して」

「その通り。ま、僕は利用されたなんて思っちゃいないけど。寧ろ好都合だった。……だって、あの五月蝿い老人どもを出し抜けるんだからね!」

ヤルダハオトは高笑いする。

ガラムドはそれを間違っていると思っていた。

ガラムドはそれが間違っていると分かっていた。

分かったつもりでいたのであって、分からないわけではなかった。

けれど、彼は、それをれるには、あまりにも遅すぎた。

「多次元世界の存在を否定していた、あの老人どもは考えが遅かった。結局彼らは僕たちの考えていた研究のテーマである『0と1の世界の構築』がいたく気にったんだろうね。そうして、それを使うことで世界を救うことが出來るだろうと思ったわけだ。……ほんと、どれだけ若者をれると思っているのだろうね! 馬鹿としか言いようがないよ!」

「……あなたは間違っている」

「いいや、間違っていないね。君の管理していたあの世界は不完全な代で、不都合ばかりが広がっていた。君も認識していたのではないかい、あの世界にも、僕たちが知りたかった未來を見つけることが出來なかったことを」

「私は……」

認識しなかった。

知らなかった。

知りたくなかった。

知られたくなかった。

知ろうとしなかった。

「でも、私は」

知りたいと思った事は無かった。

あの世界の人たちに――がわいた。

それは同かもしれない。

作された世界を、必死に生きる人たちに、自分たちの絶した未來を重ね合わせたのかもしれない。

「……もし、あの世界に僕たちを重ね合わせた、というのなら、それはただのエゴだよ」

しかし、ヤルダハオトは冷酷に、淡々と、真実を告げる。

「君のことだ。あの作られた世界を、きっと守りたいと思ったのだろう。もともと破綻していた世界だ。その世界を守るも捨てるも、管理者たる君の権限でどうでも出來ただろう。……でも君は、黙示録の通り演じきった。勇者のロールを人工知能『アリス』に與え、フル・ヤタクミを勇者たる存在へと昇華させた。流石だよ、流石と言わざるを得ない。僕なら、そんな著々と君のような計畫を立てて行することが出來なかっただろうからね」

ヤルダハオトは、ガラムドが何を考えているのか分かったつもりでいる。

しかしそれは大きな間違いだ。例えばメアリーたちが生まれ育った世界で生きた人間ならば思考を読み解くことも出來よう。だが、ヤルダハオトとガラムドは元々同じ世界の人間だった存在だ。その二人の思考を、それぞれが読み解こうとしてもそれは同位的存在のいずれかが高次元に視野を広げない限り不可能な話だ。

だと分かっていても、ヤルダハオトは分かったつもりでいた。

そうでなければ、彼の平靜が保てなかったのだ。

彼もまた――脆弱な神を抱えていたのだ。

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