「パンが調合してくれたはちみつ、すんご味かったぞ〜」

「本當！？ やったぁー！ ヒグさんに認められれば本だね！」

「かっかっかっ！ 殘念だったね、パン。ヒグは、はちみつなら何でも味い味いって食べるんだよ。はちみつに関してはバカ舌さね」

「ええー！？ マーレさん、そんな酷い！」

「ほっほ。そんだな〜。はちみつは何でも味いぞ〜」

「ヒグさんまで！！」

――ヒグさんが笑っている。

「パン、いい？ 男には、惚れても絶対びちゃ駄目よ？ むしろ突き放すくらいが丁度良いんだから。覚えておいて」

「えっ…… それ本當ですか？」

「本當よ。百戦錬磨の私を信じなさい」

「あっ、もしかして…… ラアナさんがフェイスさんにする態度も、実は……」

「いやいやいや、ないないない。あれは本心よ」

「え、ええ？ じゃあ、相手はどうやってラアナさんの本心を見分けるんですか？」

「それはね、パンが本気でしたら分かると思う。隠しても自然と態度に出ちゃうから」

「そういうものですか」

「そう。そういうものよ。ふふふ」

――――ラアナさんも笑っている。

「パン先に行ってるぞ〜」

「ごめんね、パン。最後まで守ってやれなくて…… 元気でね」

――――――もうここにはいない、二人の笑顔が、純白のに包まれて消えて行く。

「ま、待って…… 行かないで……」

必死に手をばす。

屆かないと分かっていながらも、二人とお別れしたくない一心で手をばし続けた。

「行かな…… い…… で……」

気が付けば、わたしは宿のベットの上で、天上へ向けて手をばしていた。

涙が溢れ、頬を伝って枕のを変えた。

「夢……」

溢れた涙を手で拭う。

そして。

また涙が溢れた。

◇◇◇

一通り泣いて満足したわたしは、赤く腫れた瞼をフードで隠しながら、気分転換に外へ出掛けました。

當てもなくブラブラと散歩した後、結局はギルドの資料室に到著。

（やっぱり調べしてる時が一番落ち著くなぁ）

マサトさんが持っていた紅のポーションは、3等級ポーションで間違いありませんでした。

資料には、こう記してあります。

『レッドポーション――3等級回復魔法に相當する紅のポーション。効果：瀕死蘇生。死んだ直後なら、その者の死をなかったことにできる驚異の回復力を持つ、神級ゴッズの魔導アーティファクト』

（神級ゴッズ…… マ、マサトさん、そんな凄いを、わたしたちに分けてくれたなんて……）

わたしの命一つ程度じゃ、到底足しにならないくらいの代でした。勿論、一生奴隷として働いたとしても、とても返済できる程度の価値ではないです……

資料には、更にこう記されていました。

『フログガーデン大陸の西、大海を越えた先にある大陸にて、発見の記録あり。古代跡より発掘されたそれは、寶石のように、紅に輝いていたとされる。しかし、この奇跡のレッドポーションが元兇で戦が起こり、いくつもの國が滅んだ過去があることから、かの大陸では、レッドポーションを「悪魔の紅い贈りデーモンズレッドギフト」と呼び、所持及び売買を固くじる法がある』

（悪魔の紅い贈りデーモンズレッドギフト……）

資料を見ながら、終始固まっていたわたしが視界にらなかったのか、同じように調べをしていた冒険者の二人組が何やら會話を始めました。

「そういえばさぁ、熊の狩人ベアハンターが巖熊ロックベア討伐に功したらしいよ？」

「えっ！？ 火傷蜂ヤケドバチの捕獲だったよね！？ 何で巖熊ロックベア！？」

「それがさぁ、ギルドの報告だと、巖熊ロックベアは火傷蜂ヤケドバチと共生関係にあったみたいで、巖熊ロックベアが火傷蜂ヤケドバチの巣を作って、火傷蜂ヤケドバチは巖熊ロックベアの餌を運ぶんだってさ」

