《引きこもりLv.999の國づくり! ―最強ステータスで世界統一します―》引きこもってたら強くなってました
「なににビビってるのか知らねえが、おまえはここで死ぬんだぜ。おとなしくしてろや」
「へ? 俺ここで死ぬの?」
オークのドスの効いた聲に、シュンは目を點にする。
だって困るのだ。
別に生への執著があるわけではない。人生の大半を自室で過ごしていた彼にとって、これといって目標もない。
単純に死にたくない。
というより、貞のまま死にたくないのだった。
「そりゃあ困るなぁ。村に返してくれよ」
「はあ? 馬鹿かテメェは。さっきの話を聞いてなかったのかよ」
オークはオホオホと太い鼻を鳴らして言った。その息づかいが、なんだかさっきの悪夢に似ているようで、シュンは思わずぞくりとする。
「テメェらは《勇者》を殺すための人質なんだよ。返すわけねえだろうが」
「ふざけんな。人質になんかなりたくねえぞ俺」
「は、話の通じねェ奴だな……」
シュンの常識外れな発言に、さしものオークも呆れを隠せない。
「逃げようたって無駄だぜ。村人はみんな、別の牢屋に捕らえてある。ひとり殘らずな」
「ほぉん?」
「かといって、《勇者》の助けなんか期待するんじゃあねえぞ。奴は今日、ロニン様によって殺される運命なのだ!」
うっせー豚だなぁ。
シュンは小聲で悪態をつく。幸いにも豚には聞かれなかったようだ。
「で? そのロニンって誰よ」
「知らないのか? 魔王様のお子にして、魔王様に次ぐ実力者だぞ!」
「ほーん」
ーーってことは、そのロニンって野郎が事件の首謀者か。
シュンはにたりと笑うと、右手で鉄格子を摑んだ。
「じゃあ、そのロニンって奴をぶっ飛ばしにいくとするか」
「……は?」
オークは數秒目を瞬かせると、弾けたように大笑いをした。
「わっはっはっは! テメェがロニン様を倒すだって? 馬鹿か! ただの村人が、魔王様のお子に勝てるわきゃねえだろうが!」
「はは……そうかな?」
ただの村人。
まさにその通りだ。
しかし、だからこそーーシュンは他の者にはない強さを抱えていた。
當のシュンは預かり知らぬことだが、この《世界》において、引きこもりは彼ぐらいしかいない。若い者は働かなければならないーーという観念がかなり強いからだ。
その狀況にあって、シュンは他の者にはないスキルを持っていた。
すなわちーー引きこもりレベル999。
數年間も引きこもっていた彼にしか持ち得ないステータスである。
この事実を彼が知ったのは、つい昨日のことだ。
昨晩のモンスターの襲撃において、シュンはかすり傷ひとつけなかった。オークが全力で振りかぶった棒さえ、彼にとってはすこしかゆかっただけだ。あまりにちょろくて居眠りしてしまうほどに。
自のステータスに浮かぶ、《引きこもりレベル》。
どうせたいしたことないだろうと思っていたステータス。
だが、これしか考えられないのだ。自分の化けじみた強さは。
シュンは鉄格子を摑むと、
「そいや」
軽く力をれてみた。
途端。
バキン!
乾いた音を響かせながら、鉄格子の一部が破壊された。シュンの右手には、砕かれた鉄片が握られている。
「ば……馬鹿な……」
格子の向こうで、オークが數歩後ずさる。
「俺でさえビクともしない牢屋を……そんな、馬鹿な……。おい、聞いてねえぞこんなの……」
「バカバカうるせえよ。これが現実だ」
シュンはもう一度、次は拳を鉄格子に打ち付ける。
彼の拳から放たれた衝撃が、波のように鉄格子に広がっていき。
またしても、バキンという音を響かせながら、鉄格子が全壊した。
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