《魔法陣を描いたら転生~龍の森出の規格外魔師~》51 決著と涙と大好き
俺と狂暴竜の戦いは激しさを増していた。
「火よっ! 風よっ!」
俺の翼の前に展開されるそれぞれの魔法陣から、火の槍、風の槍が放たれる。狂暴竜は火の槍を避けるが、風の槍までは避けきれず右足に直撃する。
「グゥギャアオォォ!!」
そろそろ、限界か……あいつも相當なダメージをけているはずだ。ここで、一気に決める!
「求めるは火。業火よ、裁きの緋弾となりて降り注げ」
『インフェルノシュロート』
俺の目の前に展開される魔法陣から、緋をした炎の散弾が撃ち放たれる。狂暴竜は逃れられない。炎の弾が著弾したところからぜる。次々と降り注ぐ炎の弾。
「グゥギャアオォォ……」
俺の全力の攻撃に耐えきれず、狂暴竜は真っ逆さまに地へと落ちていく。俺はその後を追いかけるように地面へと向かう。偶然にも先ほどと、そこまで離れた位置ではないところに狂暴竜は落ちた。
俺はセレーナの近くに降り立つ。セレーナに「もうしだけ待ってていてくれ」と伝えると、俺はしずつ狂暴竜へと近づく。
上級魔法を食らわせたはずなのに、狂暴竜はまだ生きていた。しかし、蟲の息と言えるほどに弱っていた。
俺自も、限界が近いことをじる。俺は殘りわずかな魔力を振り絞り、魔法を使う。
「氷よ」
創り出したのは氷の長剣だ。俺は氷の長剣を両手で持つと、振り上げ構える。
「これで最期だ……」
俺は全神経を剣へと集中させ、この一太刀に全てを込める。
「はぁっ!!」
振り下ろした長剣の刃は狂暴竜の首を捉え、斷ち切る。頭とが切り離された狂暴竜は、狂暴の二文字がしもじられない。
倒せた……か。セレーナのところに……行かなく、ちゃ……。
俺は倒せた安心からなのか、それとも戦いの疲労のせいなのかフラフラとなってしまう。それでも、セレーナの元へ行きたいという気持ちだけで、前へと進む。
「セレーナ……お待た、せ……(バタリッ)」
「キュウっ!!」 (ユーリくんっ!!)
遠のく意識の中で、セレーナのび聲が聞こえる。しかし、音が小さい。ボリュームボタンがあるなら、プラスを連打しているところだ。
俺は眠くなってしまう。
こんなところで寢たら、母さんに怒られちゃうな……ははっ……。
***
「ユーリくんっ! ユーリくんっ!! 起きてよっ! ユーリ……くんっ……」
わたしはユーリくんを揺さぶり、必死に意識を戻そうと呼びかけるが応えてくれない。
ユーリくんはあの竜を倒した。わたしはユーリくんが現れてから一度も聲をだすことができなかった。それは恐怖もあったのかもしれないが、それよりもユーリくんの強さに魅せられていたからだ。
蒼い翼を羽ばたかせ、まるで龍が飛んでいるかのように舞い、手足のように魔法を使う姿は――英雄と呼ばれる者のように見えた。
火を、水を、風を、土をその他にも、たくさんの魔法を繰り出すユーリくんは伝説の、龍神アミナス様なのではないかと思ってしまうほどに強かった。
そして狂暴竜の首を切り、わたしの元へ歩いてきてくれたユーリくんは倒れてしまった……。
ユーリくんの背中を見ると、肩から腰まで一直線に大きな切り傷があった。きっとこれは、わたしを守ろうとして庇ったときの傷だ。
わたしはユーリくんの上半を起こし、抱き締める。
ユーリくんっ……。
わたしは泣きそうになるが、泣いても何も変わらないと思い堪える。しかし、わたしの中に広がる不安は止まることなく、わたしを支配していく。心が苦しい。
ユーリくんがいなくなる……そんなこと耐えられないっ!
いやっ! いやっ! 嫌だっ!!