「え？ ええっ！？ ちょっと待って、巖熊ロックベアは確かＢ+で、火傷蜂ヤケドバチがＣ+よね？ その二つが共生関係って相當危険じゃない！？」

「そう。危険も危険よ。その事前報なしに討伐行ってたら、確実に死が待ってるわよ」

「怖ぁ…… あ、でもそれを討伐したんでしょ？ 熊の狩人ベアハンターがＢランクパーティで、熊討伐専門って言っても、流石に火傷蜂ヤケドバチと巖熊ロックベアを両方相手するのは無理なんじゃない？」

「私もそう思ってるいたんだけどさぁ。火傷蜂ヤケドバチ捕獲したどころか、巖熊ロックベアの討伐も功させたらしいよ？」

「本當に！？ 熊の狩人ベアハンター凄い……」

「でも、代償も大きかったみたいねぇ」

「代償？」

「熊の狩人ベアハンター、二人死んだらしいよ」

「そっか…… それは辛いね。他のメンバーも重傷？」

「それがさぁ、他のメンバーは無事なんだって。二人も死ぬような激戦で他は無事って、私はなんだか引っかかるんだよねぇ」

「奇襲されて、最初に二人失ったとかじゃないの？ 現場じゃ珍しくないでしょ？」

「それもそっかぁ。話によると、流離さすらいの風に臨時で加した新人ルーキー達が全員死んだって話だし」

「えっ？ 何でそこで流離さすらいの風が出てくるの？ 熊の狩人ベアハンターと三葉蟲トリロバイトの共同任務っていうのは知ってるけど」

「どうやら、橫取り狙ったらしいよ」

「ええっ！？ 橫取り！？ 流離さすらいの風が！？」

「あくまで噂だけどね。任務中の橫取りは流石にやらないだろうけど、熊の狩人ベアハンターが全滅したところを狙ってーとかありそう」

「そんな上手くいくかなー？」

「まぁ、あくまでも噂よ。噂」

「噂ね。それはそうと、巖熊ロックベアの討伐っていくらくらいになるのかな？」

「討伐依頼っていっても、ガルドラのモンスターは、街道近くとかに出てくるとかないから、討伐というより、希素材の剝ぎ取り依頼がメインだと思うし、そんなに高額にはならないと思うけど」

