《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》4-26 朝日と
「ぁ……?」
締め切った真っ暗な部屋、その部屋の主はしだけじろぎをして目を覚ました。
「ここは、オレの部屋……?オレは一……?」
目を覚まし、素早くを起こした朝日は周囲を見回して気を失うまでの記憶を探り始める。
「たしか、劣化した魔法の強化をして……」
順々に覚醒していく頭の中でそこまで思い出すと朝日は困ったように眉を八の字に曲げた。
どうやら、その後の記憶がないことに気が付いたようだ。
「はぁ、やらかしたな。手元でも狂ったか、魔力がほとんどねぇ。これじゃあ、まともに剣一つ作れやしねぇ…って、ん?」
そこまで獨り言ちたところで朝日は自分の腰のあたりにじる僅かな重みに気が付いた。
そこにいたのは靜かな寢息を立てて眠る勇二と未希の二人だった。
よく見れば月明かりに照らされる頬や髪が僅かに汚れているのが見て取れた。
すぐ近くで眠る二人を目視したことで、朝日はようやくそれに気が付いた。
それは二つ。
一つは部屋の中に充満するの匂い。
もう一つは自のからじた僅かな違和。
朝日はハッとして己のを確かめる。
そこには朝日にとって慣れ親しんだものが消えていた。
この世界に來てからけたいくつもの傷。
治療と稱して行った『創造魔法クリエイトマジック』による無茶苦茶な合の痕がなくなっていたのだ。
魔力切れ、部屋に充満したの匂い、消えた傷跡。
そこから導き出された答えに朝日は面倒くさそうな顔をして頭を抱えた。
「っち、オレとしたことがとんだ大失敗だ。まさか、よりにもよってこいつらに見られるなんてな」
そう言って俯いたまま憂鬱そうな溜息を吐き出す朝日。
「しかもサクリファイスのヤツ、華夜にまで余計なことを言いやがって……一この後どうすんだよ」
朝日の脳裏に浮かんできたのは彼が眠っている間のサクリファイスの記憶。
彼が口にした朝日の。
魔王を倒し、この命を終えるその時までにめておくと誓っただ。
「んむぅ……?」
朝日の口から出た言葉に反応するように勇二と未希の口から僅かな聲がれた。
「はぁ、暢気に寢やがって。こちとら誰のことで頭悩ませてると思ってるんだこいつらは……」
そう言って暫くの間、半目になって勇二と未希を睨み続けた朝日はじきに小さな溜息をつく。
「いるんだろ?サクリファイス」
「お呼びですか?マスター」
そう言って朝日の傍らに現れたのは銀の。
月明かりだけが照らす部屋の中、の右目に走る青白い線が薄くを発していた。
「なぜ余計なことをした?」
「余計な事とは?」
「惚けるな。なぜ話す必要のないことを話したのかと聞いている」
「……必要な事でした。なくともあのお三方には」
「お前は俺の魔剣だ。勝手なことをするな」
「拒否します」
「おい」
「もし私に命令を下したいなら正式に『契約』を結んでください」
そのの言葉に先程まで勝気だった朝日に明らかな揺が生まれる。
「っ!」
「迷わないのではなかったのですか?」
「うるせぇ…」
「すべてを終わらせるのではなかったのですか?」
「うるせぇ……」
「この期に及んで、まだ迷っているのですか?」
「うるせぇ!」
次の瞬間、朝日は普段の姿からは考えられない表で激をわにした。
「オレだって、オレだってわかってんだよ!こんなのは間違ってるって!!」
「ならば、今すぐにでも『契約』を『破棄』しましょう。今ならまだ間に合いますよ……?」
「ダメなんだよそれじゃ!」
朝日は小さく怒鳴るようにそう言うと顔を伏せ、どこか諦めたような口調で話し始めた。
「確かにお前との間にある『契約』を『破棄』したなら、オレはこいつらと、なくとも昔みたいに、或いは今みたいに笑って過ごせるのかもしれない。だけど…」
「それは、『本』が見るべき景だ。オレが居るべき場所じゃない」
その會話は事を知らぬものからすれば、全くもって意味の分からない會話に聞こえるだろう。
いや、たとえ事を知っていたとしてもこの二人の會話の容を窺い知ることができるかどうかは分からない。
一見、言葉足らずなこの會話。
それがり立っているのはひとえにこの二人が借りとはいえ魂で繋がった者同士であるからだ。
そして、その會話の中心に位置するのは事の発端。
朝日との間に存在する共通のだ。
そして、朝日とはお互いに『ソレ』を一切の會話の中に出すことはない。
まるで、それが暗黙の了解とでもいうように會話は続いていく。
「貴方は理解しているのですか?下手をすれば目的を果たすことなく死ぬのですよ?」
「そんなことは百も承知だ。だが、なくともオレはそこに居るべきじゃない」
「……貴方は、何も理解していないのですね」
「いいや、わかってるさ」
「いいえ。貴方は何も理解していません。貴方が見ている世界と他の人が見ている世界が違うということが全くもって理解できていません」
「なに……?」
朝日が顔を上げたとき、既にの姿はそこになかった。
その後、しばらく朝日は何かを考えるように宙を見つめていたが、思い出したようにやってきた頭痛に思わず頭を抱える。
「ちっ、らしくねぇことしたせいか。……あれこれ考えんのは調子が戻ってからだ。このままじゃ、どうせ藪蛇だ」
額に浮かぶ汗を枕元に落ちていたタオルで拭きながら再び橫になる朝日。
數秒後には部屋の中に規則正しい寢息が響き渡る。
既に眠りに落ちた朝日は気付いていない。
朝日の布団に頭を垂れて眠っていた二人がとっくに目を覚ましていて、朝日との會話を聞いていたことに。
こうして嵐の夜は過ぎていく。
嵐が過ぎ去った後の空に一どのような景が待ちけているのか...
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