食事をとり終えた一同は靜かにリビングの食卓を囲んでいいた。

勇二、未希、華夜の三人の視線は一人ののもとに注がれていた。

銀の、『魔剣サクリファイス』の霊であるだ。

ちなみにこの場には朝日はいない。

先程の夕食の際に華夜が一度席を立って部屋まで様子を見に行ったのだが、當の朝日はぐっすりと睡眠中だったのだ。

まあ、朝日自が病人であるし、第一にこれからする話の容が容なので、例え起きていたとしても朝日は部屋で安靜狀態なのだが。

「さて、それでは早速お話を聞かせていただけますか？えっと…」

沈黙が部屋を支配する中、華夜が話を切り出そうと口を開くが、突如口ごもって黙り込んでしまう。

「華夜ちゃんどうしたの？」

勇二が怪訝そうな顔で尋ねれば華夜は眉を八の字にして困ったような顔をする。

「あ、すみません。いえ、彼のことを何と呼べばいいかわからなくて……」

実に真面目な彼らしい理由に勇二と未希は納得し互いに頷く。

度々、會話の中に登場する彼だが一度として彼の名が會話の中で出てきたことはない。

「確かに、『魔剣サクリファイスの霊』じゃ長ったらしいし、何より親しみずらいしね」

「えぇ。それで、なんとお呼びしたらよろしいですか？よろしければこの際にお名前を教えていただけませんか？」

勇二の言葉に同意しながら華夜は『魔剣サクリファイス』の霊のに向き直る。

華夜のその問いにはし前の華夜と同じような表をした。

「……私に名前はありません」

「え？それってどういう……？」

「皆様は魔剣、及び霊との『契約』についてどれだけご存知ですか？」

の放った言葉に勇二と未希は首をかしげる。

そんな中、の問いに答えたのは華夜だった。

「『契約』とは意思を持った魔剣、及びその部に存在する霊との間で行われる契りの事です」

「契り？」

「はい。主となるものは自の持ちうるモノを対価として霊に捧げ、僕となる霊は捧げられた対価に応じた恩恵を主となるものに與える、というのが契りの容です」

「お、おお？」

「よくもまあ、あんなにペラペラと…やっぱり、どう足掻いても兄妹だね」

自が知っているだけの知識を自慢げに話だした華夜に勇二と未希は苦笑しながらその話に耳を傾ける。

「そうですね。大まかに言えばその認識で間違いはありません」

「よかった…」

そう言ってホッと息をつく華夜。

ですが、とは続けさまにこう言った。

「その認識には二つ、欠けているものがあります」と

「欠けているもの…？そんなはずはありません。だってこの話は兄さんから直接…！？」

途中まで言いかけて突如、何かに気づいたようにハッと顔を上げる華夜。

「まさか、兄さんはわざと欠けた知識を…？」

「正解です。私もマスターが華夜様に『契約』についての説明をしていた時に『見て』いましたがマスターは明らかにその話題を避けて説明を行っていました」

「そう、ですか…」

の言葉に辛そうな顔をして俯く華夜。

どうやら朝日に噓をつかれたのがよぽどショックだったらしい。

「……それは、今回の件と関係があるんだよね？」

「はい。私に名前がないのもそれに起因しております」

勇二はあえて今の華夜にはれずに自の疑問を口にする。

「名前か…そういえば欠けている知識って結局はなんなんだい？」

勇二の言葉には人差し指を天井に向けて立てる。

「そうですね……まず一つ目に契約の際、主となるものは魔剣の銘の他に霊に名前を付けるのです」

「…あれ？それ、おかしくない？現に君は朝日と契約してるんじゃ……」

「はい。ですから、私とマスターは実際には契約していないことになります。言うなれば『仮契約』の狀態と言うのがが正しいでしょうか」

「仮契約…？」

「ええ。『契約』というのは本來対価を捧げ『名付け』を行って初めてされるのです」

「それがされてないから『仮契約』ってこと…？」

「その通りにございます」

そう言って口元に小さな笑みを浮かべながら恭しく頭を下げるに勇二はしだけ頬を引きつらせた。

どうやら見た目十二、三歳程度のが落ち著いた腰で會話し、禮儀正しくお辭儀をする、といった場面にやり難さをじているようだ。

「ってことは、朝日はもう対価を捧げたってことだよね？」

「ええ。そうなります」

「じゃあさ、朝日は対価に何を捧げたの？」

そんな勇二の気を知ってか知らずか未希はに話の続きを促す。

「そうですね。それが、華夜様の中で欠けていた、即ちマスターが説明を避けた知識の二つ目です」

そう言って人差し指に続いて中指も天井に向ける立てた。

「捧げられるのは原則、魂か記憶、の一部が主となります」

の放った一部の言葉に華夜は聡く反応を示した

「記憶……？」

小さく零れた華夜の呟きは不思議とリビング全に響き渡った。

「華夜様。落ち著いてください。マスターが捧げたのは記憶ではございません」

の言葉にホッと安心した世に溜息を吐きだした華夜。

「というか朝日の場合、記憶って捧げられるの？」

そこに疑問を持ち出したのは未希だった。

「そうですね……結論から言ってしまうと、可能です」

「え、できるの？だって朝日は忘れないんだよ？」

確かに、朝日はこの世界に來る際に神から完全記憶能力を餞別としてけ取っていた。

記憶を対価として捧げるということは、つまり忘れるということ。

朝日は絶対に忘れることのない記憶力の持ち主。

もし朝日が『契約』の際に記憶を捧げた場合、この二つは矛盾するのだ。

「ええ。普通ならそう考えるのが妥當なのでしょう。が、この場合マスターが捧げた記憶は完全に消失します。記憶したという記憶を含めて」

「そんな……！？」

の口から出た言葉に、華夜は思わず椅子から崩れ落ちる。

彼の頭の中では大好きだった以前の兄と現在の兄が消え去っていく景が繰り返し再生されていた。

「落ち著いてください華夜様。さっきも言った通りマスターは記憶を捧げたわけではありません」

そう言って床に座り込む華夜に向けて手を差しべる。

しかし、華夜はそんな手助けなど不要とばかりに立ち上がりキッとを睨み付ける。

「じゃあ、兄さんは一何を捧げたのですか！？」

その聲音には若干の焦りと苛立ちが込めれていたことに彼は気付いていたのだろうか？

華夜の鋭い視線には特に顔一つ変えることなく先程までと同じように質問に対する答えを返す。

「マスターが捧げたもの、それは……」

「魔王討伐後における自の命、その全てです」

to be continued...