「これは……」

シュンは食いるように文字列を凝視した。

――引きこもり。バランス崩壊のため要訂正――

これはいったいなにを意味するのか。  

たしかに《引きこもり》はステータスアップこそ鈍いものの、圧倒的な長速度により、まさに最強職業といっても過言ではない。その恩恵があったからこそ、いまのシュンがある。

「お気づきになりましたか」

いつの間にかシュンの隣に回り込んでいた球が、機械的な聲音で告げてくる。

シュンがこくりと頷くと、球はそのまま話を続けた。

「《引きこもり》というのは、そもそもが創造神ディストが誤って作してしまったシステムなのです。あなたもわかっているでしょう？　《引きこもり》の強さはあまりに理不盡、まったく理にかなっておりません」

「……ああ、そうだな……」

たしかトルフィンも言っていた。

剣士や魔師のように努力する必要もなく、ただ寢ているだけで強くなってしまう《引きこもり》は、いわゆるチート的存在だと。この世界のシステムは理不盡だらけであると。

と言われても、當時のシュンにはピンと來なかった。生まれてこの方、ずっとこの世界に住んできたのだ。職業システムの欠陥など考えたこともなかったし、そもそもトルフィンから聞かなければ、チートという言葉さえ知らなかった。

「創造神ディストは遊んでいたのです。転生者たるトルフィンさんを貴方たちに授けることで、いったいどんな反応を示してくれるかと」

「へっ、なるほどな」

シュンはひょいと肩を竦めると、次なる疑問を球に投げかけた。

「これを見る限り、ディストは気づいていたんだな。《引きこもり》がいかにチートなのか」

「その通りです」

「……なら、なんで訂正しなかったんだ。これも遊びだったってのか」

「それもあるでしょう。ただ一番の理由としては、ディスト自の油斷といえます」

油斷。

珍しい。

あの抜け目のなさそうな男が、果たして油斷なぞするものだろうか。

そんなシュンの心境を見越したかのように、球は続けて言葉を発した。

「あなたならわかるでしょう。引きこもりとは、とにもかくにも向的なのです。仮に凄まじいステータスを手にれたところで、たいした問題にはならないと創造神は踏んだのです」

「……そうか。なるほどな」

に沁みる言葉であった。

実際にもそうだ。魔王ロニン、勇者アルス、王セレスティア……様々な人との出會いがなければ、シュンはいまでも親の臑すねをかじっていたに違いあるまい。

シュンは思い出した。泣きながら部屋の扉を叩いてきた母親を。懸命に社會復帰させようとしてきた父親を。

そして訳もわからないまま、創造神ディストに世界ごと消されていただろう。

と、そこでふいに、いままで事務的だった球の聲がやや傷を帯びた。

「面白いではありませんか。引きこもりと蔑さげすまれてきた者が、いまや世界最後の希なのです。……シュンよ。あなたも過去にコンプレックスをお持ちでしょう。ですが、気にすることはありません。いくらでも人は変われます。どうか……世界を守ってください」