ユーリくんっ!! ユーリくんっ!!
『お願いだから……起きてよ。ユーリくん……』
込み上げる想いが、思わず涙となってユーリくんに落ちる。ポタリ、ポタリと落ちる雫は、キラキラと輝く。
ユーリくんを救いたいという気持ちに、わたしの魔力が反応する。わたしの中から激しく流れ出ていく魔力は、ユーリくんを包み込む。
わたしは何故かそれが、ユーリくんを癒すことができるとわかる。魔力を止めることなく、ただひたすら流れ出る魔力にわたしは想いを込める――ユーリくんを助けて!
薄い蒼の魔力は優しい溫かさがあった。しばらくすると、ユーリくんにあったり傷、切り傷、痣あざが消えて……癒えていく。
ユーリくんは戦う前と同じ、むしろそれよりも健常な狀態に戻っているように見える。
「ユーリくん……ユーリくんっ」
***
……ん、あたたかい……何だろう、すごく安心する。そう言えば、セレーナと二人で花畑に行って、寢っ転がったときに似てるなぁ。ポカポカして、優しい気持ちになれる。そんなじだ。
――……りくん……ゆーりくん……ユーリくんっ!
「セレーナ?」
「キュウーーっ!!」 (ユーリくぅーーんっ!!)
目を覚ますと、目の前に――めっちゃ顔が近い――セレーナがいた。セレーナは俺が目を覚ましたことに驚き、そして抱きつく。
「ちょ、ちょっと苦しいよ、セレーナ」
「キュウっ、キュキューウ」 (あわわっ、ごめんね、ユーリくん)
「大丈夫だよ……ありがとう、セレーナ。セレーナが治してくれたんだよね」
何となくわかる。セレーナの中にある魔力と似ていたから……それにしても、セレーナは――治癒龍の龍人だったのか……。
――『治癒龍』それは、今は滅びたと云われている伝説の龍種。あらゆる病、怪我、神までも癒すことができると云われている龍。それが『治癒龍』。
しかし、治癒龍の心臓は不死の力を與えるとされていて、それを知った多種族が多くの治癒龍を殺した。治癒龍の數は一匹、また一匹といなくなり、最後には絶滅した。龍人もその対象に変わりはなかった。
推測が正しければ、セレーナは祖先返りをした龍人。龍人は必ずしも、親と同じ龍種の力になるとは限らない。それは、セレーナのように祖先のが影響することがあるからだ。だが、大抵の龍人は両親、もしくは祖父母と同じ龍種の力をけ継ぐ。
セレーナがあの膨大な魔力を保有していた理由も、治癒龍の力に目覚めかけていたからだと言える。それほど、治癒龍の生命力、魔力は龍種の中でも高位の存在だ。
「キュウ……キュウキューウ」 (うん……本當に良かった)
セレーナは安心しきってしまったのか、コテンと地面におをつき座ると、ポロポロと泣き出してしまう。
「せ、セレーナ? な、泣かないで」
「キュ? キュキューウ」 (あれ? 嬉しいのに、何でだろう)
俺は優しくセレーナを抱き締め、頭をでる。ヨシヨシと、よく頑張ったねと、でる手に想いをのせて……。
「キュウ……」 (ユーリくん……)
「なに? セレーナ」
俺はらかに言葉を返す。
『大好きだよ』
『うん……セレーナ』
『なに?』
『大好きだよ』
セレーナがキラキラと輝きだす。このは、転生してから何度も目にしてきただ。実に幻想的ファンタジックで、この世界だからそこありえること。
魔法が存在すると信じていた。だけど……心のどこかではありえないことだとわかっていた。それでも、それでも……自分の気持ちに噓はつけなくて。夢や幻想、悪く言えばただの妄想。フィクションの世界で描かれる力に、夢を見ていた。
でも、それが現実リアルになった。それだけで、生きてきて良かったと思えた。それだけじゃなく、この世界は俺に『幸せ』というものを教えてくれた。
そして、大好きな人、大切な人ができた。
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