「えー、じゃあ何で危険を冒してまでそんなとこまで狩りに行くのよ」

「熊の狩人ベアハンターといえば、熊に蜂でしょ？ どうせ。で、三葉蟲トリロバイトは火傷蜂ヤケドバチと。酔狂だよねぇ。それで死んでも本なんでしょ」

「仲間の命賭けてまでやる事じゃないよね。やっぱり仲間は慎重に選ばないと……」

「あんたがそれ言うのぉ？ あんたの彼氏、この前何したんだっけぇ？」

「あっ！ それは言わない約束でしょ！」

「さぁ、どうだったかなぁ」

「あっ、ちょっと待ちなさい！ 待てー！」

そう話をしていた二人組は、バタバタと騒がしいじで部屋から出て行きました。

わたしは二人が去るのを、じっと黙って待ちました。

（……そろそろみんなとの待ち合わせ時間だ。行かなくちゃ）

マサトさんの手柄が、まるで熊の狩人ベアハンターの手柄のように噂されている。

その事実に、申し訳なさやら恥ずかしさをじて、がズキンと痛みました。

肩に重荷を載せたかのように、がずっしりと重いです。

わたしは痛むを両手で抑えながら、資料室を後にしました。

◇◇◇

「全員、集まったか」

ワーグさんが、椅子に座ったみんなを見回しながら話し始めました。

すると、マーレさんが真っ先に応じます。

「なくとも、マサトのおで、は健康そのものなんだ。それに、皆、仲間の死が辛いってだけで寢込むような覚悟でやってないさね」

「そうだな」

部屋に、再び重い空気が漂いました。

忘れたくても忘れられない “あの日” を思い出したからだと思います。

「皆に集まってもらったのは、他でもない。マサトに使ってもらった回復薬――レッドポーションの代金について、だ」

ワーグさんの言葉に、みんなの表が沈みました。

みんな、不安気です。

すると、マーレさんが恐る恐る聞き返しました。

「……で、実際はいくらくらいするんだい？」

その問いには、わたしが答えます。

「わたしが調べてきました」

わたしは先ほど調べてきた容を全て話しました。

その容に、みんなの顔から徐々に生気が抜けいきます。

「神級ゴッズ…… だ…… と……」

「瀕死…… 蘇生……？」

「悪魔の紅い贈りデーモンズレッドギフトって、な、何でござるか……」

セファロさん、ジディさん、ラックスさんの顔が引き攣ります。

すると、フェイスさんが乾いた笑いをあげました。

「はは、改めてそういわれると、とんでもないものを使わせちまったって気持ちになるね〜。でも、パンちゃんの話が本當なら、お金で買えるような代じゃないって事だろ？ これって、助けてもらった対価を払えないってことじゃないか？」

フェイスさんの問いかけに、ワーグさんが頷きます。

「うむ」

そしてしの間を置いてから、ワーグさんは呟くように次の言葉を発しました。

「ローズヘイムで過去に最高額で落札された魔導アーティファクトですら、産級レガシーで、価格は1000萬Gだった。今回の品が、今では失われた古代魔法ロストマジック――第3等級魔法に匹敵する品だとするのであれば、なく見積もっても1個5000萬Gだそうだ。労働奴隷として、マサトに生涯仕えるしか道はないだろうな」

「結局、それしか選択肢がないなら仕方ないさね」

「あれ、姐さんが反対しないとか意外だ。こういうことは、真っ先に反対するとばかり……」

「フェイス、あんたももうし人を見る目鍛えな。あたしだって乙だよ。死に間際に颯爽と助けに來てくれる王子様に、憧れる気持ちだってまだ殘ってるんだよ」

「……乙」

「あん？ 何か言ったかい？」

みんなが、ガヤガヤとそれぞれが不安や不満を話し始めました。

なので、わたしは――

「わたしは、労働奴隷になります。マサトさんの労働奴隷に。大切なみんなの命を救ってくれたから。その恩はちゃんと返さないと」

わたしの言葉に、みんなが驚いた顔をしました。

でも、マーレさんはそんなわたしを見て、大笑いしながら頷いてくれました。

「かっかっか！ 良いじゃないのさ！ まさか、ここにいる腑抜けの男共なんかより、パンの方が一番肝が據わってるさね」

「腑抜けって、そりゃないぜ姐さん。まっ、マサトっちが助けに來なかったら、全滅していたのは確かだし、レッドポーションを使ってくれなきゃ、ワーグさんや姐さん、それにおれっちやジディちゃんも確実に死んでたのも間違いない。労働奴隷になる覚悟は、おれっちだってもう出來てるよ」

「ほぉ〜、あのフェイスがねぇ〜。因みにあたしは奴隷でもけれるつもりだよ」

「……げ、それは何て拷問」

「ああん？ フェイス、さっきからちょいちょい気にる発言差し込んでくるじゃないのさ。後で覚悟しておきな！」

「な、ほ、本の冗談だって。嫌だなぁ、姐さん、落ち著こう？ な？」

マーレさんとフェイスさんはさておき、三葉蟲トリロバイトの三人も、ジディさんが真っ先に労働奴隷になることを決意すると、渋々といった表で頷きました。

踏み倒すことも出來ないことはないですが、その場合は、代償として冒険者としての資格を失います。相手によっては、命を狙われることも……

でも、マサトさんはきっとそんなことしません。

だって、レッドポーションを使わずに売れば、労働奴隷ですら複數買えるだけの代だったんです。

労働奴隷がしくて、わたし達を助けたんじゃないことは明確です。

結局、熊の狩人ベアハンターと三葉蟲トリロバイトの全員が、マサトさんの労働奴隷となることで同意しました。

みんなは不安気です。

それは仕方ないと思います。

でも、きっと大丈夫。

また、みんなで冒険できるようになります。

だって、マサトさんは――

（もう一度、會いたいな…… 會ってちゃんとお禮を言いたい…… の救世主様に……）